平成30年版 消防白書

3.避難体制の整備、避難行動要支援者対策

昨今の風水害では、65歳以上の高齢者が多く犠牲となっている。高齢者や障害者などの要配慮者や避難行動要支援者に対する支援対策の推進が重要である。

(1)避難行動要支援者の支援対策の推進

平成23年の東日本大震災において、被災地全体の死者数のうち65歳以上の高齢者の死者数は約6割であり、障害者の死亡率は被災住民全体の死亡率の約2倍と推計された。他方で、例えば、消防職員・消防団員の死者・行方不明者は281人、民生委員の死者・行方不明者は56人にのぼるなど、多数の支援者も犠牲となった。
こうした東日本大震災の教訓を踏まえ、平成25年の災害対策基本法の改正により、避難行動要支援者名簿を活用して実効性のある避難支援がなされるよう、以下の事項などが定められた。

<1> 避難行動要支援者名簿の作成を市町村に義務付けるとともに、その作成に際し必要な個人情報を利用できること。
<2> 避難行動要支援者本人の同意を得て、平常時から消防機関や民生委員等の避難支援等関係者に情報提供すること。
<3> 災害が現に発生し、又は発生するおそれが生じた場合には、本人の同意の有無にかかわらず、名簿情報を避難支援等関係者その他の者に提供できること。
<4> 名簿情報の提供を受けた者に守秘義務を課すとともに、市町村においては、名簿情報の漏えいの防止のため必要な措置を講ずること。

これを受けて、市町村における新たな事務に係る取組方針等を示すため、内閣府により「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」(平成18年3月)の全面的な改定が行われ、平成25年8月に「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」として、都道府県を通じて市町村に通知された。

(2)指定緊急避難場所等の周知徹底及び安全確保等

災害時に住民等が迅速かつ的確な避難を行うため、指定緊急避難場所*5や指定避難所*6をあらかじめ指定し、地域住民等に周知徹底しておくとともに、安全性の確保を図る必要がある。
消防庁では、市町村に対して、住民が円滑かつ安全に避難できるよう、指定緊急避難場所や避難経路等の情報について、防災マップの配布等により、平常時から地域住民に周知徹底するとともに、中小河川の氾濫、内水による浸水、土砂災害等の発生など、近年の豪雨災害等の特性を踏まえた指定緊急避難場所等の安全性の確保、避難者の移送手段の確保及び交通孤立時の対応についても配慮することを要請している。
平成25年の災害対策基本法の改正により、指定緊急避難場所と指定避難所の区分が明確化され、指定緊急避難場所は災害種別ごとに指定することとされたことから、消防庁は関係府省庁と連携し、災害時に地域住民はもとより、観光客や外国人などが、迅速かつ円滑な避難を行えるよう、指定緊急避難場所等のピクトグラム(図記号)の標準化を推進してきた。
平成28年3月に、「災害種別一般図記号(JIS Z8210追補6)」及びこれらの図記号を使った表示方法を示す「災害種別避難誘導標識システム(JIS Z9098)」がJIS(日本工業規格)化された(第1-5-2図、第1-5-3図)。消防庁では、内閣府と連携して、地方公共団体に対し、指定緊急避難場所等の案内板等の整備及び更新をする際は本システムの表示方法に倣い表示するよう通知した。

第1-5-2図 「災害種別一般図記号」

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第1-5-2図 「災害種別一般図記号」の画像

第1-5-3図 「災害種別避難誘導標識システム」による避難場所標識の記載例

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第1-5-3図 「災害種別避難誘導標識システム」による避難場所標識の記載例の画像

また、国土地理院、内閣府及び消防庁では、住民等の円滑かつ迅速な避難の確保及び住民一人ひとりの避難先の容易な確認に資するため、指定緊急避難場所に位置情報を付与したデータの整備を進めており、整備が完了した市町村の指定緊急避難場所データを国土地理院が運用するウェブ地図「地理院地図」(http://maps.gsi.go.jp/)において、平成29年2月より順次公開している。

*5 指定緊急避難場所:居住者等が災害から命を守るために緊急時に避難する施設又は場所
*6 指定避難所:避難した居住者等が災害の危険がなくなるまで一定期間滞在し、又は災害により自宅へ戻れなくなった居住者等が一時的に滞在する施設

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