平成26年版 消防白書

2.緊急消防援助隊

(1) 緊急消防援助隊の創設と消防組織法改正による法制化

ア 緊急消防援助隊の創設

緊急消防援助隊は、平成7年(1995年)1月17日の阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、国内で発生した地震等の大規模災害時における人命救助活動等をより効果的かつ迅速に実施し得るよう、全国の消防機関相互による援助体制を構築するため、全国の消防本部の協力を得て、同年6月に創設された。
この緊急消防援助隊は、平常時においては、それぞれの地域における消防責任の遂行に全力を挙げる一方、いったん我が国のどこかにおいて大規模災害が発生した場合には、消防庁長官の求め又は指示により、全国から当該災害に対応するための消防部隊が被災地に集中的に出動し、人命救助等の消防活動を実施するシステムである。
発足当初、緊急消防援助隊の規模は、救助部隊、救急部隊等からなる全国的な消防の応援を実施する消防庁登録部隊が376隊(交替要員を含めると約4,000人規模)、消火部隊等からなる近隣都道府県間において活動する県外応援部隊が891隊(同約1万3,000人規模)、合計で1,267隊(同約1万7,000人規模)であった。平成13年1月には、緊急消防援助隊の出動体制及び各種災害への対応能力の強化を行うため、消火部隊についても登録制を導入した。さらに、複雑・多様化する災害に対応するため、石油・化学災害、毒劇物・放射性物質災害等の特殊災害への対応能力を有する特殊災害部隊、消防防災ヘリコプターによる航空部隊及び消防艇による水上部隊を新設したことから、8部隊、1,785隊(同約2万6,000人規模)となった。

イ 平成15年消防組織法改正による法制化

東海地震をはじめとして、東南海・南海地震、首都直下地震等の切迫性やNBCテロ災害等の危険性が指摘され、こうした災害に対しては、被災地の市町村はもとより当該都道府県内の消防力のみでは、迅速・的確な対応が困難な場合が想定される。そこで、全国的な観点から緊急対応体制の充実強化を図るため、消防庁長官に所要の権限を付与することとし、併せて、国の財政措置を規定すること等を内容とする消防組織法の一部を改正する法律が、平成15年に成立し、翌平成16年から施行された。
(ア) 法改正の主な内容
 法改正の主な内容は、緊急消防援助隊の法律上の明確な位置付けと消防庁長官の出動の指示権の創設、緊急消防援助隊に係る基本計画の策定及び国の財政措置となっている。
(イ) 法律上の位置付けと消防庁長官の出動指示
 創設以来、要綱に基づき運用がなされてきた緊急消防援助隊は、この法改正により、消防組織法上明確に位置付けられた。また、東海地震等大規模な災害で2以上の都道府県に及ぶもの、NBC災害等の発生時には、消防庁長官は、緊急消防援助隊の出動のため必要な措置を「指示」することができるものとされた。この指示権の創設は、まさに国家的な見地から対応すべき大規模災害等に対し、緊急消防援助隊の出動指示という形で、被災地への消防力の投入責任を国が負うこととするものであり、東日本大震災という未曾有の大災害に際し、創設後初めて行使した。
(ウ) 緊急消防援助隊に係る基本計画の策定等
 法律上、総務大臣は「緊急消防援助隊の編成及び施設の整備等に係る基本的な事項に関する計画」(以下「基本計画」という。)を策定することとされた。この基本計画は、平成16年2月に策定され、緊急消防援助隊を構成する部隊の編成と装備の基準、出動計画及び必要な施設の整備目標などを定め、策定当初は緊急消防援助隊の部隊を平成20年度までに3,000隊登録することを目標としていた。
 平成26年4月現在では、744消防本部、4,694隊を登録している。
(エ) 緊急消防援助隊に係る国の財政措置
 消防庁長官の指示を受けた場合には、緊急消防援助隊の出動が法律上義務付けられることから、出動に伴い新たに必要となる経費については、地方財政法第10条の国庫負担金として、国が負担することとしている。
 また、基本計画に基づいて整備される施設の整備については、「国が補助するものとする」と法律上明記されるとともに、対象施設及び補助率(2分の1)については政令で規定されている(第2-8-2表)。

