平成24年版 消防白書

2.火災原因調査等及び災害・事故への対応

(1) 火災原因調査及び危険物流出等の事故原因調査等

ア 火災原因調査及び危険物流出等の事故原因調査等の実施

消防防災の科学技術に関する専門的知見及び試験研究施設を有する消防研究センターは、消防庁長官の火災原因調査及び危険物流出等の事故原因調査(消防法第35条の3の2及び第16条の3の2)を実施することとされており、大規模あるいは特殊な火災・危険物流出等の事故を中心に、全国各地においてその原因調査を実施している。また、消防本部への技術支援として、原因究明のための鑑識*1、鑑定*2、現地調査を消防本部の依頼を受け共同で実施している。

*1 鑑識:火災の原因判定のため具体的な事実関係を明らかにすること
*2 鑑定:科学的手法により、必要な試験及び実験を行い、火災の原因判定のための資料を得ること

平成23年4月以降に実施した火災原因調査等は第6-2表のとおりである。また、平成23年度に行った鑑識は70件、鑑定は32件である。

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主な原因調査は次のとおりである。
平成23年9月に茨城県常総市内で発生したNAS電池(ナトリウム硫黄電池)の火災においては、消火のための助言を行うとともに、火災原因調査を消防本部の依頼を受け共同で行った。
平成24年4月に山口県内の石油コンビナートで発生した化学工場の反応釜の爆発火災(死者1名、負傷者22名)においては、消防本部から消防庁長官への依頼に基づく火災原因調査を行った。
平成24年5月に広島県内のホテルで発生し宿泊客等が死傷した火災(死者7名、負傷者3名)においては、消防庁長官の自らの判断による火災原因調査を行った。
平成24年9月に兵庫県内の化学工場で発生したアクリル酸製造施設の爆発火災(死者1名、負傷者36名)においては、消防活動に関する技術的支援を行うとともに、消防本部から消防庁長官への依頼に基づく火災原因調査を行った。

イ 火災原因調査及び危険物流出等の事故原因調査の高度化に向けた取組

近年の火災・爆発事故は、グループホームや個室ビデオ店のような新しい使用形態の施設での火災やごみをリサイクルして燃料を製造する施設での火災、あるいは、電気用品や燃焼機器などの製品の火災など、複雑・多様化している。また、石油類などを貯蔵し、取り扱う危険物施設での危険物流出等の事故や火災発生件数は増加傾向にあり、危険物施設の安全対策上問題となっている。
このような火災・事故を詳細に調査し、原因を解明することは、火災・事故の予防対策を考える上で必要不可欠であり、そのためには、調査用資機材の高度化や科学技術の高度利用が必要である。
このため消防研究センターでは、走査型電子顕微鏡、デジタルマイクロスコープ、X線透過装置、ガスクロマトグラフ質量分析計、フーリエ変換型赤外分光光度計、イオンクロマトグラフなどの調査用の分析機器を保有し、観察する試料や状況に応じて使用する機器を選択し、火災や危険物流出等事故の原因調査を行っている。
これらの高度な分析機器を用いることにより、火災の原因調査では、現場から収去した残渣物や粉塵について、成分分析、熱分析、粒度分布、消防法の危険物の確認試験などを実施し、総合的に発火源の推定を行っている。また、危険物流出等の事故原因調査では、危険物施設の破損箇所の金属組織や腐食生成物(錆)、漏えいした油、腐食環境となる地下水の成分分析などを行い、原因の推定を行っている。
さらに、消防研究センターでは、高度な分析機器を積載した機動鑑識車を整備し、火災や危険物流出等事故の現場で迅速に高度な調査活動が行えるような体制もとっている。
また、平成24年6月に消防法の改正が行われ、火災の原因調査のため、消防本部は、火災の原因であると疑われる製品の製造業者等に対して資料提出等を命ずることができることとなり、消防本部が製品の火災原因調査において果たすべき役割が大きくなった。消防研究センターで実施する鑑識・鑑定では、電気用品、燃焼機器、自動車などの製品に関するものが多く、これらの火災原因調査に関する消防本部からの問い合わせにも随時対応しており、消防本部の火災原因調査の支援のため、設備や体制の整備を図っていくこととしている。

(2) 災害・事故への対応

消防研究センターでは、火災原因調査及び危険物流出等の事故原因調査に加え、災害・事故における消防活動において専門的知識が必要となった場合には、職員を現地に派遣し、必要に応じて助言を行うなど消防活動に対する技術的支援も行っている。また、消防防災の施策や研究開発の実施・推進にとって重要な災害・事故が発生した際にも、現地に職員を派遣するなどして、被害調査や情報収集等を行っている。
災害・事故における消防活動に対する技術的支援としては次のようなものを実施している。
東日本大震災後の被災地では、震災で発生したがれきの仮置場や集積場での廃棄物の保管時に、消火困難な火災が相次いで発生したことから、平成23年10月に、このような火災を早期に収束させるための消火活動上の留意点をまとめ、消防研究センターのホームページに掲載し、消防機関等に向けて情報提供を行った。
平成24年5月に新潟県南魚沼市内のトンネル工事現場において可燃性ガスが関係して発生した爆発事故(死者4名、負傷者3名)では、現場での救助活動を支援するため、直ちに職員を現地に派遣し、技術的助言を行うなどしている。
研究開発に係る災害・事故の調査としては次のようなものを実施している。
東日本大震災では、今後の地震・津波対策に役立てるため、市街地火災や石油コンビナート、危険物施設、市町村役場、消防庁舎等における被害や消防活動の実態についての現地調査を行った。これらの現地被害調査の結果は、「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の被害及び消防活動に関する調査報告書(第1報)」として報告書に取りまとめ、消防研究センターのホームページで公表している。
平成23年9月の台風12号による災害では、和歌山県と奈良県において、水害及び斜面災害についての現地調査を行った。
平成24年1月に兵庫県尼崎市内の船積みのための金属スクラップ集積場で発生した火災については、火災発生状況等についての現地調査を行った。

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