平成26年版 消防白書

4.福岡市の有床診療所火災を踏まえた有床診療所・病院火災対策の推進

(1) 福岡県福岡市診療所火災の概要

平成25年10月11日、福岡県福岡市の有床診療所において、死者10名、負傷者5名という重大な人的被害を伴う火災が発生した。医療施設で10名以上の死者を伴う火災が発生したのは、昭和48年(1973年)の福岡県北九州市における火災(死者13名)以来のことである。
この有床診療所は、鉄筋コンクリート造の地下1階・地上4階建の建物で、火災発生時は自動火災報知設備の鳴動後、当直の職員が火災を発見したが、施設から消防機関への通報は行われなかった。また、初期消火のための消火器・屋内消火栓設備は設置されていたものの、使用されなかった。
この有床診療所では、消防訓練が適切に実施されておらず、また、建築基準法上の定期調査報告の対象として特定行政庁(福岡市)により指定されていなかったため、設置されていた防火戸の点検も適切に行われていなかった。
このように初動対応が不十分であったことや階段部分の防火区画(竪穴区画)を形成する防火戸が閉鎖せず、階段室等を経由して早期に煙が建物内に充満したことが、多数の死傷者を発生させた一因として考えられている。

(2) 全国の有床診療所・病院に対する実態調査の概要

この火災を踏まえ、消防庁、厚生労働省及び国土交通省において、実態調査を行った。
このうち、消防庁の「病院・診療所等に係る実態調査」によると、病院(1万2,429施設)のうち、スプリンクラー設備の設置義務のない3,000m2未満の施設は5,638施設(45%)あり、スプリンクラー設備の設置率は13%であった(病院全体では58%)。また、法令で義務付けられている年2回以上の消火・避難訓練の実施率は病院全体で70%であった。
有床診療所(7,744施設)のうち、スプリンクラー設備の設置義務のない6,000m2未満の施設は7,660施設(99%)あり、スプリンクラー設備の設置率は4%であった(有床診療所全体では5%)。また、法令で義務付けられている年2回以上の消火・避難訓練の実施率は有床診療所全体で36%であった(特集3-5表)。

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(3) 有床診療所・病院における今後の火災対策のあり方

この火災を踏まえ、消防庁では「予防行政のあり方に関する検討会」の下に学識経験者、有床診療所・病院関係団体、消防機関、関係省庁(厚生労働省及び国土交通省)で構成される「有床診療所・病院火災対策検討部会」を発足させ、有床診療所・病院等の火災被害拡大防止対策及び火災予防行政の実効性向上等に関する検討を行い、平成26年7月に報告書を取りまとめた。報告書を踏まえ、消防庁においては、関係機関と連携しながら、以下の対策の実施を進めている。

ア 自主チェックシステム等ソフト面での対策

ICTを活用し、関係省庁間で情報を共有できる「有床診療所防火対策自主チェックシステム」が、平成26年4月から運用を開始し、全国で利用が進んでいるが、防火対策の充実のため、更なる利活用の促進を図っている。また、「有床診療所等における火災時の対応指針」による実践的な訓練の実施を推進するなど、防火管理体制の向上を図っている。

(有床診療所防火対策自主チェックシステムの概要)
有床診療所の防火対策は、消防、建築、医療分野にまたがり、関係省庁が連携してサポートすることができる。また、ICT技術を活用して自主チェックしたデータを関係省庁が共有することにより、効果的な対策を講じることができる。

  • 入力項目は、消防・建築・医療に関するもの(約30項目)を横断的に設置
  • 消防訓練、防火戸等の作動点検、医療機器の保守点検などの実施状況について、事業者自らがチェックし、システムに入力
  • 法定点検項目に要改善箇所があれば表示する機能を有し、事業者が自ら防火対策の改善点を把握することが可能
  • 消防庁に設置したサーバーに蓄積された情報を関係省庁で共有し、早期改善の促進に向けた方策を横断的に検討
  • 地方においては、消防部局・建築部局・医療部局が連携して早期改善を促進

なお、建築基準法が改正(平成26年法律第54号)されたことを受け、国土交通省において、防火戸を含む防火設備などの定期調査・検査の対象の見直しを行うなど防火設備に関する検査の徹底等を行うこととされている。

イ スプリンクラー設備等ハード面での対策

有床診療所・病院について、面積にかかわらず消火器及び火災通報装置の設置を義務化するとともに、特に「避難のために患者の介助が必要な有床診療所・病院」については、面積にかかわらず、スプリンクラー設備の設置及び自動火災報知設備と火災通報装置の連動を義務づけることとした。こうした設置基準の強化を主たる内容とする消防法施行令の一部を改正する政令は平成26年10月16日に公布された(施行日:平成28年4月1日)。

ウ その他必要な対策

消防部局、医療部局及び建築部局等の関係機関における情報の共有・連携が不可欠であることから、立入調査等実施時において建築基準法や消防法などの防火関係規定の不備を把握した行政機関から他の関係部局への情報共有を適切に実施することで、その後の改善に的確に結びつけていくことのできる体制の構築を図っている。

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