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(オ) 緊急消防援助隊用装備等の無償使用
 緊急消防援助隊の部隊編成上必要な装備等のうち、地方公共団体が整備・保有することが費用対効果の面からいって非効率的なものについては、国庫補助をしても整備の進展を期待することは難しい。大規模・特殊災害時における国の責任を果たすためには、その速やかな整備が必要な装備等もある。こうした装備等については、国が整備し緊急消防援助隊として活動する人員の属する都道府県又は市町村に対して無償で使用させることができることとした。

ウ 平成20年消防組織法改正による機動力の強化

東海地震、東南海・南海地震、首都直下地震等の大規模地震に対する消防・防災体制の更なる強化を図るため、緊急消防援助隊の機動力の強化等を内容とする消防組織法の一部を改正する法律が平成20年に成立し、施行された。
(ア) 法改正の主な内容
 法改正の主な内容は、災害発生市町村において既に活動している緊急消防援助隊に対する都道府県知事の出動指示権の創設、消防応援活動調整本部の設置及び消防庁長官の緊急消防援助隊の出動に係る指示要件の見直しとなっている(第2-8-1図)。

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(イ) 都道府県知事の出動指示権の創設
 都道府県の区域内に災害発生市町村が2以上ある場合において、緊急消防援助隊行動市町村以外の災害発生市町村の消防の応援等に関し緊急の必要があると認めるときは、都道府県知事は、緊急消防援助隊行動市町村において行動している緊急消防援助隊に対し、出動することを指示することができるものとされた。これは、平成16年新潟・福島豪雨災害や平成16年新潟県中越地震において、県内において市町村境界を越える部隊の移動が行われたことなどを踏まえ、制度を整備したものである。なお、都道府県境界を越える場合は、2以上の都道府県に及ぶ調整となることから、消防庁長官が行うこととされた(第2-8-2図)。

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(ウ) 消防応援活動調整本部の設置
 (イ)の都道府県知事の指示が円滑に行われるよう、緊急消防援助隊が消防の応援等のために出動したときは、都道府県知事は、消防の応援等の措置の総合調整等を行う消防応援活動調整本部(以下「調整本部」という。)を設置するものとされた。調整本部は、都道府県及び当該都道府県の区域内の市町村が実施する消防の応援等のための措置の総合調整に関する事務及びこの総合調整の事務を円滑に実施するための自衛隊、警察等の関係機関との連絡に関する事務をつかさどることとされた(第2-8-3図)。

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(エ) 消防庁長官による緊急消防援助隊出動指示要件の見直し
 活断層等により局地的に甚大な被害をもたらす地震の危険性が指摘されている。従来は2以上の都道府県に及ぶ大規模災害のみとされていたものが、1つの都道府県のみで大規模な災害が発生した場合であっても、当該災害に対処するために特別の必要があると認められるときは、消防庁長官は、災害発生市町村の属する都道府県以外の都道府県の知事又は当該都道府県内の市町村の長に対し、緊急消防援助隊の出動のため必要な措置をとることを指示することができるものとされた。

