令和元年版 消防白書

3.勤務条件等

(1)消防職員の勤務条件等

消防職員の職務は、火災等の災害出動のため24時間即応体制を維持しなければならないという特殊性を有していることから、勤務時間や休日、休憩等の勤務条件については、一般職員と異なる定めがされている。具体的な給与、勤務時間その他の勤務条件は、市町村の条例によって定められている。

ア 給料及び諸手当

消防の組織は、緊急時の部隊活動等に必要な指揮命令系統を明示し組織の統一性を確保するため、階級制度がある。行政職給料表を適用した場合、各階級に一定の割合の人数が必要となるという特徴を持つ消防組織においては、階級制度を維持しつつ、給料の水準を適正に保つということが難しい。このため消防職員の給料については、その職務の危険度及び勤務の態様の特殊性等を踏まえ、一般職員と異なる特別給料表(現在の国の公安職俸給表(一)に相当)を適用することとされている(昭和26年国家消防庁管理局長通知)。行政職給料表を採用しつつ、号給の加算調整や特殊勤務手当の支給により職員の給与水準の維持を図るなどの対応は、明確性及び透明性の観点から問題があり、条例により一般職員と異なる特別給料表(現在の国の公安職俸給表(一)に相当)を採用することが望ましい。
なお、消防職員の平均給料月額は、平成31年4月1日現在の地方公務員給与実態調査によると29万9,781円(平均年齢38.2歳)であり、一般行政職の場合は31万7,775円(平均年齢42.1歳)となっている。
また、消防職員の平均諸手当月額は10万6,527円であり、出動手当等が支給されている。

イ 勤務体制等

消防職員の勤務体制は、毎日勤務と交替制勤務とに大別され、さらに交替制勤務は主に2部制と3部制に分けられる。一部、指令業務に従事する職員などに対し、4部制を用いている消防本部もある。2部制は、職員が2部に分かれ、当番・非番の順序に隔日ごとに勤務し、一定の期間で週休日を取る制度であり、3部制は、職員が3部に分かれ、当番・非番・日勤を組み合わせて勤務し、一定期間で週休日を取る制度である(第2-3-3表、第2-3-4表)。

第2-3-3表 消防本部における交替制勤務体制
(平成31年4月1日現在)

第2-3-3表 消防本部における交替制勤務体制

(備考)
1 「消防防災・震災対策現況調査」により作成
2 交替制の「その他」とは、指令業務のみ4部制を取り入れている消防本部及び宿直者を3班に分けて変則的な勤務体制をとる消防本部等をいう。

第2-3-4表 勤務体制別消防吏員数
(平成31年4月1日現在)

第2-3-4表 勤務体制別消防吏員数

(備考)
1 「消防防災・震災対策現況調査」により作成
2 勤務体制別の「その他派遣等」とは、首長部局に派遣されている職員及び消防学校など消防本部(署)以外の部署に勤務する職員等をいう。

ウ 消防職員委員会

消防職員委員会は、消防職員からの意見を幅広く求めることにより、消防職員間の意思疎通を図るとともに、消防事務に職員の意見を反映しやすくし、これにより消防職員の士気を高め、消防事務を円滑に運営することを目的として、消防組織法第17条の規定により消防本部に置くこととされている。消防職員委員会においては、消防職員から提出された〔1〕消防職員の勤務条件及び厚生福利、〔2〕消防職員の被服及び装備品、〔3〕消防の用に供する設備、機械器具その他の施設に関する意見を審議し、その結果に基づいて消防長に対して意見を述べることにより、消防事務に消防職員の意見を反映しやすくしている。
平成30年度においては、全国728の全ての消防本部で消防職員委員会が開催され、職員から提出された4,918件の意見について審議された。審議された意見のうち「実施が適当」とされたものは、全体の31.5%を占めた。また、平成29年度において審議された意見のうち「実施が適当」とされた意見の54.2%が既に実施されている。一方、予算上の制約などにより、実現できていない意見も見られる(第2-3-5表、第2-3-6表、第2-3-7表、第2-3-8表)。

第2-3-5表 消防職員委員会の審議結果
(平成30年度)

