平成26年版 消防白書

4.「消防力の整備指針」及び「消防水利の基準」の改正

消防庁では、「消防力の整備指針」及び「消防水利の基準」を定めている。
「消防力の整備指針」は、昭和36年に「消防力の基準」として市町村の消防力の強化を推進するため、必要最少限の施設・人員を定めることを目的に制定され、以来、数次にわたる一部改正が行われたが、平成12年に消防を取り巻く諸情勢の変化への対応と、市町村の自主決定要素の拡充のため、その全部が改正された。
さらに、平成17年には、警防・予防・救急・救助等の各分野の充実強化を図るとともに、想定しうるあらゆる災害に十分対応できる体制を整備していく必要性から、時代に即した基本的な理念や新たな視点を反映した基準とするため、一部改正が行われ、名称も「消防力の整備指針」と改められた。
一方、「消防水利の基準」は、消防法第20条第1項に基づき「消防に必要な水利の基準」として、消防庁が勧告したものであり、市町村の消防に必要な最少限度の水利について昭和39年に制定された。以後、市町村はこれに基づき消防水利の整備に努めてきたところである。
これらについて、さらに各種災害に的確に対応できるよう警防戦術及び資機材の高度化等の警防体制の充実強化を図るとともに、建築物の大規模化・複雑化等に伴う予防業務の高度化・専門化に対応するための予防体制の充実強化、高齢社会の進展等に伴う救急出動の増加、救急業務の高度化に対応するための救急体制の充実強化、複雑・多様化する災害における人命救助を的確に実施するための救助体制の充実強化、武力攻撃事態等における国民の保護のための措置の実施体制の充実強化を、職員の安全管理を徹底しつつ推進していく必要がある。
また、平成23年3月11日に発生した東日本大震災では、東北地方を中心に甚大な被害を受け、消防においても職員、車両、庁舎等が被災するなど消防活動に多大な影響が生じたことから、地震や風水害等の大規模な自然災害等への備えを強化するため、緊急消防援助隊をはじめとする広域的な消防体制の充実を図ることが求められている。
こうした事態を踏まえて、多様化する災害から住民の生命、身体及び財産を守る責務を全うするための消防力の充実強化を着実に図っていく必要性から、消防庁では、平成26年10月に「消防力の整備指針」及び「消防水利の基準」を改正したものである。

(1) 消防力の整備指針

<1> 化学消防車

火災及び流出事故件数が施設ごとに差異があり、全体として増加傾向にある状況を踏まえ、化学消防車の配置基準は、第4類危険物を貯蔵し、又は取り扱う製造所、屋内貯蔵所、屋外タンク貯蔵所、屋外貯蔵所及び一般取扱所の施設ごとの施設数に、当該施設ごとに定めた補正係数を乗じて得た数の合計数に応じた台数としたこと(第8条第1項第1号関係)。

<2> 大型化学消防車等

市町村が大型化学高所放水車を配置した場合、大型化学消防車、大型高所放水車を各1台配置したものとみなすとしたこと(第9条第3項関係)。

<3> 救急自動車

救急自動車の現状の整備数や救急出動件数の将来推計等を踏まえて、救急自動車の配置基準について、人口に基づく配置基準を見直し、人口10万以下の市町村にあってはおおむね人口2万ごとに1台、人口10万を超える市町村にあっては5台に人口10万を超える人口についておおむね5万ごとに1台を加算した台数を基準とするとともに、勘案要素として「高齢化の状況」を明記したこと(第13条第1項関係)。

<4> 非常用消防用自動車等

大規模災害発生時に、消防本部の総力をもって災害対応するためには、非常召集した職員が使用する消防車両を整備しておくことが求められるところであり、非常用消防用自動車等の新たな配置基準を設けることとしたこと。
非常用消防ポンプ自動車については、管轄人口30万以下の消防本部については稼働中の消防ポンプ自動車8台に1台、管轄人口30万を超える消防本部については稼働中の消防ポンプ自動車4台に1台を基準として、地域の実情に応じて配置することとしたこと(第17条第1項関係)。
また、非常用救急自動車については、管轄人口30万以下の消防本部については稼働中の救急自動車6台に1台とし、管轄人口30万人を超える消防本部については稼働中の救急自動車4台に1台を基準として、地域の実情に応じて配置することとしたこと(第17条第2項関係)。