(2) 緊急消防援助隊の編成及び出動計画

緊急消防援助隊の編成及び出動計画等については、総務大臣が定める基本計画に定められているが、その概要は以下のとおりである。

ア 緊急消防援助隊の編成

緊急消防援助隊は、指揮支援部隊、都道府県大隊及び特定の目的で編成され活動する統合機動部隊、エネルギー・産業基盤災害即応部隊(ドラゴンハイパー・コマンドユニット)により編成され、被災地の市町村長の指揮の下で活動する。
指揮支援部隊は、東京消防庁及び20の政令指定都市の消防本部により編成され、被災市町村にヘリコプター等で緊急に被災地に赴き、災害に関する情報を収集するとともに、被災地における緊急消防援助隊に係る指揮が円滑に行われるよう、当該市町村長の指揮活動を支援する。
都道府県大隊は、都道府県内の消防本部において登録されている各隊のうち、被災地への応援に必要な隊をもって構成される。
統合機動部隊は、迅速に先遣出動し、緊急度の高い消防活動及び後続隊の活動のための情報収集を行う部隊であり、エネルギー・産業基盤災害即応部隊は、石油コンビナート・化学プラント等の特殊災害対応に特化した部隊である。なお、緊急消防援助隊を構成する各小隊の任務は第2-8-4図のとおりである。

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イ 出動計画

(ア) 基本的な出動計画
大規模災害等の発災に際し、消防庁長官は情報収集に努めるとともに、被災都道府県知事等との密接な連携を図り、緊急消防援助隊の出動の要否を判断し、消防組織法第44条の規定に基づき、出動の求め又は指示の措置をとることとされている。この場合において迅速かつ的確な出動が可能となるよう、あらかじめ出動計画が定められている。
具体的には、災害発生都道府県ごとに、その隣接都道府県を中心に応援出動する都道府県大隊を「第一次出動都道府県大隊」とし、災害の規模により更に応援を行う都道府県大隊を「出動準備都道府県大隊」として指定している。
(イ) 大規模地震における迅速出動
大規模地震時には、通信インフラ等の障害発生や全体の被害状況把握に相当の時間を要することなどを踏まえ、緊急消防援助隊が被災地に迅速に出動して、消火・救助・救急活動等により人命救助を効果的に行うことができるようにする必要がある。
このため「消防組織法第44条に基づく緊急消防援助隊の出動の求め」の準備行為を、消防庁長官が全国の都道府県知事及び市町村長にあらかじめ行っておき、大規模地震の発生と同時に出動することなどを内容とする「大規模地震における緊急消防援助隊の迅速出動に関する実施要綱」を平成20年7月に策定した。なお、平成26年3月、本実施要綱は「緊急消防援助隊運用要綱」に移行した。
(ウ) 東海地震等における出動計画
東海地震、東南海・南海地震、首都直下地震等の大規模地震については、複数の都道府県に及ぶ著しい地震被害が想定され、第一次出動都道府県大隊及び出動準備都道府県大隊だけでは消防力が不足すると考えられることから、全国的規模での緊急消防援助隊の出動を行うこととしている。
そのため、東海地震、東南海・南海地震及び首都直下地震を想定して、中央防災会議における対応方針・被害想定等を踏まえ、それぞれの発災時における、緊急消防援助隊運用方針及びアクションプランを策定している。
例えば、東海地震の場合、強化地域に指定されている8都県以外の39道府県の陸上部隊の出動順位、応援先都県、出動ルート等をあらかじめ定めるとともに、航空部隊についても全国的な運用を行うこととしている(第2-8-5図)。

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東南海・南海地震及び首都直下地震における運用方針及びアクションプランについては、平成25年11月に南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法が改正され、首都直下地震対策特別措置法が公布されたことから、見直すこととしている。
(エ) 受援計画
各都道府県は、自らが被災地となる場合を想定して、平時から調整本部の運営方法をはじめ、進出拠点、燃料補給基地等、緊急消防援助隊の受入れに当たって必要な事項を都道府県内の消防機関と協議の上、「緊急消防援助隊受援計画」を策定している。
また、各消防本部についても、同様に自らの地域において緊急消防援助隊を受入れるため、都道府県が策定する受援計画及び地域防災計画の内容と整合性を図りつつ受援計画を策定する必要がある。