第2-3-5表 消防職員委員会の審議結果

(備考)
1 「平成30年度における消防職員委員会の運営状況調査結果」より作成
2 小数点第二位を四捨五入のため、合計等が一致しない場合がある。

第2-3-6表 平成29年度に消防職員委員会において審議された意見の実現状況
(平成30年度末現在)

第2-3-6表 平成29年度に消防職員委員会において審議された意見の実現状況

(備考)「平成30年度における消防職員委員会の運営状況調査結果」より作成

第2-3-7表 各年度の消防職員委員会開催状況
(各年度末現在)

第2-3-7表 各年度の消防職員委員会開催状況

(備考)「平成30年度における消防職員委員会の運営状況調査結果」より作成

第2-3-8表 各年度の消防職員委員会審議件数及び審議結果

第2-3-8表 各年度の消防職員委員会審議件数及び審議結果

(備考)
1 「平成30年度における消防職員委員会の運営状況調査結果」より作成
2 小数点第二位を四捨五入のため、合計等が一致しない場合がある。
3 審議結果のうち、「その他」については平成11年度から設定

また、消防庁は、消防職員委員会制度の更なる運用改善に向けた検討を行い、関係者の合意を得て、消防長及び委員長に対し、「消防職員が意見を提出しやすい環境づくり」「委員会の公正性の確保」「委員会の透明性の確保」に努めるよう求める規定の新設などを内容とした「消防職員委員会の組織及び運営の基準」(平成8年消防庁告示第5号)の一部改正を行った(平成30年9月6日)。

エ 消防長及び消防署長の資格の基準

消防長及び消防署長の資格については、市町村の消防長及び消防署長の任命資格を定める政令で定めていたが、地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律による消防組織法第15条の改正により、政令で定める基準を参酌して市町村の条例で定めることとされた。このため、各市町村が条例を制定するに当たって参酌すべき基準が、市町村の消防長及び消防署長の資格の基準を定める政令で定められ、消防組織法の改正とともに、平成26年4月1日から施行された(第2-3-9表)。

第2-3-9表 市町村の消防長及び消防署長の資格の基準を定める政令の概要

第2-3-9表 市町村の消防長及び消防署長の資格の基準を定める政令の概要

(2)消防本部におけるハラスメント等への対応策

同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させるパワーハラスメントや、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントは、断じて許されない行為であるばかりでなく、防止措置を講じることが法的に義務付けられている。
消防庁では、パワーハラスメント、セクシュアルハラスメントなどのハラスメント及び消防に関連する不祥事(以下「ハラスメント等」という。)について、平成29年に「消防本部におけるハラスメント等への対応策に関するワーキンググループ」を開催し、対応策(第2-3-10表)を取りまとめ、その内容について、「消防本部におけるハラスメント等への対応策に関するワーキンググループの検討結果について(通知)」(平成29年7月4日付け消防消第171号消防庁次長通知。以下「次長通知」という。)を発出した。

第2-3-10表 「消防本部におけるハラスメント等への対応策に関するワーキンググループ」を踏まえた対応策

第2-3-10表 「消防本部におけるハラスメント等への対応策に関するワーキンググループ」を踏まえた対応策

また、次長通知で示した対応策の取組状況について実態調査(平成31年1月1日現在。以下「実態調査」という。)を行い、「消防本部におけるハラスメント等への対応策取組実態調査の結果及び留意事項について(通知)」(平成31年3月26日付け消防消第54号消防庁消防・救急課長通知。以下「3月26日付け通知」という。)を発出した。

