平成29年版 消防白書

4.救助体制の課題

(1)体制の整備

消防機関の行う救助活動は、火災、交通事故、水難事故、自然災害からテロ災害などの特殊な災害にまで及ぶものであり、消防庁ではこれらの災害に対して適切に対応できるよう所要の体制の整備を進めている。特に平成16年10月に発生した新潟県中越地震、平成17年4月に発生したJR西日本福知山線列車事故などを踏まえて全国的な救助体制の強化の必要性が高まり、平成18年4月に救助省令を改正し、新たに東京消防庁及び政令指定都市消防本部に特別高度救助隊を、また、中核市等消防本部に高度救助隊を創設した*1。これらの隊には従来の救助器具に加え、地震警報器や画像探索機などの高度救助用器具を備えることとし、関係消防本部において着実に整備が進められてきた。また、この特別高度救助隊及び高度救助隊の隊員の構成については、人命の救助に関する専門的かつ高度な教育を受けた隊員で構成することとし、その隊員の教育を消防大学校や各都道府県、各政令指定都市の消防学校などにおける教育訓練に取り入れた。

*1 救助省令に基づき、人口10万人以上の消防常備市町村には、特別救助隊が設置され、中核市等では1以上の特別救助隊を高度救助隊とし、また、東京消防庁及び政令指定都市では、1以上の高度救助隊を特別高度救助隊とすることとされている。

(2)車両及び資機材の整備

平成31年にラグビーワールドカップ2019、平成32年に2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会など、大規模イベントが開催予定であり、国内外においてテロの発生が危惧される中で、有毒化学物質や細菌などの生物剤、放射線の存在する災害現場においても迅速かつ安全な救助活動を行うことが求められている。こうした状況を踏まえ消防庁では、救助隊の装備の充実を図るため、消防組織法第50条(国有財産等の無償使用)に基づき、主要都市に特殊災害対応自動車*2、大型除染システム搭載車*3、化学剤検知器など所要の車両及び資機材を配備している。

特殊災害対応自動車の写真
特殊災害対応自動車
特殊災害対応自動車の積載資機材(可搬型化学剤検知・同定装置)の写真
特殊災害対応自動車の積載資機材(可搬型化学剤検知・同定装置)
大型除染システム搭載車の写真
大型除染システム搭載車

また、大規模地震や特殊な事故に備え、同じく無償使用により、ウォーターカッター装置*4と大型ブロアー装置*5を搭載した特別高度工作車や大規模震災用高度救助車*6などの車両・資機材を配備している。

特別高度工作車の写真
特別高度工作車
大規模震災用高度救助車の写真
大規模震災用高度救助車

さらに、広島土砂災害や御嶽山噴火災害を踏まえ、重機*7及び重機搬送車並びに火山対応型山岳救助資機材キット*8、有毒ガス(化学剤)検知器を配備し、緊急消防援助隊の充実強化を図っており、各消防本部では、これらの資機材等を活用した訓練が実施されている(第2-6-4表)。

重機及び重機搬送車の写真
重機及び重機搬送車

第2-6-4表 主な車両及び資機材の配備状況(無償使用によるもの)

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第2-6-4表 主な車両及び資機材の配備状況(無償使用によるもの)の画像。詳細は、Excelファイル、CSVファイルに記載。

*2 特殊災害対応自動車:NBC災害に対応するため各種検知器や防護服などを積載することができる構造を有する車両

*3 大型除染システム搭載車:NBC災害において隊員及び曝露者などを除染するために、1時間に200人以上除染できる大型除染システムを積載した車両

*4 ウォーターカッター装置:研磨剤を含む高圧の水流により切断を行う器具。切断時に火花が発生しないため危険物や可燃性ガスが充満した場所でも使用可能

*5 大型ブロアー装置:車両積載の高性能大型排煙機。排煙と同時に噴霧消火等も可能

*6 大規模震災用高度救助車:一般の救助工作車よりも小型な車両2台で1組とし、震災対応に特化した資機材を搭載する車両

*7 重機:がれき、土砂などの障害物を除去することにより、道路の啓開、救助隊等と連携した効果的な救助活動を行う。

*8 火山対応型山岳救助資機材キット:噴火災害時において、活動が困難な救助現場に対処するため、火山性ガス検知器や防毒マスク、山岳用資機材をセットにしたもの

(3)救助技術の高度化等

多様な救助事案に全国の消防本部が的確に対応しうることを目的に、救助技術の高度化などを推進するため、平成9年(1997年)度以降、有識者や消防機関関係者などにより構成される検討会において検討を行うほか、全国の救助隊員などの意見交流の場として、平成10年(1998年)度以降、全国消防救助シンポジウムを毎年度開催している。
平成28年度は、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会などに向けて、NBC等大規模テロ災害時における消防機関の対応能力をより一層充実、向上させることが求められていることを踏まえ、消防機関におけるテロ対策等を充実させるため、「消防機関におけるNBC等テロ大規模テロ災害時における対応能力の高度化に関する検討会」を開催した。
検討会においては、各消防本部の体制等について現状分析を行った上で、これまでの訓練などにおいて培った経験、教訓や近年のテロ災害の状況等を踏まえ、時系列的に各部隊に求められる活動や戦術を整理し、実践的なものとするための検討を行い、消防活動上の留意事項、活動要領及び除染要領などをまとめた「化学災害又は生物災害時における消防機関が行う活動マニュアル」及び「爆弾テロ災害時における消防機関が行う活動マニュアル」を作成した。
また、平成29年度は、近年の局所的な豪雨、台風等の自然災害による浸水区域での救助事象が頻発していることから、「大規模自然災害に伴う浸水区域における救助技術の高度化に関する検討会」を開催し、各消防本部の対応状況等について現状分析を行うとともに、これまでの実災害において培った経験や教訓を踏まえ、安全かつ効率的な救助活動を実施するための活動要領等について検討を行っている。
一方、全国消防救助シンポジウムは、「関係機関との連携強化がもたらす救助活動の効率化」として、平成29年12月12日に開催され、連携体制の地域格差を無くし、より一層質の高い救助サービスを地域住民へ提供する一助となるよう、専門家による講演や消防本部による事例研究発表、総合討論を行い、全国の消防本部の経験、知見及び技術を共有することにより、我が国における救助体制の一層の充実を図る機会とした。

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