(3) 緊急消防援助隊の登録隊数及び装備

ア 登録隊数

緊急消防援助隊は、都道府県知事又は市町村長の申請に基づき、消防庁長官が登録することとされている。
平成7年(1995年)9月に1,267隊で発足した緊急消防援助隊は、その後、災害時における活動の重要性がますます認識され、登録数が増加し、平成26年4月1日現在では全国744消防本部(全国の消防本部の約98%)等から4,694隊を登録している(第2-8-3表、第2-8-6図)。

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なお、平成26年3月には、東日本大震災を上回る被害が想定される南海トラフ地震、首都直下地震等の大規模災害に備え、大規模かつ迅速な部隊投入のための体制整備が不可欠であることから、基本計画を改正し目標登録隊数を現行のおおむね4,500隊規模から平成30年度末にはおおむね6,000隊規模へと大幅に増隊することとした(第2-8-7図)。

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イ 装備等

緊急消防援助隊の装備等については、発足当初から、消防庁において基準を策定するとともに、平成15年の法制化以降は、基本計画でこれを定め、その充実を図ってきた。平成18年からは緊急消防援助隊施設整備費補助金により国庫補助措置を講じ、災害対応特殊消防ポンプ自動車、救助工作車、災害対応特殊救急自動車等及び活動部隊が被災地で自己完結的に活動するために必要な支援車並びにファイバースコープ等の高度救助用資機材等の整備を推進している。
また、消防組織法第50条の規定による無償使用制度を活用し、ヘリコプター、ヘリサットシステム、津波・大規模風水害対策車両及び拠点機能形成車両等、緊急消防援助隊の部隊活動及び後方支援活動に必要な装備等の一部を全国の消防本部等に配備している(第2-8-4表)。

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さらに、平成23年度に創設された緊急防災・減災事業債(100%充当、交付税率70%)において、平成25年度から新たに「緊急消防援助隊の機能強化を図る車両の装備等」及び「緊急消防援助隊の広域活動拠点施設」にも対象事業が拡大された。なお、この緊急防災・減災事業債は平成28年度まで継続されることとなっている。
平成26年度には「消防防災施設整備費補助金」の補助対象として、ヘリコプター離着陸場、資機材保管等施設及び自家給油施設から構成される救助活動等拠点施設が加えられ、救助隊が自立的に救助活動を行える拠点施設の整備を促進している。
さらに、消防庁では、緊急消防援助隊の効率的な活動を実施するため、引き続き計画的な装備等の充実強化を図ることとしている。

(4) 緊急消防援助隊の活動

ア 平成7年から平成26年11月までの出動状況

平成7年(1995年)に創設された緊急消防援助隊は、平成8年(1996年)12月に新潟県・長野県の県境付近で発生した蒲原沢土石流災害への出動を皮切りに、平成16年4月の改正消防組織法施行までの間、合計10回出動した。
以降、平成16年新潟県中越地震、平成17年JR西日本福知山線列車事故、平成20年岩手・宮城内陸地震、平成23年東日本大震災等の大規模災害に出動し多くの人命救助を行うなど、平成26年11月までの間に合計17回出動した(第2-8-5表)。