ア 各消防本部において実施すべき対応策

(ア)消防長の意志の明確化等
ハラスメント等を撲滅するためには、消防長が宣言等により意志を明確にし、消防職員に周知徹底する必要がある。
消防庁においては、消防長の意志の明確な表明について、先進事例の紹介等を行った(「消防本部におけるハラスメント等を撲滅するための、消防長の宣言等による意志の明確な表明について」(平成29年7月4日付け消防庁消防・救急課事務連絡))。
消防長の意志の明確化については、現消防長の意志が明確化されていることが重要であるため、消防長が代わった場合に速やかに意志の明確化を行う、毎年度の始めに消防長の意志の明確化を再度行うなど、定期的に消防職員に周知徹底することが望ましい(3月26日付け通知)。
また、ハラスメント等の対応策に関する内部規程や、消防長の意志を具体的な取組につなげるための方針を検討の上策定するとともに、定期的に当該取組の進捗状況を管理し、これを踏まえ取組の改善を行うため、消防職員の幹部職員に加え、可能な限り有識者等を構成員とするハラスメント等の撲滅を推進する会議を開催する必要がある。
消防庁においては、当該会議の要綱のひな形を提示した(「消防本部におけるハラスメント等を撲滅するための対応策について」(平成29年7月25日付け消防庁消防・救急課事務連絡。以下「7月25日付け事務連絡」という。))。
実態調査では、「消防長の意志の明確化」について、98.2%(715本部)の消防本部から「実施済み」との回答が得られた。また、「内部規程の策定」については、74.7%(544本部)の消防本部から「実施済み」との回答が得られ、「ハラスメント等撲滅推進会議の開催」については、58.1%(423本部)の消防本部から「実施済み」との回答が得られた。
(イ)ハラスメント等通報制度の確立及びハラスメント相談窓口の設置
ハラスメント等は、上司、同僚などの周囲の者がいつもと様子が異なることに気付き声をかけるなどのサポートをすること、ハラスメントを受けたと考える消防職員から上司、同僚などの周囲の者へ相談すること等により円滑に解決されることが望ましい。しかし、こうしたことでは解決できない場合に備え、ハラスメント等の事案対応を行い、解決を目指す「ハラスメント等通報制度」を確立するとともに、通報にまでは至らなくても、精神的なサポートを受けることができる「ハラスメント相談窓口」を設置する必要がある(第2-3-3図)。

第2-3-3図 ハラスメント等通報制度・ハラスメント相談窓口のイメージ(単独消防本部の場合)

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第2-3-3図 ハラスメント等通報制度・ハラスメント相談窓口のイメージ(単独消防本部の場合)

当該通報制度及び当該相談窓口は、男女双方の対応者を設ける、複数の窓口を設置する、通報窓口と相談窓口をそれぞれ別に設置する、定期的に周知を行うなど通報・相談しやすい環境づくりに努める必要がある(3月26日付け通知)。
消防庁においては、当該通報制度及び当該相談窓口の要綱のひな形を提示した(7月25日付け事務連絡)。実態調査では、「ハラスメント等通報制度の確立」及び「ハラスメント相談窓口の設置」について、それぞれ81.6%(594本部)、80.9%(589本部)の消防本部から「実施済み」との回答が得られた。
(ウ)懲戒処分の厳格化
ハラスメント等に関して明確に記載した懲戒処分基準を策定し公表すること及び懲戒処分の公表基準を策定し公表することにより、懲戒処分を厳格化する必要がある。
消防庁においては、懲戒処分基準及び懲戒処分基準の公表基準のひな形を提示した(7月25日付け事務連絡)。
実態調査では、「懲戒処分基準の策定」及び「懲戒処分の公表基準の策定」について、それぞれ75.0%(546本部)、64.8%(472本部)の消防本部から「実施済み」との回答が得られた。
(エ)職員のセルフチェックアンケート等の実施
ハラスメント等を可能な限り未然に防止するため、自らの行動を振り返るチェックシートの導入、ハラスメント等の実態を調査するためのアンケートの定期的な実施などの職員の気付きを促す取組を行う必要がある。
消防庁においては、当該チェックシート及びアンケートのひな形を提示した(7月25日付け事務連絡)。
実態調査では、職員の気付きを促す取組について、66.8%(486本部)から「実施済み」との回答が得られた。
(オ)研修等の充実
事例演習又は職場ミーティングの場を活用し、ハラスメント等の撲滅の必要性、対応策及びコンプライアンスについて話し合うことで、職員の意識向上を図る必要がある。
実態調査では、研修等の充実について、66.3%(483本部)から「実施済み」との回答が得られた。

