平成26年版 消防白書

1.伊豆大島の土砂災害を踏まえた危機管理体制及び訓練の充実

(1) 災害の概要

平成25年10月11日に発生した台風第26号は、同月16日明け方に大型で強い勢力のまま伊豆諸島北部を通過し、三陸沖で温帯低気圧になった。
東京都大島町(伊豆大島)では、1時間に100ミリ以上の猛烈な雨が降るなど、24時間雨量が824ミリに達する記録的な大雨となった。この影響により、大規模な土石流が発生し、死者40名、行方不明者3名という甚大な被害が発生した。

(2) 政府の対応及び消防機関の活動

ア 政府全体の対応

政府では、平成25年10月16日午前7時06分に官邸に情報連絡室を設置した。同日午前9時には安倍内閣総理大臣から、被害状況の把握、救助活動、災害応急対策等に関する指示が発せられ、午前11時30分には、関係省庁災害対策会議を開催し、被害状況、各省庁の対応状況等について情報共有を行った。
その後、台風第27号の接近を踏まえて、関係省庁と大島町が一体となった迅速かつ的確な災害応急対策の実施を目的として、10月19日午後2時、大島町役場に内閣府官房審議官(防災担当)を室長とする現地災害対策室を設置した(同年10月28日に現地連絡調整室となり、10月31日に閉室)。

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イ 消防庁の対応

消防庁では、台風第26号の接近に備え、平成25年10月15日午後6時00分に「消防庁災害対策室(第1次応急体制)」を設置、翌16日午前10時00分には、伊豆大島における土砂災害の状況を踏まえ、消防庁次長を長とする「消防庁災害対策本部(第2次応急体制)」に改組し、東京都、大島町及び大島町消防本部に対して適切な対応及び被害状況の報告を求めるなど、情報収集を実施した。
その後、同日午前11時55分に東京都知事から消防組織法に基づき応援要請を受け、1都4県の知事(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、静岡県)に対して緊急消防援助隊の出動を求めた。
また、発災直後から延べ8人の消防庁職員を大島町災害対策本部に派遣し、被害状況の確認、緊急消防援助隊に関する調整等を実施した。

ウ 緊急消防援助隊の活動

活動概要は以下のとおりである(特集3-1表)。

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(ア)派遣期間
平成25年10月16日から同年10月31日まで(16日間)
(イ)活動規模
a 479隊 2,055人
b 活動規模のピーク
33隊 145人(平成25年10月20日)
(ウ)主な活動内容
a 指揮支援部隊は、大島町災害対策本部において情報収集を実施した。また、消防をはじめ自衛隊や警察などの関係機関で構成する調整会議において、活動エリアの区割りなど他機関との調整を実施した。
b 航空部隊は、上空からの被害情報の収集、隊員及び資機材の輸送を実施した。
c 陸上部隊は、土砂災害現場における被害情報の収集、行方不明者の捜索及び救出活動を実施した。

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東京消防庁・東京都大島町消防応援協定に基づく応援

活動概要は以下のとおりである。
(ア)出動期間
平成25年10月16日から同年11月8日まで(24日間)
(イ)活動規模
a 全体(延べ人数)
東京消防庁 2,645人
b 活動規模のピーク
東京消防庁 150人(平成25年10月18日)
(ウ)主な活動内容
a 航空部隊は、島外への救急搬送、隊員及び資機材の輸送を実施した。
b 陸上部隊は、土砂災害現場における被害情報の収集、行方不明者の捜索及び救出活動を実施した。

オ 地元消防機関の活動

大島町消防本部及び消防団は、台風接近に備え、平成25年10月16日午前1時から警戒態勢とし、災害発生後は、被害情報の収集を行うとともに、行方不明者の捜索、救出及び救急搬送を実施した。また、消防団は重機を活用し、緊急消防援助隊等の活動を支援した。

