平成26年版 消防白書

2.災害に強い消防防災通信ネットワークの整備

被害状況等に係る情報の収集及び伝達を行うためには、通信ネットワークが必要である。災害時には、安否確認等により、平常時の数十倍もの通信量が発生することから、公衆網においては通話規制が行われることが多く、また通信施設の被災や停電により、これらの通信ネットワークの使用が困難となる場合もある。
このため、災害時においても通信を確実に確保できるよう、国、都道府県、市町村等においては、公衆網のほか、災害に強い自営網である消防防災通信ネットワーク、非常用電源等の整備を行っている。
現在、国、消防庁、地方公共団体、住民等を結ぶ消防防災通信ネットワークを構成する主要な通信網として、<1>政府内の情報収集・伝達を行う中央防災無線網、<2>消防庁と都道府県を結ぶ消防防災無線、<3>都道府県と市町村等を結ぶ都道府県防災行政無線、<4>市町村と住民等を結ぶ市町村防災行政無線並びに<5>国と地方公共団体及び地方公共団体間を結ぶ衛星通信ネットワーク等が構築されている(第2-10-2図)。

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消防庁では、緊急防災・減災事業、防災基盤整備事業等を活用し、これらの消防防災通信ネットワークの整備促進及び充実強化を図っている。

(1) 消防防災通信ネットワークの概要

ア 消防防災無線

消防防災無線は、消防庁と全都道府県を結ぶ通信網である。電話及びファクシミリによる相互通信のほか、消防庁からの一斉伝達が可能な通信網である。地上系は、国土交通省のマイクロ回線*1設備により整備・運用されており、このマイクロ回線設備については、順次IP化へ移行していくこととなっている。

*1 マイクロ回線:極めて波長の短い(周波数の高い)電波であるマイクロウエーブを使った通信回線

また、衛星系は、衛星通信ネットワークにより運用されている。

イ 都道府県防災行政無線

都道府県防災行政無線は、都道府県内の関係機関を結ぶ無線網である。地上系又は衛星系により、都道府県とその出先機関、市町村、消防本部、指定地方行政機関、指定地方公共機関等を結ぶことで相互の情報収集・伝達に使用されており、全都道府県において整備・運用されている。機能は、都道府県によって異なるが、一般的には、電話及びファクシミリによる相互通信のほか、都道府県庁からの一斉伝達が可能となっている。なお、地上系では、車両に設置された車載無線機等の移動体との通信も可能となっている。また、都道府県では、防災情報システムの整備が進められており、都道府県防災行政無線をIP化することで、市町村・関係機関とのデータ通信が可能となっている。

ウ 市町村防災行政無線(同報系)

市町村防災行政無線(同報系)は、市町村庁舎と地域住民とを結ぶ無線網である。市町村は、公園や学校等に設置されたスピーカー(屋外拡声子局)や各世帯に設置された戸別受信機を活用し、地域住民に情報を迅速かつ確実に一斉伝達している。災害時には、気象予警報や避難勧告、Jアラート等の伝達に利用している。整備率(整備している市町村の割合)は80.1%(平成26年3月末現在)となっている。
また、災害時等における住民への情報伝達の方法については、MCA陸上移動通信システムや市町村デジタル移動通信システムを、市町村防災行政無線(同報系)の代替設備として利用する方法もある。

エ 市町村防災行政無線(移動系)

市町村防災行政無線(移動系)は、市町村庁舎と市町村の車両、市町村内の防災機関(病院、電気、ガス、通信事業者等)、自主防災組織等を結ぶ通信網である。災害時における市町村の災害対策本部においては、交通・通信の途絶した孤立地域や防災関係機関等からの情報収集・伝達、広報車との連絡等に利用される。整備率(整備している市町村の割合)は85.0%(平成26年3月末現在)となっており、これらについては順次デジタル化(市町村デジタル移動通信システム*2)が進められている。

*2 市町村デジタル移動通信システム:市町村庁舎を統制局として、その出先機関、広報車、市町村内の防災機関を結ぶ、デジタル方式の無線システム

オ 消防救急無線

消防救急無線は、消防本部(消防指令センター)と消防署、消防隊・救急隊を結ぶ通信網である。消防本部から消防隊・救急隊への指令、消防隊・救急隊からの消防本部への報告、火災現場における隊員への指令等に利用されており、消防活動の指揮命令を支え、消防活動の遂行に必要不可欠なものである。全国のすべての消防本部において運用されており、平成28年5月末までにデジタル方式に移行することとされている。