イ 各都道府県において実施すべき対応策

(ア)ハラスメント等相談窓口の設置
各都道府県において、各消防本部が設けるハラスメント等通報制度では十分な対応ができない場合に備え、相談者の同意を得た上で、関係する消防本部や市町村に対し相談内容の情報提供を行うこと、関係する消防本部や市町村から事案の経緯を聞き取るとともに適切な対応を取るよう助言すること等により、事案の解決を目指す都道府県ハラスメント等相談窓口を設置する必要がある。
実態調査では、「都道府県ハラスメント等相談窓口」を設置し、その旨を都道府県内の消防本部に周知しているかどうかについて、48.9%(23都道府県)から「実施済み」との回答が得られた。
(イ)講義・研修の充実
消防学校において、ハラスメント等やコンプライアンスに関する講義を実施する必要がある。
また、都道府県の消防防災部局又は人事担当部局において、消防長、消防学校長などの消防関係者に対する研修会を実施する必要がある。
実態調査では、研修等の充実について、全ての都道府県(都道府県消防学校を含む。)及び指定都市消防学校から「実施済み」との回答が得られた。

ウ 消防庁における対応策

(ア)消防庁ハラスメント等相談窓口の設置
ハラスメント等の事案の解決を目指すため、市町村や消防本部のハラスメント等通報窓口には通報しにくい、通報したが適切に対応してくれなかったなどの場合に備えて、消防庁ハラスメント等相談窓口を平成29年度に設置した。相談は基本的に専用回線での電話受付としているが、当該窓口の対応時間内に電話対応ができない方等のために、電子メールでの受付も行っている。
この相談窓口を周知するために、全国の消防職員分約16万枚のリーフレットを作成し、配布した。
(イ)ハラスメント等に関するテキストの作成
各消防本部等での研修会で活用できるよう、ハラスメント等に関するテキストを職員向け、管理監督者向け、相談担当者向けに作成し、消防庁ホームページで公開している(参照URL:https://www.fdma.go.jp/mission/enrichment/harassment/harassment001.html
(ウ)全国説明会の開催
ハラスメント等の撲滅のための対応策の実施の徹底を図るため、令和元年度は11月から12月にかけて、全国11か所で説明会を行った。当該説明会において、次長通知を中心に、詳細な解説を行うとともに、質疑にも答えるなど、きめ細やかな支援に努めたほか、各消防本部等の実情の聞き取りも行った。
(エ)ポスター及びパンフレットの配布
ハラスメント等を防止することの必要性やハラスメント等への対応策を周知するためのポスター及びパンフレットを作成し、全国の消防本部等に対し配布した。

(3)女性消防吏員の更なる活躍の推進

ア 女性消防吏員を取り巻く現状

消防本部においては、昭和44年(1969年)に川崎市が12人の女性消防吏員を採用したことに始まり、以降、横浜市、越谷市、日立市、所沢市、東京都などが採用を開始した。平成6年(1994年)には女子労働基準規則の一部改正により、消防分野における深夜業の規制が解除され、女性消防吏員も24時間体制で消防業務に従事できるようになり、現在、救急業務のほか警防業務を含む交替制勤務を行う女性消防吏員の割合は全女性消防吏員の約5割となっている。
このように、少しずつ女性消防吏員の職域の拡大が図られ、女性消防吏員数が増加してきたところであるが、平成31年4月1日現在、全消防吏員に占める女性消防吏員の割合は2.9%(第2-3-4図)であり、警察官9.8%(地方警察官に占める女性警察官の割合)、自衛官6.9%、海上保安庁7.5%といった他分野と比較しても少ない状況である(自衛官は平成30年度末現在)。

第2-3-4図 女性消防吏員数・割合の推移

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第2-3-4図 女性消防吏員数・割合の推移

(備考)「消防防災・震災対策現況調査」により作成

女性消防吏員がいない消防本部数は、年々減少しているものの、平成31年4月1日現在、全国726本部中178本部(24.5%)あり、その約7割が消防吏員数100人未満の消防本部である。
消防分野においても女性消防吏員が増加し、活躍することにより、住民サービスの向上及び消防組織の強化につながることが期待される。
住民サービスの向上については、例えば、救急業務においては、女性傷病者に抵抗感を与えずに活動できることなどが挙げられる。
また、消防組織の強化については、男性の視点だけでなく、女性の視点が加わることにより、多様な視点でものごとを捉えることができるようになること、育児・介護などそれぞれ異なる事情を持っていることを組織や同僚が理解し支援する組織風土が醸成されることにより、組織に多様なニーズに対応できる柔軟性が備わっていくことが挙げられる。
消防庁では、女性消防吏員が生き生きと職務に従事できる職場環境づくりをソフト・ハード両面から支援する方策の検討を目的として、「消防本部における女性職員の更なる活躍に向けた検討会」を平成27年3月から7月まで開催した。