<5> 消防本部及び署所の耐震化等

東日本大震災においては、地震による揺れや津波による浸水で消防庁舎に大きな被害が発生し、その機能の維持が困難となった消防本部や署所については、被害の少なかった署所や公共施設へ機能移転して対応した例があった。
このことから、消防本部及び署所は地震災害及び風水害時等において、災害応急対策拠点としての機能を発揮するため、十分な耐震性に加えて、浸水に耐え得るよう整備する旨を明記したこと(第23条第1項関係)。 

<6> 救急隊の隊員

救急隊の隊員の配置基準について、近年の救急需要の増大に伴い、地域によっては救急隊1隊あたりの出動件数が増加するなど、救急隊員を取り巻く環境は厳しくなっていることを踏まえ、救急業務の対象となる事案が特に多い地域においては、地域の実情に応じて救急自動車に搭乗する救急隊の隊員の代替要員を確保することとしたこと(第28条第2項関係)。

<7> 通信員

通信施設の機能等の向上により、管轄人口規模が大きい消防本部ほど、基準数よりも少ない人員で運用可能となっていることから、通信員の配置数について、管轄人口30万を超える部分については、これまでのおおむね人口10万ごとに5人から、おおむね人口10万ごとに3人とするとともに、通信指令体制及び緊急通報の受信件数等を勘案して総数を増減させることができることとしたこと(第31条第2項関係)。

<8> 消防本部及び署所の予防要員

防火対象物や一戸建ての住宅の数に応じて予防要員の数を算定するに当たって、特に人命危険の高い対象物に対する違反是正を徹底する必要があり、さらには、違反対象物に係る公表制度や防火対象物に係る表示制度の導入等を受け、特定防火対象物を中心に、立入検査や違反処理に係る執行体制の充実強化を図る必要がある。このため、消防本部及び署所における予防要員の数について、算定基準に用いる防火対象物ごとの係数を見直すとともに、特定防火対象物に係る係数を割増しすることで、予防要員を増員することとしたこと(第32条第1項関係)。

<9> 兼務の基準

予防業務は、その重要性、高度な専門性にかんがみ専従職員を充てることが適当と考えられる一方で、業務の執行に必要な知識等を有すると認められる警防要員が、予防要員を兼務することも有効な人材活用方策と考えられる。このことから、予防要員については、特定防火対象物以外の防火対象物数を基に算定した要員の数の2分の1と一戸建ての住宅の数を基に算定した要員の数の合算数を超えない範囲で、予防業務の執行に支障のない範囲に限り、必要な数の警防要員をもって充てることができることとしたこと。ただし、警防要員をもって充てることとした場合であっても、専従の予防要員の数は少なくとも2名は確保しなければならないこと(第33条第3項関係)。
また、一戸建て住宅若しくは共同住宅への防火指導又は共同住宅への立入検査に警防要員を充てる場合については、それぞれの事務に関し予防技術資格者等業務の執行に必要な知識及び技術を有する者をもって充てなければならないとしたこと(第33条第4項関係)。

<10> 消防本部及び署所の消防職員の総数

消防本部及び署所における消防職員の総数を算定するに当たっては、消防隊、救急隊、救助隊及び指揮隊の隊員の数について、一の消防隊が複数の消防自動車に搭乗する場合の運用について、消防本部の規模及び消防用自動車等の保有状況等を勘案して消防庁長官が定めるところにより市町村があらかじめ定めている場合は、当該複数のものそれぞれを常時運用する際に必要となる消防隊の隊員数のうち最大のものとするとしたこと(第34条第1項第1号)。

<11> 消防団の設置

「消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律(平成25年法律第110号)」が施行されたことを踏まえ、消防団は、大規模災害時はもとより、地域防災力の中核として将来にわたり欠くことのできない代替性のない存在であることを明記したこと。
また、特段の事情がある場合は、一市町村に二団以上置くことができることを明確にしたこと(第35条関係)。

<12> 消防団の業務及び人員の総数

消防団の業務として、災害時における避難誘導、自主防災組織を含む地域住民への指導について明記するとともに、人員の総数は業務を円滑に遂行するために、地域の実情に応じ必要な数としたこと(第36条関係)。

(2) 消防水利の基準

<1> 目的

 「市町村の消防に必要な最少限度の水利について定めるもの」という表現を改め、「市町村の消防に必要な水利について定めるもの」としたこと(第1条関係)。

<2> 消防水利の配置

大規模な地震が発生した場合の火災を想定して、耐震性を有する消防水利を地域の実情に応じて計画的に配置することを明記したこと(第4条第4項関係)。

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