平成27年版 消防白書

1.消防本部における女性消防吏員の活躍推進

(1) 女性消防吏員を取り巻く現状

消防本部においては、昭和44年(1969年)に初めて女性消防吏員の採用が始まり、平成6年(1994年)には「女子労働基準規則」の一部が改正され、消防分野における深夜業の規制が解除された。これにより、女性消防吏員も24時間体制で消防業務に従事できるようになり、現在は救急隊員のほか消防隊員などの警防業務を含む交替制勤務を行う女性消防吏員が全女性消防吏員の約5割となっている。
このように、少しずつ女性消防吏員の増加や、職域の拡大が図られてきたところであるが、平成27年4月1日現在、全国の女性消防吏員数は3,850人で、全消防吏員に占める女性の割合は、2.4%と、未だ低い水準となっている(トピックス1-1図)。

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また、全消防本部の約4割にあたる288本部が、所属する女性消防吏員が全くいない消防本部となっている。
消防の分野においても、女性の力を最大限に活用して組織の活性化を推進するための環境整備が重要課題であることから、女性消防吏員がいきいきと職務に従事できる職場環境づくりを、ソフト、ハード両面から支援する方策の検討を目的に、消防庁において、「消防本部における女性職員の更なる活躍に向けた検討会」(以下「検討会」という。)を平成27年3月から7月まで開催した。

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(2) 女性活躍推進の考え方

具体的に、消防本部における女性の活躍推進をどのように進めていくべきかについて、検討会では次のことが提言された。

ア 適材適所を原則とした職域の拡大

女性消防吏員の職域については、これまで、防火指導、予防、救急などの特定の分野に多く配属されてきたが、消防の活動においては、女性の就労に関して「重量物を取り扱う業務」や「有害物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務」に係る一部の制限のみ存在するだけで、当該制限による制約以外には、従事できる職域に男女の差異はない。消防組織においても意欲と能力に応じた採用や適正な昇任、人事配置がなされ、女性消防吏員の職域拡大が図られるべきである。

イ 女性消防吏員比率の増加

女性の活躍を進めるためにも、それぞれの消防本部が女性消防吏員の比率を計画的に増やしていくことが不可欠である。
その際、消防本部の規模やこれまでの採用実績等により、対応に差が見られてもやむを得ないと考えられるが、女性の活躍を進めるという方向性を全国の消防全体で共有すべきである。

ウ 消防本部トップの意識改革

これまで女性消防吏員がいなかった職場などでは、女性を受け入れることに伴い、多様な課題が生じうることも想定されることから、女性活躍推進に向けては、各消防本部のトップである消防長及び幹部職員の意識改革が不可欠である。

エ ライフステージに応じた様々な配慮の必要性

仕事に関わる能力に基本的に男女の違いはないとはいえ、現状においては、女性消防吏員が極端に少ない状況であること、妊娠・出産など母性保護にかかる配置や、子育て期における配慮が必要であることから、女性についてライフステージに応じた人事上の様々な配慮が必要である。
なお、こうしたライフステージに応じた配慮の必要性については、職員の高齢化、共働き世帯の増加、介護責任を担う職員の増加等により、女性特有の課題ではなく男女共通の人事管理上の課題として捉えるべきである。

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(3) 女性消防吏員の活躍推進に向けた今後の取組

検討会の提言内容を踏まえ、消防庁として、「消防本部における女性消防吏員の更なる活躍に向けた取組の推進について」(平成27年7月29日付け消防消第149号消防庁次長通知)により、以下の取組を市町村に対し要請した。

ア 女性消防吏員の計画的な増員の確保

消防全体として、消防吏員に占める女性消防吏員の全国の比率を、平成38年度当初までに5%に引き上げることを共通目標とする。
この共通目標の達成に向け、各消防本部においては、本部ごとの実情に応じながら、以下を目安として数値目標を設定した上で、計画的な増員に取り組むこと。

【目標設定の目安】

ⅰ 毎年の女性採用者数をこれまでの2倍から2.5倍程度以上に引き上げることにより、女性消防吏員比率を10年間で倍増 ただし、地域の中核的な消防本部など一定規模以上の消防本部では、少なくとも5%水準まで増加
ⅱ 女性消防吏員がゼロの消防本部については、これを早期に解消するとともに、可能な限り速やかに複数人を確保

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a 積極的なPR活動の展開

女性消防吏員を増加させるためには、まずは消防を自らの職業として選択肢に含める女性を大幅に増やすことが喫緊の課題であることから、各消防本部は、これから社会人になる年齢層の女性に対し、具体的な業務内容や勤務条件等を含め、消防の仕事の魅力について、より積極的にPRするとともに、消防は女性が活躍できる職場であることの理解を深めるための説明会等を行うこと。

b 採用試験における身体的制限について

採用募集に際し、身長・体重等の身体的制限を設けている消防本部においては、こうした制限が、消防の職務の遂行上、必要最小限かつ社会通念からみて妥当な範囲のものかどうか、検証の上、必要に応じて見直しを検討すること。

c 女性消防吏員の増加を踏まえた円滑な人事管理等の検討

消防は、市長部局の他の業務とは異なり、一定の隊員数で現場での部隊活動を行うため、現場活動従事者に長期の休暇や休業を取得する職員が生じた際に、必ずその欠けた1人を代替として補充しなければ部隊活動に支障を来すという職務上の特殊性を有する。
今後、消防本部が行う女性消防吏員の採用の大幅拡大にあわせ、市町村においては、消防における職務上の特殊性を理解のうえ、適切な措置を検討すること。具体的には、想定される休業等に際し、消防力を継続的に維持できるような代替職員の確保等が考えられること。