イ 市町村及び各消防本部の取組

消防庁は「消防本部における女性消防吏員の更なる活躍に向けた取組の推進について」(平成27年7月29日付け消防消第149号消防庁次長通知)を発出し、以下の取組を市町村及び各消防本部に対し要請した。
(ア)女性消防吏員の計画的な増員の確保
a 数値目標の設定による計画的な増員
消防全体として、消防吏員に占める女性消防吏員の全国の比率を、令和8年度当初までに5%に引き上げることを共通目標とする。
この共通目標の達成に向け、各消防本部においては、本部ごとの実情に応じて、数値目標を設定した上で、計画的な増員に取り組むこと。
実態調査によると、令和元年度までに数値目標を設定した消防本部は706本部(97.2%)あり、平成30年度の685本部(94.1%)より21本部増加している。
b 女性の採用の拡大に向けた積極的な取組
(a)積極的なPR活動の展開
女性消防吏員を増加させるためには、まずは消防を自らの職業として選択肢に含める女性を大幅に増やすことが喫緊の課題であることから、各消防本部は、これから社会人になる年齢層の女性に対し、具体的な業務内容や勤務条件等を含め、消防の仕事の魅力について、より積極的にPRするとともに、消防は女性が活躍できる職場であることの理解を深めるための説明会等を行うこと。
(b)採用試験における身体的制限について
採用募集に際し、身長・体重等の身体的制限を設けている消防本部においては、こうした制限が消防の職務の遂行上、必要最小限かつ社会通念からみて妥当な範囲のものかどうか、検証の上、必要に応じて見直しを検討すること。
(c)女性消防吏員の増加を踏まえた円滑な人事管理等の検討
消防は、市町村長部局の業務とは異なり、一定の隊員数で現場での部隊活動を行うため、現場活動従事者に長期の休暇や休業を取得する職員が生じた際に、必ずその欠けた1人を代替として補充しなければ部隊活動に支障を来すという職務上の特殊性を有する。
今後、消防本部が行う女性消防吏員の採用の大幅拡大にあわせ、市町村においては、消防における職務上の特殊性を理解のうえ、適切な措置を検討すること。具体的には想定される休業等に際し、消防力を継続的に維持できるような代替職員の確保等が考えられること。
(イ)適材適所を原則とした女性消防吏員の職域の拡大
消防業務において、法令による制限を除き、性別を理由として従事できる業務を制限することはできないことを十分に理解し、女性消防吏員の意欲と適性に応じた人事配置を行うこと。
なお、各隊の活動水準について一定レベルを確保することは必要不可欠であり、性別を問わず、各隊員がその活動に必要な能力を満たさなければならない点に留意すること。
(ウ)ライフステージに応じた様々な配慮
現状においては、女性消防吏員が極端に少ないこと、妊娠・出産といった母性保護に係る配慮や、子育て期における配慮が必要であることから、女性についてライフステージに応じた人事上の様々な配慮が必要であること。
(エ)消防長等消防本部幹部職員の意識改革
消防長は、消防本部のトップとして消防事務を統括し、全ての消防職員を指揮監督するなど、市町村の他の幹部職員と比較しても特に重い責任・権限を有している。そのため、消防長には、女性消防吏員の活躍推進を組織的に実施していくための強いリーダーシップの発揮が求められる。
各消防本部の消防長は、女性の活躍推進の意義を十分に理解し、自らの責務として各種の施策を実行すること。また、消防本部幹部職員に対しても、研修等により女性の活躍推進について理解を深めるよう取組を行うこと。
(オ)その他
a 施設・装備の改善
各消防本部においては、女性消防吏員の活躍の場を広げるために、消防本部・消防署・支所(出張所)等において、女性専用のトイレ、浴室、仮眠室などの施設整備を計画的に推進すること。なお、消防署所等における女性専用施設の整備に要する経費について、平成28年度から特別交付税措置を講じている。
また、女性消防吏員の要望に応じて、女性用の被服・装備品の導入を積極的に進めること。
b 女性の活躍情報の「見える化」の推進
各消防本部においては、女性割合、女性の採用者数、女性の管理職の割合及び女性活躍推進に向けた取組状況について、ホームページに掲載するなど「見える化」を推進すること。

