平成29年版 消防白書

2.今後の取組

(1)航空消防防災体制の整備

大規模災害及び複雑多様化する各種災害並びに救急業務の高度化に対応するため、消防庁では、従来から消防防災ヘリコプターの全国的配備を推進し、平成29年11月現在、2県域を除く45都道府県域で配備されている。
広域的な情報収集など国の任務を担う消防庁ヘリコプターについては、消防組織法第50条の規定による無償使用制度を活用し、東京消防庁へ1号機(平成17年12月)、京都市消防局へ2号機(平成23年8月)、埼玉県へ3号機(平成24年3月)、宮城県へ4号機(平成25年6月)、高知県へ5号機(平成25年8月)を配備した。
大地震により道路等が寸断されても、迅速かつ確実に情報を取得するためには、消防防災ヘリコプターを活用して、上空から情報収集活動を行うことが極めて有効であり、平成23年3月に発生した東日本大震災も、地上からのアプローチが困難な状況において、ヘリコプターにより多数の救助・救急・輸送活動等が実施された。また、大規模な林野火災発生時においても、多数のヘリコプターを集中的に投入し空中から消火活動を実施することで、火災の延焼拡大防止・早期の鎮火を図っている。
このため、消防庁では、緊急消防援助隊の機能強化のため、救助消防ヘリコプター、ヘリコプターテレビ電送システム、赤外線カメラ等の高度化資機材、消火用タンク及びヘリコプター用衛星電話の整備に対して補助金を交付し、大規模災害時等における航空消防防災体制の充実強化を図っている。また、消防庁ヘリコプターには、人工衛星へ直接映像情報を伝送するヘリサットシステムを搭載し、地上の受信設備に頼らず、リアルタイムの映像伝送が可能となる情報伝送体制の強化を図り、大規模災害発生時における被害情報把握と緊急消防援助隊派遣の迅速化に取り組んでいる。
これらに合わせて、ヘリコプター動態管理システムの整備を進めることにより、活動現場における消防防災ヘリコプターの位置、動態情報をリアルタイムで把握し、大規模災害時の消防庁及び現地災害対策本部等におけるオペレーションが迅速かつ効果的なものとなるよう機能強化を図っている。また、消防防災ヘリコプターは、通常VFR(有視界方式)*1での飛行を行っているところであるが、夜間や悪天候時においても円滑な広域応援を行うことが可能となるよう、現在、航空局において低高度でのIFR(計器飛行方式)*2幹線ルート網の構築に向けた検討が行われている。
消防庁では、平成21年8月に新潟・福島間に開設されたRNAV(広域航法)*3飛行経路において平成22年6月に検証飛行を実施した。続いて、平成26年5月から大島・八丈島間に新たに開設された試行ルートで、さらに平成27年11月に実施された第5回緊急消防援助隊全国合同訓練においても、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と協同でRNAV運航に関する検証を実施している。

*1 VFR(visual flight rules:有視界飛行方式):操縦士が目視により地表、地上の障害物、空中の他の航空機、雲などとの間に間隔を保ちながら飛行する方式。VFRによる飛行は、離着陸及び飛行中とも常に気象条件の制約を受け、定められた気象状態のもとで飛行を行わなければならない。

*2 IFR(instrument flight rules:計器飛行方式):公示された経路又は管制官の指示による経路を、航空交通管制の管制承認に従って飛行し、常に管制官の指示に従って航空路を飛行する方式。IFRによる飛行は、地上の無線標識施設の誘導により航空路の飛行を行い、離着陸を除いて飛行中の気象条件の制約を受けず、雲中あるいは視程の悪い気象条件で飛行することができる。国内のほとんどの航空路の最低飛行高度が8,000フィート以上であり、ヘリコプターにとっては設定高度が高い現状にある。

*3 RNAV(AREA NAVIGATION:広域航法):IFRにおいて使用する地上の無線標識施設の配置等に左右されることなく、GPS受信機、高機能なFMS(航法用機上コンピューター)を搭載した航空機が任意の地点を結んで設定された航空路を飛行する方式

(2)消防防災ヘリコプターの安全な活動の確保に向けて

消防防災ヘリコプターの出動回数は近年、7,000件前後で推移しており、大規模災害においては、多数の消防防災ヘリコプターが緊急消防援助隊として出動し、その高速性・機動性を活かした迅速な情報収集、指揮支援、消火・救急・救助活動を実施するなど、大きな役割を担っている。
一方、各種災害も複雑多様化しており、平成21年9月に岐阜県の北アルプスで救助活動中の消防防災ヘリコプターが墜落し搭乗していた3人が死亡する事故が発生し、また、平成22年7月に埼玉県秩父市の山中で救助活動中の消防防災ヘリコプターが墜落し搭乗していた5人が死亡する事故が発生した。これらの重大な事故発生を受けて、消防庁では、「消防防災ヘリコプターによる山岳救助のあり方に関する検討会」を平成22年10月に立ち上げ、平成24年3月にかけ計6回の検討会を経て報告書をまとめ、平成24年5月、関係機関に発出した。
平成25年9月に、奈良県内の台風第18号により発生した孤立地域において、消防防災ヘリコプターによる救助活動中に要救助者が負傷する事故が発生し、同年12月には静岡県内において、要救助者が救助活動中に落下する事故が発生したことを踏まえ、「消防防災ヘリコプターの救助活動に係る要救助者の安全確保に関する緊急点検について」(平成25年12月2日付け消防広第283号)により、要救助者の安全確保と事故の再発防止について、再徹底を図った。
平成29年3月には、長野県消防防災ヘリコプターが訓練飛行中に墜落し搭乗していた9人が死亡する事故が発生した。消防庁では、「消防防災ヘリコプターの安全確保の再徹底について」(平成29年3月8日付け消防広第67号)により、消防防災ヘリコプターの安全管理体制を再点検すること及び訓練時を含め安全運航を徹底すること等について、再徹底を図った。
また、全ての消防防災ヘリコプター所有団体に安全確保策の徹底状況、他機関保有ヘリコプター等との連携状況及び操縦士の養成確保策等について調査及びヒアリングを実施した。
さらに、「消防防災ヘリコプターの安全性向上・充実強化に関する検討会」を平成29年8月に立ち上げ、安全性向上策、消防防災航空体制の充実策及び消防防災ヘリコプター操縦士の養成・確保策の検討を行っている。
このように、過酷な活動環境において、常に高度な活動が求められる航空隊に対し、より積極的に情報提供等を行うことにより、消防防災航空隊の活動時の安全確保を促進している。

(3)消防防災ヘリコプター操縦士の養成・確保に向けて

航空消防体制の更なる充実強化のためには、365日24時間の運航体制の確保が必要であるが、高度な技術を有した操縦士の不足等により、多くの団体で体制確保が困難な状況となっている。また、今後ベテラン操縦士の大量退職が見込まれていることから、操縦士の養成・確保が重要な課題となっている。
こうした背景から、消防防災ヘリコプター操縦士の計画的な養成や安定確保を図ることを目的として、消防庁では、「消防防災ヘリコプターの操縦士の養成・確保のあり方に関する検討会」を平成27年5月に立ち上げた。消防防災航空隊を有する自治体の操縦士の現状、採用等の実態を踏まえ、乗務要件の見直しや養成費用の確保等について検討を行い、平成28年3月、報告書をまとめ、関係機関に発出した。

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