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イ 最近の活動状況

(ア) 平成20年中の活動
6月14日午前8時43分頃、岩手県内陸南部を震源とする平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震(マグニチュード7.2、最大震度6強)が発生し、岩手、宮城両県の内陸部・山間部に家屋倒壊、土砂災害等により甚大な被害をもたらした。同日午前9時23分、岩手県知事からの要請を受け、消防庁長官が、1都1道10県に対して緊急消防援助隊の出動を求めた。その後、同日午前11時38分、宮城県知事からの要請を受け、5県に対して出動を求めるとともに、岩手県へ出動途上の3県隊の応援先を宮城県栗原市に変更した。また、岩手県へ出場途上の新潟県航空部隊が宮城県栗原市及び岩手県一関市で孤立者の救出活動をしたことから、14日に救助活動及び情報収集活動等を行ったのは、岩手県内で1都1道7県、宮城県内で9県に及んだ。
また、15日には、既に岩手県内で情報収集活動等をしていた1都2県の部隊に対して、宮城県栗原市への部隊移動を求めた。緊急消防援助隊発足後、初めて2県に及ぶ活動を行い、最終的に岩手県内で1都1道7県の部隊、宮城県内で1都11県の部隊が活動した。岩手・宮城両県で活動した部隊を含め、1都1道15県から6日間で、211隊1,025人が出動し、救助活動、情報収集活動等を行った。
7月24日午前0時26分、岩手県沿岸北部を震源とする地震(マグニチュード6.8、最大震度6弱)が発生した。当初の震度情報が、最大震度6強であったことから、「大規模地震における緊急消防援助隊の迅速出動に関する実施要綱」に基づき、地震発生と同時に指揮支援部隊長及び航空部隊に出動を要請した。その後、岩手県知事から応援要請を受け、最終的に1都7県の部隊に対して出動を求めた。同日午後2時30分の応援要請解除までに、99隊379人が出動し、情報収集活動等を行った。
(イ) 平成21年中の活動
8月11日午前5時7分、駿河湾を震源とする地震(マグニチュード6.5、最大震度6弱)が発生した。静岡県知事の要請に基づき、指揮支援部隊及び航空部隊に出動を求め、1都2県から6隊29人が出動し、情報収集活動及び指揮支援活動を行った。
(ウ) 平成23年中の活動
3月11日午後2時46分、三陸沖を震源とする平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震(マグニチュード9.0、最大震度7)が発生した。地震発生直後から、法制化以降初めてとなる消防組織法第44条第5項に基づく消防庁長官の指示により緊急消防援助隊が出動し、余震等への対応も含め、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、千葉県、新潟県、長野県及び静岡県の8県において応援活動を実施した。活動が長期に及んだ岩手県、宮城県及び福島県においては、発災直後の降雪といった天候不良、山積するがれきが行く手を阻む厳しい環境下において、大きな余震や津波への警戒を続けながら地元消防や関係機関との連携のもと消防活動に従事した。福島第一原子力発電所における事故対応、発災9日後の奇跡的な倒壊家屋からの人命救出など、日本の消防活動史に残る懸命の応援活動も見られたところであり、地元消防本部等と協力したものを含め救助者数は5,064人に上った。最終的には、前述の主たる被災3県を除く全国44都道府県から緊急消防援助隊が出動し、6月6日までの88日間で、総派遣人員3万684人、総派遣部隊数8,854隊に上った。
(エ) 平成25年中の活動
10月16日、台風26号の記録的大雨(24時間824ミリ)により、伊豆大島(東京都大島町)で大規模な土石流が発生した。
発災後、東京都知事の要請を受け消防組織法に基づき、消防庁長官から1都4県の緊急消防援助隊に出動を求めた。緊急消防援助隊は、活動終了の10月31日までの16日間で117隊、518人が出動し、現地において、地元の大島町消防本部、大島町消防団、都内応援の東京消防庁と一体となって、多数の倒壊家屋や土砂からの救助活動を展開した。
今回の派遣は、離島における大規模災害に緊急消防援助隊が出動した初めての事例であり、部隊や車両の輸送に大きな困難があったが、自衛隊と連携し、輸送機(C-1及びC-130H)による緊急輸送(隊員57人、車両13台)を行い、救助活動を実施した。
(オ) 平成26年中の活動
7月30日から8月26日かけ全国各地で大雨が発生した(「平成26年8月豪雨」)。8月19日から翌20日明け方にかけては、広島県広島市を中心に猛烈な雨となり、20日未明、広島県広島市安佐北区、安佐南区において166箇所以上で土砂災害が発生した。
発災後、広島県知事からの要請に基づき、消防庁長官から1府3県に対して緊急消防援助隊の出動を求め、さらに、21日には救助体制を強化するため、新たに3県に対して緊急消防援助隊の出動を求めた。緊急消防援助隊は、活動終了の9月5日までの17日間で1府6県から399隊1,296人が出動し、地元の広島市消防局及び市内消防団をはじめ、県内応援消防本部、県内消防団、警察、自衛隊及び国土交通省(TEC-FORCE)等と一体となって、消防応援活動を展開した。また、津波・大規模風水害対策車両、重機及び無線中継車等の特殊車両が多数出動し、それぞれ、泥ねい地における救助活動、道路啓開及びがれき撤去、迅速な情報収集等を行った。
9月27日午前11時52分頃、御嶽山で噴火が発生した。
発災後、長野県知事からの要請に基づき、消防庁長官から1都3県に対して緊急消防援助隊の出動を求め、さらに、10月14日には捜索活動の体制強化を図るため、新たに2県に対して緊急消防援助隊の出動を求めた。緊急消防援助隊は、活動終了の10月17日までの21日間で1都5県から547隊2,171人が出動し、登山道が急峻な上、粘土質となった火山灰等は足場が悪く、さらに火山性ガスが発生した場合には緊急退避を余儀なくされる等、標高3,000メートルの厳しい活動環境のもとで地元の木曽広域消防本部及び消防団をはじめ、県内応援消防本部、警察及び自衛隊等と一体となって、消防応援活動を展開した。

