平成29年版 消防白書

3.答申を踏まえた消防庁の対応

答申を受け、消防庁においては、消防の広域化について、消防体制の整備・確立に向けて最も有効な手段として推進していくとともに、消防の広域化にはなお時間を要する地域においても消防力を強化していくため、消防事務の性質に応じて事務の一部について柔軟に連携・協力を行う「消防の連携・協力」を推進することとした。なお、推進期間については平成29年4月1日から平成35年4月1日までとしている。

(1)連携・協力の効果

消防の連携・協力による効果は、連携・協力を行う消防事務の種類やその方式によって様々だが、一般的に、

  • 災害対応能力の向上
  • 施設整備や維持管理に係る経費の効率的な配分
  • 人員の効率的な配置、現場要員の増強
  • 消防本部間の人材交流による職員の能力・職務意欲の向上

といった効果がある。このように、消防の連携・協力による人的・財政的な資源の効率的な活用によって、現場要員の増強など消防力を充実強化することができる(特集4-1図、特集4-2図)。

特集4-1図 指令の共同運用を行っている事例

茨城県

平成28年6月の消防救急無線のデジタル化に併せ、茨城県内20消防本部33市町の災害通報の受信、出動指令その他の消防指令業務を共同で行う「いばらき消防指令センター」を水戸市に整備し,平成28年6月1日から共同運用を開始した。
災害情報の一元化による迅速で的確な災害対応の実現、広域的な無線ネットワークシステムの構築による通信の確保、高機能な消防指令システムと通信技術による業務の高度化などを図るとともに、茨城県が整備した「防災情報ネットワークシステム」との連携により各種災害関連情報を関係機関において共有できる体制を整備した。

いばらき消防指令センターの画像
いばらき消防指令センター

特集4-2図 火災原因調査に関する連携の事例

愛媛県

松山市消防局が消防庁「消防防災科学技術研究推進制度」により整備した火災調査に必要な各種資機材を活用して、愛媛県内消防本部間における火災原因、損害調査の相互応援体制を確立した。
これにより、県内消防本部の依頼に応じて、出火原因に関係する物件等を調査し、導入資機材を用いた精度の高い鑑定を実施している。

火災原因調査各種資機材の画像
火災原因調査各種資機材

さらに、消防の連携・協力を進めていくことで、

  • 職員間のつながり、意識の共有
  • 広域的に消防事務を行うことの効果の実感
  • 共同で消防事務の処理を行うという実績の蓄積

等の広域化を実現していくための下地が作られることとなる。こうした連携・協力を契機として、消防力の確保・充実の方策としてより有効である消防の広域化を目指すことが適当である。

(2)市町村の消防の連携・協力に関する基本的な指針

「消防の連携・協力の推進について」(平成29年4月1日付け消防消第59号消防庁長官通知)を発出し、市町村の消防の連携・協力に関する基本的な指針を示した。全国の都道府県・市町村に対しては、引き続き、消防の広域化を推進するとともに、本指針を踏まえ、地域の実情に応じて、消防の連携・協力を推進するよう依頼した。

(3)連携・協力の推進方策

消防の連携・協力を推進するため、市町村、都道府県及び国はそれぞれの役割を果たすこととなる。

ア 市町村の役割

市町村は、協議により消防の連携・協力の円滑な実施を確保するための計画として「連携・協力実施計画」を作成する。本計画を作成する上では、管内の消防需要等の情報分析を適切に行い、基本方針、消防事務の内容及び方法、消防事務とそれ以外の消防事務の連携の確保に関する事項について定めるものとする。

イ 都道府県の役割

都道府県は、管内の市町村の消防の連携・協力の取組について、必要な調整を行う等、広域的な地方公共団体としてリーダーシップを発揮するものとする。

ウ 消防庁の役割

各消防本部の十分な理解を得るため、研修会、個別の消防本部に対する働きかけやアドバイザーの派遣などソフト面の支援を積極的に行うとともに、連携・協力を行う市町村に対しては次の財政措置を講じる。

  • 緊急防災・減災事業債:複数の消防本部が共同で行う高機能消防指令センターの整備・改修
  • 防災対策事業債:連携・協力実施計画に基づき実施する消防用車両等の整備

なお、消防の連携・協力の一つである「指令の共同運用」については、災害情報を一元的に把握し、効果的・効率的な応援体制が確立される等の効果があるもので、既に多くの消防本部で実施されているが、全国的な広がりとしては不十分であり、今後も積極的に検討を進めていく必要がある。指令の共同運用は、原則として都道府県で一つの指令センターにすることが望ましく、地理的な事情等によりそれが困難な場合であっても、できる限り広域的な範囲での共同運用を目指すことが必要である。

(4)消防の連携・協力のモデル構築事業

消防の連携・協力について、具体的な先進事例を積み上げ、より効果的な推進につなげるため、次のとおり国の委託事業として、平成29年度に連携・協力のモデル構築事業を実施している。

  • 各種業務における職員の相互派遣を実施した場合のメリット・デメリット、組織統合に対する中長期的影響の調査
  • はしご自動車等、年間出動件数の少ない車両の共同整備に向けた試算、統合整備による効果の検証
  • 他団体の応援の体制及び自団体の応援実施中の消防力確保のあり方の検証
  • 車両の共同運用をはじめとする消防応援協定のあり方に関する調査・研究

今後、モデル構築事業の結果及び内容についての周知を図り、連携・協力のさらなる深化を目指す。あわせて、連携・協力をステップとして消防の広域化の更なる推進を目指す。

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