平成30年版 消防白書

4.防災体制の整備の課題

(1)地方防災会議の一層の活用

地方防災会議は、防災関係機関が行う防災活動の総合調整機関であり、近年は、その中に震災対策部会、原子力防災部会等の専門部会が設けられ、機能の強化が図られている。
今後は、その更なる活用等により専門性等を兼ね備えた防災計画の策定に努めるとともに、平常時の活動に加えて、災害時においても防災関係機関相互の連携のとれた円滑な防災対策を推進する必要がある。
また、平成24年の災害対策基本法の改正により、女性、高齢者、障害者などの多様な主体の視点が反映されるよう、都道府県防災会議の委員として、自主防災組織を構成する者又は学識経験のある者のうちから都道府県知事が任命する者が新たに加えられており(市町村の防災会議については、都道府県の防災会議に準ずることとされている。)、法改正の趣旨を踏まえた災害対策の推進を図っていく必要がある。

(2)地域防災計画の見直しの推進

地域防災計画については、各地方公共団体の自然的、社会的条件等を十分勘案し、地域の実情に即したものとするとともに、具体的かつ実践的な計画となるよう適宜見直しに取り組むことが求められる。
具体的には、地域防災計画の見直しに当たっては、被害想定、職員の動員配備体制、情報の収集・伝達体制、応援・受援体制(被災者の受入れを含む。)、被災者の収容・物資等の調達、防災に配慮した地域づくりの推進、消防団・自主防災組織の充実強化、災害ボランティアの活動環境の整備、避難行動要支援者対策、防災訓練などの項目に留意する必要がある。
防災基本計画等が修正された場合や訓練等により計画の不十分な点が発見された場合及び災害の発生により防災体制及び対策の見直しが必要とされた場合など、その内容に応じて速やかな見直しを行う必要がある。また、前述のように女性の視点の反映や多様な主体の防災計画策定への参画を進める必要がある。
消防庁では、近年は、経験したことのない集中豪雨により、従来安全であると考えられていた地域で大きな被害が発生していることから、平成28年9月7日に「今後の水害及び土砂災害に備えた地域の防災体制の再点検」を行い、地域防災計画等の見直しを行うよう地方公共団体に要請した。

(3)実効性のある防災体制の確保

地域防災計画は、より具体的で内容が充実し、防災に資する施設・設備についてもより高度かつ多様なものが導入されてきているが、災害発生時に、これらが実際に機能し、又は定められたとおりに実施できるかが重要である。また、災害は多種多様で予想できない展開を示すことも多々あるため、適切で弾力的な対応を行うことが必要である。
そのため、組織に関しては、危機管理監等の専門スタッフが首長等を補佐し、自然災害のみならず各種の緊急事態発生時も含め地方公共団体の初動体制を指揮し、平常時においては関係部局の調整を図る体制が望ましいと考えられる。平成30年4月1日現在、全ての都道府県において部次長職以上の防災・危機管理専門職が設けられている。
消防庁では、市町村関係者、有識者の協力を得て、市町村が災害対応を的確に行うために、確認、準備しておくべき事項を抽出した「防災・危機管理セルフチェック項目」を作成し、災害対応のあり方について職員の理解を深めること、自己点検を通じて災害対応能力の向上を目的として、平成29年4月から、「防災・危機管理セルフチェックシステム」の運用を開始した。

(4)市町村長への研修

我が国は、その自然条件から地震や水害などの災害が発生しやすい特性を有しており、災害時には、市町村は住民の生命、身体及び財産を守るため、膨大な業務に対応・処理することが求められる。その指揮をとる市町村長のリーダーシップの発揮及び災害時の適時的確な判断・指示等災害危機管理対応力の一層の向上につながるよう、消防庁では市町村長を対象としたセミナー及び研修を開催している。
セミナーについては、被災経験のある市町村長や有識者による講演を中心とした「全国防災・危機管理トップセミナー」を開催し、平成30年度は、6月6日に市長向けのトップセミナーに、7月4日に町村長向けのトップセミナーに、それぞれ全国から約200人の市町村長が参加した。
研修については、平成30年度から新たに「市町村長の災害対応力強化のための研修」を開催し、災害の警戒段階から発災後に至る重要な局面で、的確かつ迅速な判断・指示を行えるよう、実践的な意思決定のシミュレーションを行った。平成30年度は、市長向けを11月14日に、町村長向けを11月30日に行い、それぞれ25人ずつの市町村長が参加した。

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