平成30年版 消防白書

6.災害別対策

(1)洪水

流域に降った大量の雨水が河川に流れ込み、特に堤防が決壊すると、大規模な洪水被害が発生する。
近年では、平常時には川遊びができるような穏やかな河川であっても、上流域で激しい雨が降ることで短時間のうちに極めて急激に増水して勢いを増し、氾濫して甚大な被害をもたらす事例が各地で発生している。平成29年7月には梅雨前線及び台風第3号の影響で非常に激しい雨が降り、特に九州北部の筑後川右岸の中小河川の流域で、河川氾濫、堤防決壊等による浸水被害が生じた。
洪水被害への対策として、出水期前の平成30年5月に、中央防災会議会長から都道府県防災会議会長に対して以下の取組等について要請している。

平成29 年7月九州北部豪雨 被害状況の写真
平成29年7月九州北部豪雨 被害状況

〔1〕大雨、洪水等の警報や、雨量、河川水位に関する情報などの防災気象情報を的確に収集し早い段階から住民に伝達するとともに、避難勧告等は時期を逸することなく早めに発令・伝達すること。

〔2〕地下空間の施設管理者と連携し、地下空間での豪雨及び洪水に対する危険性について利用者に対して事前の周知を図り、浸水対策及び避難誘導等安全体制を強化すること。洪水時には迅速かつ的確に情報を伝達し、利用者の避難のための措置等を講じること。

〔3〕大雨後の河川増水時は、河川管理者と連携し、水辺利用者に対して速やかに安全な場所へ避難するよう注意を促すなど適切に対応すること。また、水難事故防止についての自助意識を啓発すること。

また、平成29年7月九州北部豪雨災害を踏まえ、洪水への対策強化として、平成30年6月に以下の事項について防災基本計画が修正された。

〔1〕洪水予報河川・水位周知河川以外の河川に係る、市町村による避難勧告の発令基準を設定すること。

〔2〕土砂・流木による被害の危険性が高い中小河川における透過型砂防堰堤や流木被害が発生するおそれのある森林における流木捕捉式治山ダムの設置等の対策を強化すること。

(2)土砂災害

大雨の際には、土石流、地滑り、崖崩れなどの土砂災害について厳重に警戒する必要がある。平成29年7月の梅雨前線及び台風第3号による豪雨では、土砂災害が発生し、多くの死者・負傷者、孤立集落を出す被害となった。
土砂災害の対策として、出水期前の平成30年5月に、中央防災会議会長から都道府県防災会議会長に対して主に以下の取組等について要請している。

〔1〕土砂災害は、突発的に発生し、発生場所や発生時刻を予測することが困難であることから、土砂災害警戒情報が発表された場合は、危険度が高まっている土砂災害警戒区域・危険箇所等に直ちに避難勧告を発令すること。

〔2〕避難準備・高齢者等避難開始を発令する段階で、主要な指定緊急避難場所等を開設し始めるとともに、局地的かつ短時間豪雨の場合等、避難のためのリードタイムがなく危険が切迫している状況にあっては、指定緊急避難場所等開設の前であっても原則として避難勧告等を発令すること。

また、平成26年8月に発生した広島市の土砂災害を踏まえ、土砂災害への対策強化として、以下の事項について防災基本計画が修正された。

平成26年広島県広島市の土砂災害の被災現場の写真
平成26年広島県広島市の土砂災害の被災現場
(内閣府提供)

〔1〕土砂災害警戒情報及びこれを補足する情報(メッシュ情報)等を活用した避難勧告の発令範囲を設定すること。

〔2〕避難準備情報*7の発令による自主的な避難を促進すること。

〔3〕災害に適した指定緊急避難場所への避難を周知すること。

*7 平成29年1月の「避難勧告等に関するガイドライン」の改訂にともない、「避難準備情報」は「避難準備・高齢者等避難開始」に名称変更されている。

(3)高潮

平成11年(1999年)9月に熊本県不知火海岸で高潮により12人の死者が発生したこと等を踏まえ、消防庁では、平成13年3月に内閣府、農林水産省、国土交通省等と共同で、高潮対策強化マニュアルを策定した。
また、平成28年2月には高潮災害への対策強化として以下の事項について防災基本計画が修正された。

〔1〕高潮警報等の予想最高潮位に応じて想定される浸水区域に避難勧告等を発令できるような具体的な避難勧告等の発令対象区域を設定すること。

〔2〕高潮警報等が発表された場合に直ちに避難勧告等を発令することを基本とした具体的な避難勧告等の発令基準を設定すること。

(4)竜巻等突風

竜巻等突風による災害は全国各地で発生している。平成24年5月6日には、茨城県、栃木県及び福島県において複数の竜巻が発生し、死傷者や多くの住家被害が発生する被害となった。
この竜巻災害を受けて、消防庁では同年5月に、地元気象台などとも連携の上、気象情報に十分留意し、竜巻等突風災害に係る対応についての住民に対する周知、啓発等に努めるよう、通知や会議等で要請した。また、政府においては、関係府省庁からなる「竜巻等突風対策局長級会議」(事務局:内閣府)が開催され、8月に竜巻等突風に係る住民、市町村及び国の今後の取組等について報告が取りまとめられた。これを受けて、消防庁では同報告に留意の上、竜巻等突風対策に取り組むよう要請した。
また、平成25年においても、埼玉県越谷市等で竜巻等突風により大きな被害が発生したことに鑑み、竜巻等突風対策局長級会議が開催され、予測情報の改善、災害情報等の伝達のあり方、防災教育の充実、建造物の被害軽減策(窓ガラス対策等)のあり方、被災者支援のあり方について報告が取りまとめられた。消防庁及び気象庁では、平成25年4月より栃木県及び茨城県、平成26年4月より関東地方一円において、消防本部に寄せられる竜巻等突風の発生に関する通報の内容を気象台に情報提供する取組を試行的に実施した。この試行において一定の成果を得たことから、平成28年度から既に実施している都県をはじめ、その他の全国の道府県の消防本部においても、気象台への情報提供を行うよう要請している。

平成25年9月2日の埼玉県越谷市の竜巻被害の写真
平成25年9月2日埼玉県越谷市の竜巻被害
(埼玉県越谷市提供)

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