イ 適材適所を原則とした女性消防吏員の職域の拡大

消防業務において、法令による制限を除き、性別を理由として従事できる業務を制限することはできないことを十分に理解し、女性消防吏員の意欲と適性に応じた人事配置を行うこと。
なお、各隊の活動水準について一定レベルを確保することは必要不可欠であり、性別を問わず、各隊員がその活動に必要な能力を満たさなければならない点に留意すること。

ウ ライフステージに応じた様々な配慮

現状においては、女性消防吏員が極端に少ない状況であること、妊娠・出産といった母性保護にかかる配慮や、子育て期における配慮が必要であることから、以下のように、女性についてライフステージに応じた人事上の様々な配慮が必要である。

(ア)仕事と家庭の両立支援

各消防本部においては、育児休業、子の看護休暇、介護休暇制度及び育児短時間勤務制度等、法令上規定された制度の活用を促進することはもとより、男性を含む職場全体で超過勤務の縮減などを進め、仕事と家庭の両立支援に積極的に取り組むこと。
また、各消防本部は、市町村長部局とも連携しつつ大規模災害時等に緊急に対応できる子供の預け先の確保などの子育て支援策の創設、拡充を進めるとともに、緊急参集要員の免除を含めた柔軟な対応を実施すること。

(イ)女性消防吏員が消防職務を継続していくための支援

女性消防吏員が圧倒的に少ないという現状に鑑み、各消防本部においては、女性消防吏員が仕事をしていく上で適切な援助や助言を得ることができるメンター制度の導入や相談窓口を設置するよう努めること。
また、育児休業からスムーズに職務に復帰し、自身のキャリアを積み重ねていくために、育休中の職員に対する業務関連情報の提供、職場復帰時における研修の実施等の支援策を講じること。

(ウ)キャリアパスイメージやロールモデルの提示

消防本部によっては、女性消防吏員が、同じ職場にロールモデル等がないことにより将来のキャリアを描きにくい現状があることから、比較的女性消防吏員が多い消防本部の事例等を参考に女性消防吏員のキャリア形成を支援し、職域拡大を促進すること。

(エ)「ポジティブ・アクション」としての研修機会の拡大

平成6年(1994年)の交替制勤務の解禁以前の世代など、年代によっては、各消防本部における幹部への昇進に必要な経験を積んでいない女性消防吏員もいることから、各消防本部や都道府県消防学校において、こうした女性消防吏員が更にキャリアを拡大することができるようにするための研修を積極的に実施すること。
なお、消防大学校においては、入校要件や研修期間の検討によって研修を受けやすくなる工夫を行い、女性消防吏員向け養成コースを設置するとともに、幹部教育・専科教育の女性応募枠を確保するなど、女性消防吏員の研修機会の拡大を図る予定である。

エ 消防長等消防本部幹部職員の意識改革

消防長は、消防本部のトップとして消防事務を統括し、すべての消防職員を指揮監督するほか、消防の組織編成権を有するなど、市町村の他の幹部職員と比較しても特に重い責任・権限を有している。そのため、消防長には、女性消防吏員の活躍推進を組織的に実施していくため強いリーダーシップを発揮することが求められる。
全国750消防本部の消防長は、女性の活躍推進の意義を十分に理解し、自らの責務として各種の施策を実行すること。また、消防本部幹部職員に対しても、研修等により女性の活躍推進について理解を深めるよう取組を行うこと。

オ その他

(ア) 施設・装備の改善

各消防本部においては、女性消防吏員の活躍の場を広げるために、消防本部・消防署・支所(出張所)等において、女性専用のトイレ、浴室、仮眠室などの施設整備を計画的に推進すること。
また、女性消防吏員の要望に応じて、女性用の被服・装備品の導入を積極的に進めること。

(イ)女性の活躍情報の「見える化」の推進

各消防本部においては、女性割合、女性の採用者数、女性の管理職の割合、女性活躍推進に向けた取組状況について、ホームページに掲載するなど「見える化」を推進すること。
消防庁としても、先進的な取組を行っている消防本部の事例を全国に共有する等により、各種取組の広がりを推進することとする。
消防庁としては、これらの取組の考え方、対応方針等について、ホームページなどにより全国の消防本部等に対し周知を図っている。今後は、消防本部の先進事例や取組状況などについて情報提供を行うとともに、女性消防吏員の採用拡大に向けたPR活動に対する支援に取り組むこととしている。

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