平成29年版 消防白書

第5節 風水害対策

[風水害の現況と最近の動向]

1.平成28年中の主な風水害

平成28年中の風水害による人的被害は、死者39人(前年15人)、行方不明者4人(同1人)、重傷者69人(同63人)及び軽傷者297人(同385人)並びに住家被害は、全壊591棟(同115棟)、半壊2,602棟(同7,251棟)及び一部破損5,215棟(同6,643棟)となっている。風水害による過去10年間の被害状況の推移については「第1-5-1図」のとおり。

第1-5-1図 風水害による過去10年間の被害状況の推移

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第1-5-1図 風水害による過去10年間の被害状況の推移

(備考)「災害年報」により作成

また、平成28年中に発生した台風の数は、平年並の26個(平年値25.6個)であった。このうち、日本列島へ上陸した台風の数は6個(同2.7個)で、気象庁の統計開始以降、平成16年の10個に次いで、2番目に多い数となった。
平成28年中の主な風水害による被害状況等については、「第1-5-1表」のとおり。

第1-5-1表 平成28年中の主な風水害による被害状況等

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第1-5-1表 平成28年中の主な風水害による被害状況等

(備考)「消防庁とりまとめ報」により作成

梅雨前線が、6月19日から23日にかけて本州付近に停滞し、その前線上を次々と低気圧が通過した。
停滞した梅雨前線や低気圧に向かって暖かく湿った空気が流れ込んだ影響で、大気の状態が非常に不安定となり、西日本を中心に大雨となった。
この大雨による人的被害は、死者7人(福岡県1人及び熊本県6人)、重傷者4人及び軽傷者8人となり、死者のうち5人は、熊本地震の影響による地盤の緩みから生じた土砂崩れに巻き込まれたものであった。このほか、住家被害も多数発生した。
消防庁では、6月21日4時30分に応急対策室長を長とする消防庁災害対策室を設置し(第1次応急体制)、情報収集体制の強化を図った。また、12時15分に、各都道府県に対して「6月20日からの梅雨前線に伴う大雨に係る警戒情報」を発出し、警戒を呼び掛けた。

台風第11号は、8月20日9時に日本の東海上で発生し、北西進して東北地方に接近した後、三陸沖を北上した。その後、21日23時過ぎに北海道釧路市付近に上陸して北海道を縦断し、22日3時にオホーツク海で温帯低気圧となった。
台風第9号は、8月19日15時に北マリアナ諸島の西海上で発生し、発達しながら北上し、22日未明には暴風域を伴いながら伊豆諸島に接近した。その後、22日12時半頃に千葉県館山市付近に上陸し、関東地方、東北地方を縦断した。23日6時前には北海道日高地方中部に再び上陸して北海道を縦断した後、23日12時にオホーツク海で温帯低気圧となった。
これらの台風や前線の影響で、東日本と北日本では大雨となり、8月20日0時から23日24時までの降水量は、静岡県伊豆市天城山で448.5ミリ、東京都青梅市青梅で297.5ミリ、北海道標津町糸櫛別で296.0ミリに達するなど、とりわけ北海道では、平年の8月の降水量の2倍近い大雨となった。
また、東京都八丈町八重見ヶ原で50.9メートル、千葉県勝浦市勝浦で45.5メートル、福島県いわき市小名浜で34.3メートルの最大瞬間風速を観測するなど、各地で猛烈な風が吹いた。
これらの台風や前線による人的被害は死者2人(北海道1人及び神奈川県1人)、重傷者12人及び軽傷者64人のほか、住家被害も多数発生した。
消防庁では、8月20日16時57分に応急対策室長を長とする消防庁災害対策室を設置し(第1次応急体制)、情報収集体制の強化を図った。また、18時51分に、各都道府県に対して「北日本を中心とする大雨と台風第9号及び台風第11号警戒情報」を発出し、警戒を呼び掛けた。