カ 関係機関との連携

被災地が離島(伊豆大島)であったことから、緊急消防援助隊等の出動にあたり、航空自衛隊の輸送機(C-1及びC-130H)の支援により、迅速に隊員、車両及び資機材を投入した(特集3-2表)。

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また、活動については、自衛隊や警察などの関係機関から延べ2万人を超える隊員が派遣されたが、活動エリアを分担するなど消防と連携し、行方不明者の捜索、救出活動等を実施した。

(3) 災害を踏まえた地方公共団体の危機管理体制及び訓練の充実

伊豆大島で発生した土砂災害の報道においては、市町村の初動対応における課題について指摘がなされた。
自然災害等の危機管理事態発生時において、地方公共団体、とりわけ市町村の対応の適否は、時には住民の命に直結することになる。
市町村を含めた地方公共団体の総合的な危機管理体制については、平成25年度に消防庁において調査を実施した(特集3-1図)。

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これにより、市町村の危機対応の能力には、市町村間で大きな差があることが判明したところである。
これらのことを踏まえ、消防庁では、平成26年度から新たに市町村長を対象とした防災・危機管理トップセミナーを実施するのをはじめ、防災・危機管理担当者を対象とした研修を強化するなど、市町村に対する支援を充実させることとしている。

ア 防災・危機管理トップセミナーの開催

市町村の危機対応の能力の最も大きな決定要因が、危機が発生した場合に陣頭指揮をとることが求められる市町村長のリーダーシップであることを踏まえ、消防庁では、平成26年度から新たに、市町村長を対象とした防災・危機管理トップセミナーを実施している。
平成26年6月4日には、全国より約190人の市長参加の下に、内閣府とともに「全国防災・危機管理トップセミナー」を開催した。地域の防災について訓練を重ねることや、非常時にはトップである市長が全責任を負う覚悟で陣頭指揮をとることが重要であることなどを周知したほか、過去の災害に際し、陣頭指揮に当たった経験を持つ市長等を招き、講演を行った。
防災・危機管理トップセミナーの開催に当たっては、災害等の危機事態において、市町村長の心構えやどのような行動をとるべきかなどを「市町村長の危機管理の要諦」(特集3-2図)として、テキストにまとめている。これまでの市町村長の災害対応における成功した事例、失敗した事例とともに、災害を経験した市町村長の体験談を多く盛り込んだ内容となっている。

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また、都道府県においても、市町村長を対象とした「都道府県防災・危機管理トップセミナー」を、福井県を皮切りに順次開催している。各都道府県は、市長会及び町村会の会議等に併せて開催するなど、関係機関と連携を図りながら実施している。

イ 防災・危機管理研修会の実施

危機事態発生時において、地方公共団体の職員は普段の業務とは異なる危機対応業務を、時間的な猶予がない中で処理することを余儀なくされる。危機対応の経験がない職員は、研修を繰り返すことによって、危機への意識を高め、対応能力を高めていくことが重要である。
このため、消防庁では、地方公共団体における危機管理担当職員等の危機対応の能力の向上を図るため、平成26年度より、全国各地において、「防災・危機管理研修会」を開催し、都道府県及び市町村の危機管理担当職員等が防災・危機管理の基礎知識等を速やかに習得できるよう取り組んでいる。

ウ 実践的な防災訓練の普及

危機が発生した時に適切な対応ができるには、日ごろから過酷な事態における対応について議論を重ねるとともに、実践的な訓練を定期的に行うことが重要である。
消防庁では、実践的な防災訓練の普及に向け、地方公共団体の行う防災訓練について、他の地方公共団体のモデルとなる事例の調査を行った。地方公共団体等に対して情報提供を行うことにより、防災訓練全体の底上げを図ることを目的とし、平成26年3月に報告書をまとめている。報告書は、モデルとなる防災訓練を実施している20の市区町村及び地域へのヒアリングに基づき、実践的な防災訓練がもたらす効果や実施に向けた留意点等をまとめた内容となっている(特集3-3図、特集3-4図)。

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