(5) 緊急消防援助隊の訓練

ア 第1回~第3回全国合同訓練

大規模災害時における緊急消防援助隊の指揮・連携能力の向上を図るためには、平時からの緊急消防援助隊としての教育訓練が重要となる。
緊急消防援助隊が発足した平成7年(1995年)には、東京都江東区豊洲において、天皇陛下の行幸を賜り、98消防本部、約1,500人の隊員による全国合同訓練が初めて行われた。その後は5年ごとに開催され、平成12年(2000年)には第2回目を東京都江東区有明において、平成17年には第3回目を静岡県静岡市において実施した。
第3回全国合同訓練は、緊急消防援助隊法制化以降初の全国訓練として、基本計画に基づき「東海地震における緊急消防援助隊アクションプラン」の検証を兼ねて実施し、参集及び活動体制について総合的な検証を行った。

イ 第4回全国合同訓練

東南海・南海地震を想定し、初めてとなる全国規模の図上訓練を全国から指揮支援隊長、都道府県隊長、航空隊長等が愛知県、和歌山県及び徳島県の各県庁に集結して、平成22年1月に実施するとともに、同年6月には愛知県知多市において全国から陸上部隊、航空部隊が集結して部隊運用訓練を実施した。これらの訓練を通じて「東南海・南海地震における緊急消防援助隊アクションプラン」に基づく参集及び活動体制等について総合的な検証を行った。また、より実践的な技術及び指揮・連携能力の向上を図ることを目的として、事前に訓練想定を明らかにしないブラインド型の訓練や夜間訓練を全国訓練では初めて実施した。

ウ 第5回全国合同訓練

平成27年秋、第5回全国合同訓練を千葉県で開催する予定である。
首都直下地震及び南海トラフ地震を想定し、全国からの迅速かつ大規模な参集及び部隊輸送の複数化・多重化並びに新設部隊(ドラゴンハイパー・コマンドユニット等)の実践的な運用、警察、自衛隊等の関係機関との連携に重点を置くこととしている。

エ 地域ブロック合同訓練

隊員の技術向上と部隊間の連携強化を目的に、平成8年度(1996年度)から毎年全国を6つのブロックに区分してブロックごとに合同訓練が行われており、平成15年の法制化以降は、基本計画において、地域ブロック合同訓練を定期的に実施することが明記された。
消防庁としては、訓練実施経費の一部を国費として負担するとともに、ブロックごとに設置される実行委員会と協力し、各消防本部等の参加を得て訓練を実施しており、消防大学校における教育訓練と併せて、引き続き緊急消防援助隊のより実践的な教育訓練の充実を図ることとしている(第2-8-6表)。

