平成26年版 消防白書

3.御嶽山噴火災害への対応

(1) 災害の概要

平成26年9月27日午前11時41分頃から御嶽山で火山性微動が発生し始め、同日午前11時52分頃に噴火が発生した。今回の噴火は昭和54年(1979年)の噴火と同程度かやや大きい規模の水蒸気爆発と考えられており、御嶽山での噴火は、平成19年3月下旬に発生したごく小規模な噴火以来となる。この噴火により、長野・岐阜両県において、死者57名、負傷者69名、行方不明者6名(平成26年10月23日午後3時時点の消防庁被害報)という甚大な被害が発生した。

(2) 政府の対応及び消防機関の活動

ア 政府全体の対応

政府では、平成26年9月27日午後1時23分に官邸に情報連絡室を設置した。同日午後2時30分には官邸連絡室に改組するとともに、安倍内閣総理大臣から、被災状況の把握、被災者の救助、登山者や住民の安全の確保、登山者及び住民に対する迅速的確な情報提供等に関する指示が発せられ、午後3時には関係省庁担当者会議を、午後4時40分には関係省庁災害対策会議を開催し、被害状況、各省庁の対応状況等について情報共有を行った。
翌28日午後2時には官邸連絡室を官邸対策室に改組し、さらに同日午後5時、多数の犠牲が生じており、なお多数の行方不明者が存在するという事態を踏まえ、災害対策基本法第24条第1項の規定に基づき、平成26年(2014年)御嶽山噴火非常災害対策本部を格上げ設置するとともに、長野県庁に、松本内閣府大臣政務官を本部長とする非常災害現地対策本部を設置することを決定した(現地対策本部については、同年10月16日の長野県災害対策本部における全面的な捜索活動の終了決定を受けて、翌17日に廃止)。

イ 消防庁の対応

消防庁では、平成26年9月27日午後2時30分に応急対策室長を長とする「消防庁災害対策室(第1次応急体制)」を設置、同日午後8時20分には国民保護・防災部長を長とする「消防庁災害対策本部(第2次応急体制)」に改組し、長野県及び岐阜県等に対して被害情報の報告を求める等、情報収集を実施した。
その後、同日午後8時30分に長野県知事から消防組織法に基づき、緊急消防援助隊の応援要請を受け、消防庁長官が1都3県の知事(東京都、静岡県、山梨県及び愛知県)に対して、緊急消防援助隊の出動を求めた。
翌28日午後5時00分には、災害対策基本法に基づき、政府に「平成26 年(2014年)御嶽山噴火非常災害対策本部」が設置されたことを受け、消防庁の体制について、消防庁長官を長とする「消防庁災害対策本部(第3次応急体制)」に改組した。
さらに、同月30日午後0時50分には、航空体制を強化するため、東京消防庁大型ヘリコプターの出動を求めるとともに、同年10月14日午前9時30分には、捜索体制を強化するため、新たに2県の知事(岐阜県、富山県)に対して、緊急消防援助隊の出動を求めた。
また、発災直後から現地活動支援のために消防庁職員を長野県庁・王滝村役場等に派遣し、被害状況の確認、緊急消防援助隊に関する調整等を実施した。
同年10月9日には、消防庁長官が、過酷な環境で活動する隊員への総務大臣からの激励のメッセージを伝達するとともに、消防隊員の活動状況を視察し、激励した。

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ウ 緊急消防援助隊

消防庁長官から出動の求めを受けた緊急消防援助隊は、火山ガス(硫化水素、亜硫酸ガス)の検知が行える資機材(LCD3.3)を保有する高度救助隊、山岳地域での活動に精通した救助隊及び航空隊を中心とする編成により、御嶽山へ出動した。活動概要は以下のとおり(特集3-4表)。

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(ア)出動期間
平成26年9月27日から同年10月17日まで(21日間)
(イ)活動規模
a 1,049隊 4,332人
b 活動規模のピーク
73隊 304人(平成26年10月16日)
(ウ)主な活動内容
a 東京消防庁指揮支援隊は、発災後直ちに長野県庁に設置された消防応援活動調整本部に参集し、長野県、警察庁、防衛省、気象庁等の関係機関と連携の上、被害情報の収集、緊急消防援助隊各隊の活動方針の調整等を実施した。また、隊員の安全を確保するため、火山ガス及び降雨に対する活動中止並びに再開の基準の作成、これらの基準に基づく判断等について、関係機関との検討・調整等を実施した。
b 名古屋市消防局指揮支援隊は、発災後直ちに木曽広域消防本部に参集し、指揮支援活動を開始した。その後、関係機関との連携を強化するため、活動場所を王滝村役場に設置された現地合同指揮所に移動し、各関係機関の活動内容及び活動範囲、山頂への進出手段等について、自衛隊及び警察等と調整を実施するとともに、調整結果を踏まえた緊急消防援助隊各隊の活動内容等の決定、緊急消防援助隊各隊の活動管理等を実施した。
c 陸上隊は、発災翌日の早朝から2つの登山道に分かれて入山し、救助活動を開始した。山頂付近の山荘等において複数の要救助者を発見し、ロープやバスケット担架等を用いて、急峻な登山道を搬送した。平成26年10月1日からは、自衛隊ヘリコプターによる山頂への隊員及び資機材の輸送を開始し、活動エリアを区分けする等自衛隊や警察と連携の上、削岩機やハンマードリル等を用いた噴石の除去、ロープやスケッドストレッチャー等を用いた要救助者の搬送等の活動を実施した。同月7日からは、登山道以外の部分について面的な捜索活動を開始し、人海戦術による火山灰をかき分けながらの捜索を実施した。これらの活動は、火山活動が継続している中での活動であったことから、火山ガス検知器や防毒マスク等を携行する等、安全管理を徹底した上で実施した。
また、標高3,000メートルという活動現場であり、頭痛や低体温症を訴える隊員が出るなど厳しい活動環境であったため、隊員の体調管理を徹底した。
d 航空隊は、上空からの被害情報の収集、要救助者の捜索を実施した。
また、被害情報の収集においては、ヘリサットシステムを活用し、消防庁ヘリ1号機(東京消防庁航空隊運航)から消防庁に映像を送信した。