台風第10号は、8月21日に四国の南海上で発生し、26日には発達しながら北上した。その後30日朝には関東地方に接近、30日17時半頃、暴風域を伴ったまま岩手県大船渡市付近に上陸し、速度を上げながら東北地方を通過して日本海に抜けるという特異な進路をたどった。台風が東北地方太平洋側に上陸したことは、気象庁が1951年に統計を開始して以来、初めてのことである。
台風第10号の影響で、岩手県宮古市、久慈市で1時間に80ミリの猛烈な雨となったほか、8月28日0時から31日6時までに北海道上士幌町で平年の8月1か月に降る雨量を超える329ミリを観測し、記録的な大雨となるなど、東北地方から北海道地方を中心に広い範囲で大雨となった。また、最大瞬間風速が岩手県宮古市で37.7メートル、北海道せたな町で36.5メートルなど、東日本から北日本では暴風となった所があった。
台風第10号による人的被害は、死者26人(北海道2人及び岩手県24人)、行方不明者3人(北海道2人及び岩手県1人)、重傷者5人及び軽傷者9人のほか、住家被害も多数発生した。
また、道路の損壊等による孤立事案が多数発生し、特に岩手県においては、最大で535世帯、1,093人が孤立した。
消防庁では、8月26日16時58分に、各都道府県に対して「台風第10号警戒情報」を発出し、警戒を呼び掛けた。また、29日10時00分には、応急対策室長を長とする消防庁災害対策室を設置し(第1次応急体制)、情報収集体制の強化を図った。
31日5時30分には、岩手県知事から消防庁長官に対して、広域航空消防応援の要請があったことを受け、同時分、国民保護・防災部長を長とする消防庁災害対策本部への改組を行った(第2次応急体制)。
さらに、10時10分には、岩手県知事から消防庁長官に対して、緊急消防援助隊の応援要請があったことを受け、同時分、消防庁長官を長とする消防庁災害対策本部への改組を行った(第3次応急体制)。
被災地では、地元消防本部のほか、県内消防応援隊及び緊急消防援助隊が総力を挙げて救助・救急活動等に従事し、特に被害の大きい北海道及び岩手県において、多数の人命救助が実施された。
北海道内及び岩手県内の消防団においては、各消防団が台風上陸前から警戒活動、水害対応、住民の避難誘導等を実施するとともに、台風通過後においても、救助活動、安否確認、行方不明者の捜索等、多くの活動を実施した。

入所者9人が亡くなられたグループホーム周辺に堆積した流木(岩泉町乙茂地区)
入所者9人が亡くなられたグループホーム周辺に堆積した流木(岩泉町乙茂地区)

台風第13号は、9月6日15時に久米島の北海上で発生し、九州の南海上を北東に進んだ後、7日9時に屋久島の南海上で熱帯低気圧となった。
台風第13号や低気圧の影響で、1時間の雨量が兵庫県養父市で89.5ミリ、栃木県小山市で81.5ミリなど猛烈な雨となったほか、全国各地で9月6日0時から9日24時の降水量が200ミリを超える大雨となった所があった。また、最大瞬間風速が沖縄県那覇市で31.3メートル、沖縄県渡嘉敷村で31.2メートルなど沖縄・奄美を中心に暴風となった。
この台風による人的被害は、死者1人(北海道)及び軽傷者2人のほか、住家被害も多数発生した。
消防庁では、9月6日17時24分に、各都道府県に対して「台風第13号及びそれに伴う大雨警戒情報」を発出し、警戒を呼び掛けた。また、9月7日10時00分に応急対策室長を長とする消防庁災害対策室を設置し(第1次応急体制)、情報収集体制の強化を図った。

台風第16号は、9月13日3時に北マリアナ諸島の西海上で発生し、17日12時頃沖縄県与那国島付近を北上した後、東シナ海を北東に進み、20日0時過ぎに、非常に強い勢力で鹿児島県大隅半島に上陸した。その後もあまり勢力を弱めることなく日本の南海上を東北東進し、13時半頃に強い勢力で和歌山県田辺市付近に再上陸し、21時に東海道沖で温帯低気圧となった。
台風第16号や前線の影響で、鹿児島県枕崎市で9月20日0時19分までの1時間に115ミリなど、各地で猛烈な雨を観測し、16日からの降水量は宮崎県日向市で607ミリとなるなど、東日本から西日本にかけて200ミリを超える大雨となり、西日本では9月の平年の降水量の1.5倍を超えた所があった。
また、沖縄県与那国町で9月17日10時06分に最大瞬間風速66.8メートル、鹿児島県枕崎市で20日0時08分に最大瞬間風速44.5メートルを観測するなど、南西諸島から西日本にかけて猛烈な風が吹いた。
この台風による人的被害は、死者1人(愛知県)、重傷者14人及び軽傷者33人のほか、住家被害も多数発生した。
消防庁では、9月16日17時12分に、各都道府県に対して「台風第16号警戒情報」を発出し、警戒を呼び掛けた。また、9月19日11時16分に応急対策室長を長とする消防庁災害対策室を設置し(第1次応急体制)、情報収集体制の強化を図った。

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