ウ 消防庁の取組

(ア)女子学生等を対象とした職業説明会(ワンデイ・インターンシップ)等
ワンデイ・インターンシップとは、これから社会人となる年齢層の女性に、消防の仕事の魅力と消防分野での女性活躍の可能性を知ってもらい、消防を志す女性を増やすために各消防本部と連携して実施するもので、平成30年度は全国2か所の会場で開催し、32消防本部の協力の下、305人の参加があった。
各会場では、消防士を目指すきっかけや、消火、救急、救助、火災予防等の各業務の経験などについての現役女性消防吏員による講演や座談会を行うとともに、ブースを設け現役女性消防吏員との対話を通じて、様々な疑問にもきめ細かく対応した。また、近隣の消防署にて執務室の見学や消防車両の体験乗車、消防活動訓練の見学等を実施した。
令和元年度においても、全国3か所の会場で上記職業説明会を開催するほか、民間主催の就職イベントへの各消防本部の参加の呼び掛けや、消防本部が実施する女子学生等向け職場体験の支援等を行っている。
(イ)ポータルサイト等による幅広いPR
消防庁ホームページ内に女性消防吏員の活躍推進のためのポータルサイトを平成28年度に開設した。
また、平成28年度に、総務省消防庁公式Facebookページ「総務省消防庁-女性活躍-」を開設し、ソーシャルメディアを通じて身近でタイムリーな情報の発信を行っている。
加えて、消防庁ホームページ及び民間就職情報提供サイトに、各消防本部が行う職場体験の実施日時・体験内容等を掲載し、女子学生等から直接職場体験に参加申し込みができる窓口も設けている。
(ウ)消防庁女性活躍ガイドブックの作成
平成31年3月に、先進的な取組を行っている消防本部の事例等をまとめた「消防庁女性活躍ガイドブック」を作成し、全国の消防本部等に提供するとともに、消防庁ホームページにも公開している。
(エ)女性消防吏員活躍推進アドバイザー制度の新設
消防庁では、女性消防吏員の採用が進んでいる消防本部の人事担当者や女性活躍に関する有識者を希望する消防本部等に派遣して、採用促進の具体的取組等について助言する「女性消防吏員活躍推進アドバイザー制度」を平成29年12月に新設した。これまでに58件派遣し、4,798人が参加している(令和元年10月1日現在)。

エ 消防大学校における取組

消防大学校の教育訓練では、平成28年度から女性消防吏員のキャリア形成の支援を主たる目的とした5日間の女性専用コース「女性活躍推進コース」を実施するとともに、各学科の定員の5%を女性消防吏員の優先枠として設定し、女性の入校を推進している。
また、消防長をはじめとした幹部職員に対して、女性の職域拡大、上司の育児参加の理解・支援を含めた働きやすい環境の整備など、女性活躍推進に係る意識の改革・醸成等を目的とした講義を実施している。

(4)消防団員の処遇改善

消防団員は、大規模災害時においては昼夜を分かたず多岐にわたり活動し、また、平常時においても地域に密着した活動を行っており、消防団員の処遇については、十分に配慮し改善していく必要がある。

ア 報酬・出動手当

市町村では、条例に基づき消防団員に対し、その労苦に報いるための報酬及び出動した場合の費用弁償としての出動手当を支給している。支給額や支給方法は、地域事情により、必ずしも同一ではないが、報酬等に対する地方交付税措置が講じられていることから、特に支給額の低い市町村においては、当該措置額を踏まえた水準となるよう、引上げ等の適正化を図る必要がある。出動手当の中でも地震、風水害等の長時間(長期間)の活動を余儀なくされる場合の手当について、充実を図る必要がある。
なお、令和元年度の消防団員報酬等の地方交付税算入額は、第2-3-11表のとおりである。

第2-3-11表 消防団員報酬等の地方交付税算入額
(単位:円)

