平成27年版 消防白書

4.情報化の今後の展開

(1) 消防防災通信ネットワークの充実強化

消防庁では、ICTを積極的に活用し、次の事項に重点をおいて消防防災通信ネットワークの充実強化を推進することにより、地方公共団体と一体となって国民の安全・安心をより一層確かなものとすることとしている。

ア 消防救急無線のデジタル化の推進

従来から、アナログ方式(150MHz帯)により整備・運用されてきた消防救急無線は、車両動態管理・文字等のデータ通信や秘話性の確保による機能向上及び電波の有効活用を図る観点から、平成28年5月末までにデジタル方式(260MHz帯)に移行することとされている。150MHz帯の使用期限は、電波法第26条に基づく周波数割当計画の一部変更(平成20年総務省告示第291号)により規定されている。
東日本大震災においては、無線の機器や基地局の被害により、緊急消防援助隊として出動している部隊と総合調整を行う消防応援活動調整本部との通信、同県内で活動している部隊同士の通信、緊急消防援助隊として出動している部隊と受援消防本部との通信等の一部に問題が生じた。
消防救急無線をデジタル化することにより、明瞭な音声通話や文字情報を伝送することにより一層的確な指示を発令することができること、チャンネル数が増加し無線の輻輳・混信が抑制できること、消防本部間の通信ネットワークが接続され、より広域的な通信が容易になることなどのメリットがあることから、東日本大震災の教訓を踏まえ、災害に強い消防通信基盤を確保し、今後の大規模災害において緊急消防援助隊の応援と受援をスムーズかつ一元的に行うため、全国の消防本部は早急に消防救急無線をデジタル化していく必要がある。
そこで、平成23年度補正予算(第3号)において、消防救急無線のデジタル化を緊急に進めるために必要な経費を補助金として地方公共団体に交付しており、平成24年度以降においても、緊急消防援助隊設備整備費補助金としてデジタル化を進めるために財政措置を講じている。また、電波法の一部改正(平成25年6月12日施行)により、電波利用料の使途の範囲が拡大され、消防救急無線と防災行政無線(移動系)を共に260MHz帯へ移行する場合のデジタル無線システムの整備費の一部が補助されることとなった。
さらに消防庁では、技術アドバイザーの派遣、デジタル化実証試験で得られた知見の提供など全国の消防救急無線のデジタル化が円滑に行われるよう支援策を推進してきたところ、全ての本部で整備着手済みとなり期限内にデジタル化が完了する見込みである。また、デジタル方式への移行後についても、消防救急無線の保守修繕費について必要な財政支援を進めていくこととしている。

イ 住民への災害情報伝達手段の多重化・多様化

豪雨、津波等の災害時においては、一刻も早く住民に警報等の防災情報を伝達し、警戒を呼びかけることが、住民の安全・安心を守る上で極めて重要である。市町村防災行政無線(同報系)は、東日本大震災においても住民への大津波警報等の伝達に活用されたが、全ての住民に情報が伝達する観点から、より多くの住民への情報伝達を行う工夫が必要である。一方で、地域によっては長期間の停電により機能が失われたことや、庁舎が被害を受けて使用できなかったこと、津波により屋外拡声子局が被害を受けたこと等が報告されている。これらの状況を踏まえ、各市町村は住民への確実かつ迅速な情報伝達を確保するため、地域の実情に応じ、さまざまな情報伝達手段の特長を踏まえ、複数の手段を有機的に組み合わせ、災害に強い総合的な情報提供システムを構築する必要がある(第2-10-7図)。

