3.訪日外国人への救急対応
近年の訪日外国人観光客の増加に伴い、救急業務における、多言語対応がより一層必要となっている。特に、2020年には東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されることから、訪日外国人観光客がさらに増加することが予想されている。このことから、救急車の利用方法や熱中症の予防・対処法などの外国人への情報発信をはじめ、実際の救急現場での、外国人に対する円滑なコミュニケーションが求められている。
これらへの対応として、「電話通訳センターを介した三者間同時通訳による119番多言語対応」、「救急ボイストラ」の開発、「外国人向け救急車利用ガイド」の作成を行っており、全国の消防本部での活用を促進している。今後も訪日外国人が安心して救急車を利用できる環境になるよう取組を進めていく。
(1)電話通訳センターを介した三者間同時通訳による119番多言語対応
電話通訳センターを介した三者間同時通訳による119番多言語対応は、外国人からの119番通報時、外国人のいる救急現場での活動時等において、迅速かつ的確に対応するため、電話通訳センターを介して、24時間365日主要な言語で対応するものである。
消防庁は、「電話通訳センターを介した三者間同時通訳による多言語対応の推進について(通知)」(平成29年1月25日付け消防消第8号消防庁消防・救急課長通知)を各消防本部に通知し、都道府県内消防本部による共同契約、都道府県等が既に契約している電話通訳センターの利用などによる、119番通報時等における多言語対応の推進を図っているところである。
平成29年8月現在、732本部中163本部(約22.2%)が導入済みである。消防庁では、2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会までに、訪日外国人観光客を含む外国人が、日本全国どこから119番通報しても、言語の支障なく消防・救急のサービスを受けられるよう、全消防本部で導入されることを目指している(特集8-10図)。
特集8-10図 三者間同時通訳の流れ
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(2)救急ボイストラ
救急ボイストラは、国立研究開発法人情報通信研究機構(以下「NICT」という。)が開発した多言語音声翻訳アプリ「VoiceTra(ボイストラ)」をベースに、消防庁消防研究センターとNICTが、救急隊用に開発した多言語音声翻訳アプリである。
救急ボイストラは、通常の音声翻訳機能に加えて、救急現場で使用頻度が高い会話内容を「定型文」として登録しており、外国語による音声と画面の文字による円滑なコミュニケーションを図ることが可能である。
また、話した言葉が文字として表記されるため、聴覚障害者などとのコミュニケーションにも活用できる(特集8-11図)。
特集8-11図 救急ボイストラ画面
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対応言語は、英語、中国語(繁・簡)、韓国語、タイ語、フランス語、スペイン語、インドネシア語、ベトナム語、ミャンマー語、ロシア語、マレー語、ドイツ語、ネパール語、ブラジルポルトガル語となっている。
平成29年4月から各消防本部への提供を開始し、10月現在、全国732消防本部のうち219消防本部が使用を開始している(約29.9%)。
Androidを搭載した通信可能なスマートフォンやタブレットでの利用が可能であり、iOS版については、平成29年度中に利用が可能になる予定である。今後とも、全国の消防本部における積極的な活用を促していく。
特集8-12図 救急ボイストラ活用風景
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(3)救急車利用ガイドの多言語化
消防庁は、平成28年3月、日本での救急車の利用方法等を訪日外国人に周知するため、訪日外国人のための「救急車利用ガイド(英語版)」を作成し、消防庁ホームページに掲載した(特集8-13図)。
特集8-13図 救急車利用ガイド(英語版)
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救急車利用ガイドには、<1>救急車の利用方法、119番通報時に通信指令員に伝えるべきこと、<2>すぐに119番通報すべき重大な病気やけが、<3>熱中症予防や応急手当のポイント、<4>救急車を利用する際のポイントなどが掲載されている。
対応言語は、これまで英語のみであったが、平成29年3月から中国語(繁・簡)、韓国語、タイ語、フランス語、イタリア語が加わった。それぞれのガイドに日本語を併記しているため、日本人から外国の方への説明も可能である。
消防庁は、各都道府県及び各消防本部等での配布や各団体広報媒体でのリンク掲載等による、住民や観光客への積極的な周知を、各都道府県及び各消防本部に依頼しているところであり、今後とも、周知を図っていくこととしている。