第2-3-11表 消防団員報酬等の地方交付税算入額

イ 公務災害補償

消防活動は、しばしば危険な状況の下で遂行されるため、消防団員が公務により死傷する場合もある(第2-3-2表)。このため、消防組織法の規定により、市町村は、政令で定める基準に従って、条例で定めるところにより、その消防団員又はその者の遺族がこれらの原因によって受ける損害を補償しなければならないとされている。そのため、他の公務災害補償制度に準じて療養補償、休業補償、傷病補償年金、障害補償、介護補償、遺族補償及び葬祭補償の制度が設けられている。なお、療養補償及び介護補償を除く各種補償の額の算定に当たっては、政令で補償基礎額が定められている(第2-3-12表)。

第2-3-12表 補償基礎額改定状況
(単位:円)

第2-3-12表 補償基礎額改定状況

また、消防団員がその生命又は身体に対し高度の危険が予測される状況の下において消防活動に従事し、そのため公務災害を受けた場合には、特殊公務災害補償として遺族補償等について100分の50以内を加算することとされている。
火災、風水害等においては民間の消防協力者等が死傷する場合もある(第2-3-13表)。この消防協力者等に対しては、消防法等の規定に基づき、市町村が条例で定めるところにより、損害補償を行うこととされている。消防協力者等の損害補償内容は、補償基礎額が収入日額を勘案して定められること以外は消防団員に対するものと同様である。

第2-3-13表 消防協力者等の死傷者数の推移
(単位:人)

第2-3-13表 消防協力者等の死傷者数の推移

(出典:消防基金調べ)

ウ 福祉事業

公務上の災害を受けた消防団員又はその遺族の福祉に関して必要な事業は市町村が行うよう努めるものであるが、消防団員等公務災害補償責任共済契約を締結している市町村については、消防団員等公務災害補償等共済基金(以下「消防基金」という。)又は指定法人がこれらの市町村に代わって行うこととなっている。
福祉に関して必要な事業の内容は、外科後処置、補装具、リハビリテーション、療養生活の援護、介護の援護及び就学の援護等となっている。

エ 退職報償金

非常勤の消防団員が退職した場合、市町村は、条例で定めるところにより、当該消防団員の階級及び勤務年数に応じて退職報償金を支給することとされている。なお、条例(例)によれば、その額は勤務年数5年以上10年未満の団員で20万円、勤務年数30年以上の団長で97万9,000円となっている(第2-3-14表)。

第2-3-14表 退職報償金支給額
(令和元年度)(単位:千円)

第2-3-14表 退職報償金支給額

オ 公務災害補償等の共済制度

昭和31年に、市町村の支給責任の共済制度として、消防基金が設けられ、統一的な損害補償制度が確立された。その後、昭和39年には、退職報償金の支払制度が、昭和47年には、福祉事業の制度がそれぞれ確立した。
消防基金の平成30年度の消防団員等に対する公務災害補償費の支払状況については、延べ2,289人に対し、17億3,389万円となっている(第2-3-15表)。また、福祉事業の支給実績は、延べ916人に対し、4億2,624万円となっている。
消防基金の平成30年度の退職報償金の支払状況は、4万3,095人に対し、約173億円となっている。

第2-3-15表 消防基金の公務災害補償費の支払状況
(平成30年度)

第2-3-15表 消防基金の公務災害補償費の支払状況

(出典:消防基金調べ)

カ 消防団員等が災害活動等で使用した自家用車に損害が生じた場合の見舞金の支給

消防団員等公務災害補償等責任共済等に関する法律の改正により、平成14年度以後、消防団員等が災害活動等で使用した自家用車に損害が生じた場合に、消防基金から見舞金(上限10万円)を支給している。平成30年度の支払状況は、延べ198人に対し、1,765万円となっている。

キ 乙種消防設備士及び丙種危険物取扱者資格の取得に係る特例

消防団の活性化に資するとともに、消防団員が新たに取得した資格を活用して更に高度な消防団活動を行うための環境の整備を目的として、平成14年7月、消防団員に対する乙種消防設備士試験及び丙種危険物取扱者試験に係る科目の一部を免除する特例を創設した。
消防設備士(乙種第5類・第6類)に関しては消防団員歴5年以上で消防学校の専科教育の機関科を修了した者を、危険物取扱者(丙種)に関しては消防団員歴5年以上で消防学校の基礎教育又は専科教育の警防科を修了した者を、それぞれ適用対象としている。

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