令和3年版 消防白書

2.今後の取組

(1)消防防災ヘリコプターの機能強化

消防庁では、緊急消防援助隊の機能強化のため、消防防災ヘリコプター、ヘリコプターテレビ電送システム、赤外線カメラ等の高度化資機材、消火用タンク及びヘリコプター用衛星電話の整備に対して補助金を交付し、大規模災害時等における航空消防防災体制の充実強化を図っている。
また、消防庁ヘリコプターには、人工衛星へ直接映像情報を伝送するヘリサットシステムを搭載し、地上の受信設備に頼らず、リアルタイムの映像伝送が可能となる情報伝送体制の強化を図り、大規模災害発生時における被害情報把握と緊急消防援助隊派遣の迅速化に取り組んでいる。
これらに合わせて、ヘリコプター動態管理システムの整備を進めることにより、活動現場における消防防災ヘリコプターの位置、動態情報をリアルタイムで把握し、大規模災害時の消防庁、現地災害対策本部等におけるオペレーションが迅速かつ効果なものとなるよう機能強化を図っている。
今後、ヘリコプター動態管理システムについては、安全・効率的な部隊運用や調整のため、国の関係機関が航空機情報を共有できる(内閣官房等が中心となり令和4年度から運用)航空機運用総合調整システム(FOCS)との連携を行う予定である。

(2)消防防災ヘリコプターの安全な活動の確保に向けて

平成21年以降、4件の消防防災ヘリコプター墜落事故が相次いで発生し、消防職員ら計26名が殉職するという極めて憂慮すべき事態となっていたことを受け、令和元年9月、消防庁では、消防防災ヘリコプターの運航の安全性の向上等を図るため、運航団体が取り組むべき項目を「消防防災ヘリコプターの運航に関する基準」として取りまとめ、助言より高い規範力を持つ消防組織法第37条の規定に基づく消防庁長官の勧告として発出した。
基準では、機長に不測の事態が生じた場合の安全性の確保等を目的とした二人操縦士体制や、消防防災ヘリコプターの運航管理を担う運航責任者及び専門的な知見を有する運航安全管理者の配置、緊急時の対応技量の習得に向けた教育訓練のあり方など、消防防災ヘリコプターの安全運航に関する基本的事項を定めている。
また、消防防災ヘリコプターの安全性の向上を図るため、基準に基づき、運航団体が取り組む安全運航確保に資するための装備品等の整備に要する経費、二人操縦士体制導入に向けた操縦士養成に必要な経費、運航安全管理者の配置のための人件費、シミュレーターを用いた緊急操作訓練に必要な経費などについて、令和2、3年度に新規、拡充の地方財政措置を講じている。
令和4年4月1日からは、二人操縦士体制導入を含め、基準の全ての規定が施行されるため、消防庁では、各運航団体へのヒアリング調査を通じ、取組みのフォローアップを進めている。

(3)消防防災ヘリコプター操縦士の養成・確保に向けて

消防防災ヘリコプターの操縦士は、山岳地域でのホバリングなど高度な技術を求められるが、そのような技術を有した操縦士の不足等により、多くの団体で運航体制の確保が困難な状況となっている。また、今後ベテラン操縦士の大量退職が見込まれていることから、操縦士の養成・確保が重要な課題となっている。
今後見込まれる操縦士不足、二人操縦士体制の確立を見据え、技量ある操縦士の育成・確保及び安全運航に努めていく必要があることから、消防庁では、運航団体が消防防災ヘリコプターの操縦士の要件及び操縦士の養成訓練に係る計画を策定し、実施するための指針として、令和2年3月に「消防防災ヘリコプター操縦士の乗務要件・訓練審査プログラム」を定めた。
乗務要件においては、操縦士を飛行時間・運航技能により「専任機長」「限定機長」「副操縦士」の3段階に分け、それぞれの要件を定めるとともに、訓練審査プログラムにおいては、ミッションごとに求められる技術の難易度に差があることや経験のある操縦士の確保が難しい状況を踏まえ、ミッション別の段階的な訓練審査プログラムを定めた。(第2-7-4図、第2-7-5図)
また、消防防災ヘリコプター操縦士等の確保・養成に向け、防衛省及び自衛隊と連携し、若年定年退職自衛官の消防防災ヘリコプター操縦士や運航安全管理者としての活用を図るとともに(令和2年度は3名を運航団体において採用)、自衛隊操縦士養成施設における消防防災ヘリコプター操縦士の養成(令和4年1月から1名を予定)などを行っている。

第2-7-4図 段階的審査のイメージ

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第2-7-4図 段階的審査のイメージ

第2-7-5図 段階的な訓練イメージ

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第2-7-5図 段階的な訓練イメージ

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