平成29年版 消防白書

3.Jアラートによる情報伝達における課題と対応

(1)Jアラート機器の不具合解消対策

8月29日事案でのJアラートによる情報伝達においては、対象地域617市町村全てで配信情報は正常に受信されたものの、住民への情報伝達の過程で支障が生じた地方公共団体が24市町村存在したことを受け、消防庁では、Jアラート情報伝達における不具合の解消対策を取りまとめ(特集10-2図)、地方公共団体に対し、対策への協力を要請するとともに、不具合原因の全国的な情報の共有や説明会・研修会の実施、情報伝達訓練の充実を行った。

特集10-2図 Jアラート情報伝達における不具合の解消対策(平成29年9月)

対策1:原因の特定と説明会・研修会の実施
  • 今回のJアラート機器の不具合事案の原因を特定・把握し、地方公共団体あてに通知を発出し、情報共有を実施。
  • 市区町村実務担当者向けにJアラート機器の操作方法等に係る研修会を9月中に実施。
  • これと併せ、都道府県危機管理担当向けにJアラートによる情報伝達や避難施設の指定等の国民保護体制の充実に係る説明会を開催。
対策2:Jアラート機器のテスト実行の要請
  • 9月1日付け消防庁通知により、地方公共団体に対し、速やかに、Jアラート機器のテスト実行(※)を要請。
  • 概ね1ヶ月後をめどに、テスト実行の実施の有無及び不具合の有無について、調査を実施。

※テスト実行(機能):Jアラート機器には、国から緊急情報を受信した場合と同様の状況を試験的に再現できる機能が備えられている。

対策3:自治体ごとの情報伝達訓練の定期的な実施
  • 毎月特定の期間中(週)に、対策2のテスト実行機能を活用して地方公共団体ごと情報伝達訓練を実施するよう要請。

※受信機までの導通訓練は消防庁において毎月1回実施しており、その実施日に対応させて自治体独自の情報伝達訓練を行う特定期間を設定する方向で検討。

対策4:全国的な情報伝達訓練の実施
  • 対策3による情報伝達訓練の実施結果も踏まえ、全国一斉情報伝達訓練を実施。
  • 上記訓練の実施に当たっては、全国知事会・全国市長会・全国町村会とも調整の上、原則、全ての都道府県・市町村の参画を要請。

※対策3、4の結果を踏まえ、今後の情報伝達訓練のあり方を検討。

ア 不具合原因の把握と全国的な共有

消防庁では、不具合の生じた地方公共団体に対しては、不具合の速やかな原因究明と再発防止を要請している。
その上で、Jアラート機器の不具合事案には全国的な共通性や類似性が見受けられることから、8月29日の発生事案を中心として、不具合事例の原因と対策に係る資料(特集10-1表)を作成し、全国の地方公共団体に配布した。併せて、各地方公共団体に対しては、「北朝鮮による弾道ミサイル発射事案への対応について」(平成29年9月22日付け消防国第79号・消防運第59号消防庁国民保護・防災部長通知)により今後、機器の点検等を行う際は、当該資料に記載する事例を参考とするよう要請した。

特集10-1表 Jアラートの情報伝達における主な不具合事例と対策

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特集10-1表 Jアラートの情報伝達における主な不具合事例と対策の画像。詳細は、Excelファイル、CSVファイルに記載。

※IP告知端末とは、各家庭等に設置されたIPネットワークを利用した音声告知端末により情報伝達をするもので、地方公共団体から発信された緊急情報を受信すると、機器が自動的に起動して音声放送や画面表示されるもの。

イ 地方公共団体向け説明会・研修会の開催

8月29日の事案における、Jアラートの不具合発生等の課題に対処するため、緊急かつ臨時に、都道府県の国民保護担当課長を対象とした説明会を実施するとともに、市町村のJアラート担当者を対象として研修会を行った。
都道府県の国民保護担当課長を対象とした説明会は9月14日に開催し、Jアラートの不具合解消を含めた「Jアラートによる情報伝達」及び「国民保護体制の充実強化」について説明を行うとともに、ミサイル発射事案を踏まえての課題を全国的に共有するための意見交換を行った。
特に、Jアラートによる情報伝達については、実際にJアラート機器を扱うのは市町村であるが、都道府県に対しても、市町村へ国民保護体制の充実に関する助言を行う立場から、Jアラートによる情報伝達の仕組みについて理解を深め、不具合事案の傾向と対策について確認するよう、要請した。
また、市町村向け研修会は、9月25日に東京都、同27日には大阪府にて、市町村のJアラート担当者600人以上が参加する中で開催し、Jアラートによる情報伝達への意識向上や機器取扱の習熟を目的として、機器の操作方法等の説明を行った。
これまでも、毎年5月から6月にかけてJアラート機器の取扱に係る市町村実務担当者向け研修会を実施しており、平成29年度も実施しているが、今般の事案において発生した不具合の内容に鑑みると、市町村担当職員がJアラート機器の操作に不慣れであることが不具合の背景にあると考えられたことから、追加的に研修会を実施することとしたものである。