エ 長野県消防相互応援協定に基づく応援

平成26年9月27日午後2時52分に、木曽広域連合長からの長野県消防相互応援協定に基づく要請を受けて、松本広域消防局の応援隊が出動した。その後、同日午後7時30分及び午後9時15分に増隊要請を受け、木曽広域消防本部を除く長野県内13消防本部から合計39隊118人が出動した。活動概要は以下のとおり。
(ア)出動期間
平成26年9月27日から同年10月17日まで(21日間)
(イ)活動規模
a 全体(延べ数)
478隊 1,483人
b 救助活動のピーク
39隊 118人(平成26年9月28日)
(ウ)主な活動状況
長野県消防相互応援隊は、災害現場において緊急消防援助隊とともに、要救助者の救助活動及び救急活動等を実施した。また、無線中継車を活用し、消防機関の活動状況等について、消防庁に対して映像送信によるリアルタイムの情報提供を実施した。

オ 長野県及び岐阜県防災航空隊

長野県及び岐阜県の防災航空隊は、上空からの要救助者の捜索活動及び救急搬送等を実施した。

カ 地元消防機関の活動

(ア)長野県
木曽広域消防本部は、発災後直ちに被害情報を収集するとともに、地元消防機関として地理情報に長けていたことから、災害現場において緊急消防援助隊を先導する等、関係機関と連携した要救助者の救助活動等を実施した。
また、木曽町消防団及び王滝村消防団は、ヘリベースとなった松原スポーツ公園において、粉塵が舞い上がるのを防ぐために散水活動を実施する等、支援活動を実施した。

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(イ)岐阜県
下呂市消防本部は、災害発生後直ちに被害情報を収集するとともに、岐阜県警察と連携し、要救助者の救助活動等を実施した。
また、下呂市消防団は、下呂市災害対策本部に入り、情報収集活動等を実施した。

(3) 火山噴火に関して緊急的に行う主な被害防止対策

御嶽山噴火では、火口周辺で多くの登山者が被災し、我が国の火山防災対策に関する様々な課題が整理されているところである。今回の噴火を教訓に、こうした火山災害を二度と起こさないよう、関係府省庁において、「火山噴火に関して緊急的に行う主な被害防止対策」が取りまとめられ、以下の主な取組みを緊急的に行うものとしている。

ア 緊急の取組

(ア)緊急調査の実施
常時観測47火山における災害情報伝達手法、避難施設(退避壕・退避舎等)の整備状況・計画等に係る緊急調査
(イ)常時観測47火山全てにおける火山防災協議会の設置
各火山防災協議会への国の職員の参画や、火山防災協議会等連絡・連携会議の定期的な開催などを通じ、各火山地域への働きかけを強化
(ウ)登山者や旅行者に対する適切な情報提供と安全対策
a 登山者等に対する火山防災情報の提供のあり方を検討した上で、確実かつ迅速な情報伝達のため、携帯電話やサイレン等多様な手段の整備促進
b ホームページや旅行業者等を通じて、安全確保に必要な最新の火山防災情報を登山者や旅行者に提供するとともに、御嶽山噴火に関しての風評被害を防止するための正確な情報を発信
c 火山における登山届の位置づけの明確化について地方公共団体に働きかけ
(エ)火山観測体制の強化等
a 御嶽山噴火に関する総合調査、御嶽山の火山活動の推移を把握するための観測強化
b 火口付近への観測施設増強の検討
c 常時観測が必要な火山の見直し

イ 中期的な取組

(ア)避難施設の整備、救助体制の強化
a 登山者等の安全確保のため、地方公共団体における退避壕等の整備に対する支援拡充
b 火山災害現場での救助・情報収集に必要な装備等の充実強化
c 山岳救助活動のあり方に関する検討
(イ)火山観測体制の更なる強化と調査研究の推進
a 水蒸気噴火をより早期に把握できる手法の開発
b 火山災害の軽減に貢献する研究の充実及び研究人材の育成方策を検討
c 地震・火山観測施設のうち更新が必要な施設への計画的な対応
ウ 継続的な取組
(ア)火山災害に対する防災教育の推進
a 山岳協会等と連携した、登山者に対する防災教育の実施に向けた検討
b 指導方法の開発や防災アドバイザーの派遣等、学校における実践的な安全教育への支援を、火山地域においても重点的に実施
(イ)火山防災訓練の推進
a 複数の地方公共団体や火山防災協議会メンバーが連携した訓練
b 火山ハザードマップに即した訓練
c 住民のみならず登山者や旅行者への迅速な情報伝達体制を確認する訓練

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