2-10-7zu.gif

また、市町村防災行政無線(同報系)の起動が緊急時に24時間いつでも行えることが重要であることから、Jアラートからの自動起動や消防本部に遠隔制御装置を設置するなど体制の整備が必要である。
これらの地方公共団体の住民への情報伝達手段の整備を支援するため、当該市町村に適切なアドバイスを行う専門家の派遣を行う「災害情報伝達手段に関するアドバイザー派遣事業」を平成25年度より実施している。
なお、平成26年8月に発生した広島市の土砂災害等を踏まえ、市町村防災行政無線(同報系)が整備済の市区町村において、土砂災害警戒区域の世帯や、高齢者や障害者などの世帯を中心に、戸別受信機の追加配備に要する経費について、平成27年度から特別交付税措置の対象経費とし、整備促進を図っている。

ウ 防災行政無線のデジタル化の推進

近年、携帯電話、テレビ放送等様々な無線通信・放送分野においてデジタル化が進展し、データ伝送等による利用高度化が図られてきている。防災行政無線についても、これまではアナログ方式による音声及びファクシミリ主体の運用が行われてきたが、今後はICTを積極的に活用し、安全・安心な社会を実現するために、文字情報や静止画像について双方向通信可能なデジタル方式に移行することで、防災情報の高度化・高機能化を図ってきている(第2-10-8図)。

2-10-8zu.gif

平成27年3月31日現在、防災行政無線(同報系)のデジタル化率は56.2%、防災行政無線(移動系)は34.0%となっている。

(2) 消防防災業務の業務・システムの最適化

消防防災業務の業務・システムの最適化計画(平成20年3月28日総務省行政情報化推進委員会決定)に基づき、これまで進めてきた消防庁の共通インフラ基盤への一元化については、平成24年度末で完了した。一方、庁防災会議等における首都直下地震対策として政府の業務継続体制の確立や「新たな情報通信技術戦略(平成22年5月11日IT戦略本部決定)」により政府の情報システムの統合・集約化が求められていることから、消防庁の応急対応業務を速やかに復旧・継続して実施するために必要なシステムについて、バックアップシステムの構築を実施するため、消防防災業務の業務・システムの最適化計画が平成25年3月28日に改定された。それに基づき、平成26年度に業務復旧・継続が必要な災害応急対策に係るシステムのバックアップを構築した。
また、平成25年度の行政事業レビュー(公開プロセス)の評価結果(事業内容の改善)を踏まえ、今後とも、情報システムの最適化を図っていく予定である。

関連リンク

平成27年版 消防白書(PDF版)
平成27年版 消防白書(PDF版) 平成27年版 消防白書(一式)  はじめに 阪神・淡路大震災から20年 ~2つの大震災を踏まえた消防防災体制の充実~  特集1 創設20周年を迎えた緊急消防援助隊  特集2 消防団を中核とした地域防災力の充実強化  トピック...
はじめに 阪神・淡路大震災から20年 ~2つの大震災を踏まえた消防防災体制の充実~
はじめに 阪神・淡路大震災から20年 ~2つの大震災を踏まえた消防防災体制の充実~ 本白書が発行される平成27年は阪神・淡路大震災から20年に当たる節目の年である。この20年間、阪神・淡路大震災を教訓に、消防においても様々な対応がなされてきた。 そのひとつとして緊急消防援助隊があげられる。平成7年に...
特集1 創設20周年を迎えた緊急消防援助隊
特集1 創設20周年を迎えた緊急消防援助隊 平成7年(1995年)1月17日に発生した阪神・淡路大震災では、死者・行方不明者6,437人、負傷者4万3,792人、家屋被害63万9,686棟の被害があり、兵庫県内の消防応援のほか全国41都道府県、延べ約3万2,000人の消防応援が実施された。他方、近代...
1.緊急消防援助隊の充実強化に向けて
1.緊急消防援助隊の充実強化に向けて 緊急消防援助隊が更なる発展を遂げるため、運用の充実強化に向けて、以下の課題に取り組んでいる。 (1) 迅速な出動と展開 緊急消防援助隊は、消火、救助、救急及びそれらの前提となる情報収集等、国民の生命に直結する緊急性の最も高い活動を求められる部隊であり、迅速な出動...