ウ 情報伝達訓練の充実

Jアラート機器の確実な作動のためには、地方公共団体の担当職員が実際に機器の作動を経験する訓練が重要である。従前から毎年1回全国一斉情報伝達訓練を実施しているが、Jアラート機器の取扱について一層の習熟を図るため、「地方公共団体における全国瞬時警報システムの定期的な情報伝達訓練の実施について」(平成29年9月14日付け消防国第75号消防庁国民保護室長通知)により、平成29年10月以降、Jアラート機器に備わる「テスト実行機能」を活用した地方公共団体ごとの情報伝達訓練を10月から毎月1回実施するよう要請した。
この「テスト実行機能」は、国から緊急情報を受信した場合と同様の状況を試験的に再現できる機能であり、機器のメンテナンス等を行った際に受信機での受信後に防災行政無線等の自動起動が確実に作動するか確認するものである。この機能を活用し、定期的に機器の作動確認を行うことで、不具合の日常的な発見及び対処並びに実事案時における不具合の発生の抑制に大きく資するものと期待している。
なお、前述したとおり、9月15日にも8月29日の事案と同じように、Jアラートによる緊急情報の伝達が行われたが、この際には、一部の手段で不具合は見られたものの、住民への情報伝達について支障が生じた市町村はなかった。

(2)情報伝達手段の多重化等充実方策

Jアラート機器の不具合の解消は直ちに対処すべき緊急課題ではあるが、今後に向けた政策的な課題として重要なのがJアラートと連携する情報伝達手段の多重化と新型受信機の導入である。これらについては、地方公共団体の取組を促進するため、緊急防災・減災事業債の対象とし、支援しているところである(特集10-3図)。

特集10-3図 Jアラートに関する主な財政措置

緊急防災・減災事業債

地域の防災力を強化するための施設の整備、災害に強いまちづくりのための事業及び災害に迅速に対応するための情報網の構築などの地方単独事業等が対象。
(事業年度 平成29年度から平成32年度まで)

緊急防災・減災事業債 充当率100%

(交付税措置:元利償還金の70%が基準財政需要額に算入)

下矢印の画像。緊急防災・減災事業債の対象は以下の通り。

以下の事業が緊急防災・減災事業債の対象。

  • 新型受信機の導入に係る経費(平成30年度まで)
  • Jアラートと連携する情報伝達手段の多重化に係る経費(平成31年度まで)

    (※既存の情報伝達手段との接続に限る。)

ア 情報伝達手段の多重化

情報伝達手段には、防災行政無線、コミュニティ放送やCATV放送、インターネット経由の音声告知端末、住民向け登録制メールなどが挙げられる。
消防庁においては、住民への迅速かつ確実な情報伝達のため、1つの手段が機能しない場合に代替手段で補うことが可能であること、また、各情報伝達手段には一長一短あることから、地方公共団体にできるだけ複数、多様な情報伝達手段を整備するよう働きかけている。
現在、Jアラートと情報伝達手段を連携させていないという市町村は無くなったが、連携手段が1手段のみという市町村は平成29年8月時点で14.4%ある(特集10-4図)。特にこれらの団体の情報伝達手段が充実するよう、消防庁としても引き続き、助言・支援を行っていく。

特集10-4図 Jアラートと連携する情報伝達手段の多重化

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特集10-4図 Jアラートと連携する情報伝達手段の多重化の画像。整備状況は、平成29年8月1日現在で、市町村防災行政無線が1,349市町村、防災行政無線以外の無線が113市町村などとなっている。保有状況は、平成29年8月1日現在で、3手段以上が820市町村で47.1%、2手段が671市町村で38.5%、1手段が250市町村の14.4%となっている。