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また、実際の運用を想定した図上訓練、緊急消防援助隊動態情報システム及び支援情報共有ツール等を活用した情報収集・伝達訓練、ブラインド型部隊運用訓練、自衛隊等の関係機関との連携訓練を行うなど、より実践的な訓練を実施していく。

(6) 今後の取組

東日本大震災を上回る被害の発生が懸念されている、南海トラフ地震及び首都直下地震等に備え、長期にわたる活動力への対応及び大規模かつ迅速な部隊投入のための整備が不可欠であり、緊急消防援助隊の役割は一層重要性を増している。緊急消防援助隊創設以来、最大規模かつ最も長期に及んだ東日本大震災における部隊展開の経験等を貴重な教訓とし、引き続き以下の取組を積極的に進め、ハード・ソフトの両面において緊急消防援助隊の活動能力の向上を図る。

ア 消防庁のオペレーション能力向上

消防庁長官の指示権に象徴されるように、緊急消防援助隊を的確に運用することは、消防庁の重要な任務である。そのためには、大規模災害・特殊災害等発生時に、消防庁自体の初動対応がこれまで以上に重要であり、ICT(情報通信技術)を活用するなど迅速な情報収集等に努め、可能な限り災害の規模、被害状況等あらゆる情報を把握して緊急消防援助隊に的確にフィードバックすることが求められる。したがって、図上訓練等の実施により、日ごろから緊急消防援助隊の出動の要否、派遣地域、必要な部隊規模・種類の判断など、消防庁としてのオペレーション能力の向上を引き続き図っていく。

イ 部隊登録の計画的推進

平成30年度末の登録目標である6,000隊規模に向けて、隊種ごとの各都道府県の目標登録隊数を設定した。さらに、南海トラフ地震や首都直下地震等の国家的な非常災害に対応するため、全国的な底上げが必要であることから、登録比率ガイドラインを設け、登録推進に取り組むこととしている。各消防本部、都道府県及び消防庁が一体となって進めるとともに、登録が部隊運用上地域的に偏りのないように各機関で調整を図りつつ計画的に登録を推進していく。
また、緊急消防援助隊設備整備補助金及び消防組織法第50条の規定による無償使用制度等を活用しつつ、緊急消防援助隊登録部隊における車両・資機材の質の向上及び充実強化を引き続き進めていく。

ウ 訓練の推進

緊急消防援助隊が迅速かつ効果的に活動するためには、速やかに応援部隊を編成して被災地に出動し、各部隊が一元的な指揮体制の下に連携した活動を実施する必要がある。このため、消防庁では、5年に1度の全国訓練(平成27年に実施予定)や毎年実施されている地域ブロック合同訓練において、実践的な訓練を推進するとともに、各都道府県及び各消防機関においても、平時から各種防災訓練等の機会も活用し、様々な状況を想定した図上訓練、消防応援活動調整本部運営訓練、大規模な参集・集結訓練、他機関と連携した訓練を実施するなど、緊急消防援助隊の活動に即した各種の訓練を推進していく。
また、こうした各種訓練を通して、平成26年3月の基本計画改正に伴い新設された統合機動部隊、エネルギー・産業基盤災害即応部隊(ドラゴンハイパー・コマンドユニット)及び通信支援小隊といった部隊等の運用についても充実を図ることとする。

エ 関係機関との連携強化

平成24年1月30日に出された「消防審議会の東日本大震災を踏まえた今後の消防防災体制のあり方に関する答申」において、関係機関は災害時において救助活動等一層の連携強化を図ることとされている。地域ブロック合同訓練においては、自衛隊、警察、海上保安庁及びDMAT等の関係機関と図上訓練、実動訓練、部隊輸送訓練等の連携訓練を実施して成果を上げている。
今後も、各種訓練等を通じて関係機関との連携強化を図っていく。

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