カ 衛星通信ネットワーク

衛星通信ネットワークは、衛星通信により、消防庁、都道府県、市町村及び防災関係機関を結ぶ全国的な通信網である。音声通信をはじめ、消防庁や都道府県による一斉指令、関係機関相互のデータ通信、映像伝送等の機能を有し、消防防災無線のバックアップ及び都道府県防災行政無線(衛星系)として位置付けられている。
また、ヘリコプターや高所監視カメラからの映像を消防庁、都道府県、消防本部等に伝送するために利用されている。通信回線は、通信衛星を利用しており、消防庁、都道府県、市町村、消防本部等に地球局が設置されているほか、被災地への車載局や可搬局の搬入により、災害発生時の機動的な情報収集・伝達体制の確保が可能である。現在、すべての都道府県において運用されている。

キ 映像伝送システム

映像伝送システムは、高所監視カメラや消防防災ヘリコプターに搭載されたカメラで撮影された映像情報を都道府県や消防本部(消防指令センター等)に伝送するとともに、衛星通信ネットワークを活用し、直ちに消防庁、他の地方公共団体等へも伝送が可能である(第2-10-3図)。これは、発災直後の被害の概況を把握するとともに、広域的な支援体制の早期確立を図る上で非常に有効なシステムである。ただし、ヘリコプターテレビ電送システムは、導入団体が増加しているものの、その映像受信範囲は全国をカバーするには至っていない状況にある(第2-10-4図)。

2-10-3a.gif2-10-4a.jpg

こうした状況を踏まえ、消防庁においては、ヘリコプターから衛星に直接電波を送信する方法により、地上受信局に伝送できない地域でも被災地情報をリアルタイムで伝送するヘリコプター衛星通信システム(ヘリサットシステム)を平成24年度から平成25年度にかけて整備したところである(第2-10-5図)。

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(2) 耐災害性の向上及びバックアップ機能の整備

ア 通信設備の耐災害性の向上等

東日本大震災では市町村防災行政無線が地震や津波により破損し、又は長時間の停電により、一部地域で不通となる事態が生じた。
災害時における通信設備の機能確保は極めて重要であり、これまでの経験を踏まえ、消防庁では、災害時に重要な情報伝達を担う防災行政無線が確実に機能確保されるように

  • 非常用電源設備の整備
  • 保守点検の実施と的確な操作の徹底
  • 総合防災訓練時等における防災行政無線を使用した通信訓練の実施(非常用電源設備を用いた訓練を含む。)
  • 防災行政無線設備の耐震性のある堅固な場所への設置
  • 防災行政無線施設に対する浸水防止措置の状況の確認

等を都道府県及び市町村に対して要請している。
なお、非常通信協議会*3において、「無線設備の停電・耐震対策のための指針」が取りまとめられており、地方公共団体においては、無線設備の停電対策、非常用電源設備、管理運用対策、耐震対策等について、これに準じて、自ら点検を徹底することが必要である。

*3 非常通信協議会:自然災害等の非常事態における無線通信の円滑な運用を図るため、電波法の規定に基づき設立された協議機関。総務省が中心となり、国の機関、地方公共団体、電気通信事業者等の防災関係機関で構成されている。

イ バックアップ機能の確保

消防防災通信ネットワークであっても、大地震等により通信施設が使用不能となり、国と地方公共団体間の相互通信が困難となる場合がある。
このため、消防庁では、バックアップ施設として東京都調布市にある消防大学校に衛星通信施設を整備しているほか、機動性のある衛星車載局車や可搬型衛星地球局を整備している。
また、非常通信協議会では、公衆網並びに消防庁及び地方公共団体の消防防災通信ネットワークが不通となった場合に備え、電力会社等の防災関係機関が管理している自営通信網を活用して、被害情報等を都道府県から国に伝達する中央通信ルートを確保しているほか、市町村から都道府県に伝達する地方通信ルートの確保も進められている。さらに、非常通信訓練を定期的に実施し、非常の場合に備え、通信の円滑な実施の確保に努めている。

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