平成29年版 消防白書

7.災害別対策

(1)洪水

流域に降った大量の雨水が河川に流れ込み、特に堤防が決壊すると、周辺地域では大規模な洪水被害が発生する。一方、近年では、平常時には川遊びができるような穏やかな中小河川であっても、上流域で激しい雨が降ることで短時間のうちに極めて急激に増水して勢いを増し、氾濫して甚大な被害をもたらす事例が各地で発生している。
平成27年9月関東・東北豪雨では、鬼怒川及び各地の中小河川の上流域に降った非常に激しい雨等により、河川の氾濫、堤防の決壊等が発生し、栃木県、茨城県、宮城県を中心に関東・東北地方等で浸水被害が生じた。
洪水被害への対策として、消防庁では、市町村に対して以下の取組等について呼び掛けている。

平成27年9月関東・東北豪雨 茨城県常総市の被災現場(緊急消防援助隊千葉県大隊提供)
平成27年9月関東・東北豪雨 茨城県常総市の被災現場
(緊急消防援助隊千葉県大隊提供)

[1] 大雨、洪水等の警報や、雨量、河川水位に関する情報などの防災情報を的確に収集し早い段階から住民に伝達するとともに、避難勧告等は時期を逸することなく早めに発令・伝達すること。
[2] 地下空間の施設管理者と連携し、地下空間での豪雨及び洪水に対する危険性について利用者に対して事前の周知を図り、浸水対策及び避難誘導等安全体制を強化すること。洪水時には迅速かつ的確に情報を伝達し、利用者の避難のための措置等を講じること。
[3] 大雨後の河川増水時、河川管理者と連携し、水辺利用者に対して速やかに安全な場所へ避難するよう注意を促すなど適切に対応すること。また、水難事故防止についての自助意識を啓発すること。
また、平成28年台風第10号災害を踏まえ、洪水への対策強化として以下の事項について防災基本計画が修正された。
[1] 避難勧告等の対象者の明確化及び分かりやすい避難行動の伝達
[2] 要配慮者利用施設の非常災害に関する具体的計画の作成
[3] 国や都道府県の市町村に対する助言・情報伝達
[4] 避難情報について、「避難指示(緊急)」及び「避難準備・高齢者等避難開始」へ名称変更

(2)土砂災害

大雨の際には、土石流、地滑り、崖崩れなどの土砂災害に厳重に警戒する必要がある。近年では、平成27年9月関東・東北豪雨や平成29年7月九州北部豪雨などで、多数の土砂災害が発生し、死者、負傷者を出す被害となった。
消防庁では、市町村に対して主に以下の取組等について呼び掛けている。
[1] 土砂災害は、突発的に発生し、発生場所や発生時刻を予測することが困難であることから、土砂災害警戒情報が発表された場合は、危険度が高まっている土砂災害警戒区域・危険箇所等に直ちに避難勧告を発令すること。
[2] 避難準備・高齢者等避難開始を発令する段階で、主要な指定緊急避難場所等を開設し始めるとともに、局地的かつ短時間豪雨の場合等、避難のためのリードタイムがなく危険が切迫している状況にあっては、指定緊急避難場所等開設前であってもちゅうちょなく避難勧告等を発令すること。
また、平成26年8月に発生した広島市の土砂災害を踏まえ、土砂災害への対策強化として以下の事項について防災基本計画が修正された。

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平成26年広島県広島市の土砂災害の被災現場
(内閣府提供)

[1] 土砂災害警戒情報及びこれを補足する情報(メッシュ情報)等を活用した避難勧告の発令範囲の設定
[2] 避難準備情報(※)の発令による自主的な避難の促進
[3] 災害に適した指定緊急避難場所へ避難すべきことを周知
※ 平成29年1月の「避難勧告等に関するガイドライン」の改定にともない、「避難準備情報」は「避難準備・高齢者等避難開始」に名称変更されている。

(3)高潮

平成11年(1999年)9月に熊本県不知火海岸で高潮により12人の死者が発生したこと等を踏まえ、消防庁では、平成13年3月に内閣府、農林水産省、国土交通省等と共同で、高潮対策強化マニュアルを策定した。
また、平成28年2月には高潮災害への対策強化として以下の事項について防災基本計画が修正された。
[1] 高潮警報等の予想最高潮位に応じて想定される浸水区域に避難勧告等を発令できるような具体的な避難勧告等の発令対象区域の設定
[2] 高潮警報等が発表された場合に直ちに避難勧告等を発令することを基本とした具体的な避難勧告等の発令基準の設定

(4)竜巻等突風

竜巻等突風による災害は全国各地で発生している。平成24年5月6日に、茨城県、栃木県及び福島県において複数の竜巻が発生し、死傷者や多くの住家被害が発生する被害となった。
この竜巻災害を受けて、消防庁では同年5月に、地元気象台などとも連携の上、気象情報に十分留意し、竜巻等突風災害に係る対応についての住民に対する周知、啓発等に努められるよう、通知や会議等において要請した。また、政府においては、関係府省庁からなる「竜巻等突風対策局長級会議」(事務局:内閣府)が開催され、8月に竜巻等突風に係る住民、市町村及び国の今後の取組等について報告が取りまとめられた。これを受けて、消防庁では同報告に留意の上、竜巻等突風対策に取り組むよう要請した。
また、平成25年においても、埼玉県越谷市等で竜巻等突風により大きな被害が発生したことに鑑み、竜巻等突風対策局長級会議が開催され、予測情報の改善、災害情報等の伝達のあり方、防災教育の充実、建造物の被害軽減策(窓ガラス対策等)のあり方、被災者支援のあり方について報告が取りまとめられた。消防庁及び気象庁では、平成25年4月より栃木県及び茨城県、平成26年4月より関東地方一円において、消防本部に寄せられる竜巻等突風の発生に関する通報の内容を気象台に情報提供する取組を試行的に実施した。この試行において一定の成果を得たことから、平成28年度から既に実施している都県をはじめ、その他の全国の道府県の消防本部においても、実施準備の整ったところから順次運用を開始している。

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平成25年9月2日の埼玉県越谷市の竜巻被害
(埼玉県越谷市提供)

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