イ 新型受信機の導入

情報通信の技術進歩の結果として、Jアラートの受信機についても高い性能を有する「新型受信機」が登場するようになった。消防庁としては、新型受信機の導入により処理時間の大幅な短縮と情報伝達内容の充実という効果を見込んでいる。
これまでの受信機では膨大な情報を処理する場合に相当の時間を要することがあったが、新型受信機においては1~2秒に短縮させることができる。また、気象庁が配信する特別警戒警報を従来の「大雨」「その他」の2区分から「大雨」「暴風」「高潮」「波浪」「大雪」「暴風雪」の6区分で処理することができる。
大地震や北朝鮮によるミサイル発射など、Jアラートによる情報伝達は対処に時間的な余裕のない事態に使用されるものであり、少しでも伝達に要する時間を短縮し、かつ、伝達の内容を明確化させることは極めて重要な課題である。平成31年度から新型受信機の導入を前提としたシステム運用に切り替える予定であることから、「全国瞬時警報システムの新型受信機導入の推進について」(平成29年7月28日付け消防国第69号消防庁国民保護室長・消防運第48号消防庁国民保護運用室長通知)により、地方公共団体に対しては、速やかに新型受信機への切り替えを行うよう要請している。

(3)弾道ミサイル発射事案に係る国民理解の促進

ア 弾道ミサイル落下時の行動についての広報啓発

平成29年5月から9月にかけてテレビCMや新聞広告等により行った政府広報や、内閣官房ホームページ「国民保護ポータルサイト」等を通じて国民向けの情報発信を行った(特集10-5図)。

特集10-5図 弾道ミサイル落下時の行動について

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特集10-5図 弾道ミサイル落下時の行動についての画像。速やかな避難行動、正確かつ迅速な情報収集を呼び掛けている。屋外にいる場合は、近くの建物の中か地下に避難。建物がない場合は、物陰に身を隠すか、地面に伏せて頭部を守る。屋内にいる場合は、窓から離れるか、窓のない部屋に移動する。

また、各地方公共団体においても、住民の理解が進むよう、「弾道ミサイル落下時の行動等に係る住民への広報の充実等について」(平成29年5月18日付け消防庁国民保護室・国民保護運用室事務連絡)により、Jアラートによる情報伝達の内容や弾道ミサイル落下時の行動について、広報紙やホームページ等で一層周知するよう要請した。
8月29日の事案発生の際には、Jアラートにより情報伝達が行われたことはわかったが、どのように行動してよいかわからなかったという声があがった。一方、8月29日及び9月15日のJアラート送信地域(12道県617市町村)に居住する住民に対して行った「北朝鮮によるミサイル発射に関する住民アンケート調査(平成29年9月)」では、発射情報のメッセージを聞き「何をしたらよいかわからなかった」と回答した方が8月事案から9月事案で31.5%から21.5%に減少し、ミサイル発射を知った後の行動について「どうしたらよいかわからず、避難等できなかった」と回答した方が、8月事案から9月事案で31.3%から19.0%に減少するなど、次第に避難行動についても理解が進んでいると考えられる。国民一人一人が日頃から、自然災害も含め、緊急時における行動について意識し、備えておくことが重要であることから、引き続き、政府として国民向けの広報啓発に努めていく。

イ 住民避難訓練の実施

平成29年から、弾道ミサイルが我が国に落下する可能性がある場合における対処について、より一層国民の理解を促進するため、国と地方公共団体の共同訓練として、弾道ミサイルを想定した住民避難訓練を実施している。
このような住民避難訓練は、弾道ミサイルが落下する可能性がある場合における対処を実践的に体験できることから、ミサイル落下時の住民行動への理解を促進する上で有効な手段と考えられるため、今後も地方公共団体に対し積極的に訓練の実施を検討するよう、4月に開催した都道府県担当課長会議等においても、その旨を要請している。
住民避難訓練として最初に実施されたものは、平成29年3月の国、秋田県及び男鹿市との共同訓練である。以降、この訓練を始めとして、平成29年度は、全国的に広く、弾道ミサイルを想定した住民避難訓練が実施されている。10月31日現在、21団体が国と共同で住民避難訓練を実施した。これらの団体の訓練においては、あらかじめ避難先の指示をせず、近くの建物まで避難ができない場合にどのように行動するか等を、サイレン音を聞いて、住民自らが判断することとした。このことにより、緊迫感のある、より実践的な訓練となっている。
このほか、国との共同での訓練ではないが、都道府県及び市町村が主催して行う地方公共団体単独の弾道ミサイルを想定した住民避難訓練も実施されている。
消防庁では、引き続き、弾道ミサイルを想定した住民避難訓練の実施を促進していくとともに、地方公共団体、消防機関、警察機関、自衛隊等の関係機関との連携強化を図りながら、訓練の充実・強化に努めていく。

<弾道ミサイルを想定した住民避難訓練風景>

体育館に避難する児童の写真
体育館に避難する児童
体育館に避難した児童の写真
体育館に避難した児童
用水路の橋の下に避難する住民の写真
用水路の橋の下に避難する住民
避難が間に合わず塀に身を隠す住民の写真
避難が間に合わず塀に身を隠す住民
屋内で窓から離れて避難する住民の写真
屋内で窓から離れて避難する住民

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