令和3年版 消防白書

特集1 最近の大規模自然災害等への対応

1.令和3年7月静岡県熱海市土石流災害による被害及び消防機関等の対応状況

(1)災害の概要

6月末から日本付近に停滞した梅雨前線の影響で、西日本から東北地方の広い範囲で大雨となり、各地で河川氾濫、浸水、土砂崩れ等が発生した。
静岡県熱海市では、降り始めから7月3日までの4日間の総雨量が432.5mmを観測し、平年の7月1か月分の降水量243mmを上回った。気象庁は、7月2日6時29分に大雨警報、同日12時30分に土砂災害警戒情報を発表した。これを受け、熱海市は、同日12時30分に高齢者等避難*1を発令した。その後、7月3日10時30分頃伊豆山地区の住宅地で大規模な土石流が発生したことを受け、熱海市は同日11時05分に緊急安全確保*2を発令した。
この土石流災害については、住民等の死者・行方不明者が27人となるなど甚大な被害が生じた。

被害状況1
被害状況1
被害状況2
被害状況2

(2)政府の主な動き及び消防機関等の活動


ア 政府の主な動き

政府においては、7月3日13時10分に官邸対策室を設置し、関係省庁局長級会議を開催して情報収集や対応の協議を開始した。その後、同日17時00分に関係閣僚会議を開催した。同日17時30分には「令和3年7月1日からの大雨特定災害対策本部*3」を設置し、さらに、5日11時00分に「令和3年7月1日からの大雨非常災害対策本部*4」を設置し、7月30日までの間に関係閣僚会議を2回、特定災害対策本部会議を2回、非常災害対策本部会議を3回開催した(特集1-1表)。

特集1-1表 政府の主な動き

特集1-1表 政府の主な動き
イ 消防庁の対応

消防庁においては、7月1日、伊豆諸島で線状降水帯が発生したとの気象情報を受け、災害対策室を設置(第1次応急体制)し、都道府県、指定都市に対して「梅雨前線による大雨についての警戒情報」により警戒を呼びかけた。その後、7月3日の熱海市土石流災害発生に伴い、同日12時45分に第2次応急体制、さらに、同日13時10分には官邸対策室の設置と同時に消防庁長官を長とする消防庁災害対策本部に改組(第3次応急体制)し、全庁を挙げて災害対応に当たった。
緊急消防援助隊については、同日13時30分に静岡県から消防庁長官に対する出動の要請を受け、直ちに統括指揮支援隊(横浜市消防局)、指揮支援隊(静岡市消防局)、都県大隊(東京都、神奈川県)に対し出動を求めた。同日以降、隊の交代にあわせ7県に対して出動を指示した(発災当初、消防庁長官の求めによる出動としていたところ、その後、7月3日特定災害対策本部、同月5日非常災害対策本部が設置されるなど被害の甚大さが判明したことから、消防庁長官の指示によるものとした。「オ 緊急消防援助隊の活動」を参照)。
あわせて、被災自治体の支援や情報収集のため、7月3日以降、静岡県、熱海市役所及び熱海市消防本部に対し、27日間にわたり計42人の消防庁職員を派遣した。派遣された職員は、熱海市による被害規模の把握や救助・捜索活動の方針策定などの発災直後の応急対策を支援したほか、緊急消防援助隊の安全、円滑な活動のため、安全管理、警察・自衛隊等の他機関を含めた活動調整等を行った(特集1-2表)。

特集1-2表 消防庁の対応

特集1-2表 消防庁の対応
ウ 熱海市災害対策本部等の動き

発災当初、土石流に巻き込まれた方の人数把握が困難であったため、熱海市災害対策本部は消防庁や消防研究センターとも連携し、ドローン映像等も活用して被災エリアを確定するとともに、住民基本台帳などの住民情報も活用し安否不明者名簿を作成した。この名簿をもとに、静岡県災害対策本部では、熱海市、静岡県警とも調整し、広く情報を募るための氏名公表、寄せられた情報をもとにした安否不明者の絞り込みを行い、救助・捜索活動に活用した。
このほか、静岡県は、熱海市に対して災害救助法及び被災者生活再建支援法の適用を決定した。

エ 消防機関の活動

被災現場は、土石流による泥や倒壊家屋のがれき等の堆積物に覆われ極めて困難な状況であったが、消防(地元消防本部、県内消防本部からの応援隊及び緊急消防援助隊)は警察、自衛隊、海上保安庁等と一体となり、救助活動、行方不明者の捜索などを懸命に行った。
また、地元消防団は、発災後の住民の避難誘導に加え、現場周辺の交通整理や夜間警戒等を実施した。

オ 緊急消防援助隊の活動

7月3日以降、消防庁長官から出動の求め*5又は指示*6を受けた10都県の緊急消防援助隊は、順次出動し26日まで活動した(特集1-3表)。

特集1-3表 緊急消防援助隊の活動状況

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特集1-3表 緊急消防援助隊の活動状況

統括指揮支援隊(横浜市消防局)は、静岡県消防応援活動調整本部において、静岡県、静岡県内消防本部及び消防庁派遣職員のほか、警察、自衛隊、海上保安庁、DMAT*7等の関係機関と連携し、被害情報の収集・整理、緊急消防援助隊の活動管理等を行った。
指揮支援隊(静岡市消防局)は、熱海市消防本部において、熱海市長及び消防長を補佐するとともに被害情報の収集・整理を行い、消防庁派遣職員のほか、警察、自衛隊、海上保安庁等の関係機関と連携し、熱海市に派遣された大隊の活動管理等を行った。
各都県大隊(東京都、神奈川県、愛知県、山梨県、長野県、群馬県、栃木県、茨城県、岐阜県)は、県内応援隊や警察・自衛隊等と連携の下広範囲に堆積した土石流による泥や倒壊家屋のがれき等を除去しながら安否不明者の救助活動を実施した。当初は、被災地域の道路が堆積物に覆われていたため重機等の進入が困難であり、人力によるがれき等の除去を行いながらの活動となったが、県内応援隊等と連携の下7月5日までの間、32人を救出した。その後、道路啓開が進むにつれ、大隊の保有する重機による救助活動も徐々に行われ、安否不明者(行方不明者)の住居付近等に捜索箇所を重点化するなど活動の効率化も図られ、26日の活動終了までにさらに17人(総計49人)の要救助者を発見、救出した。また、ドローンを活用した上空からの情報収集を積極的に行い、被災エリアの明確化、効果的な活動方針の策定に役立てた。これらの映像情報は、映像伝送装置を使用した伝送により、現地の活動隊だけでなく消防庁及び静岡県庁にも情報共有された。
熱海市に出動した緊急消防援助隊は、7月3日から26日までの24日間にわたり活動し、出動隊の総数*8は、815隊、3,099人(延べ活動数*92,097隊、7,961人)となった。(特集1-1図)
今回の災害現場では、大量かつ広範囲の泥やがれきの除去作業が必要となり、多くの隊員が長期にわたり活動することとなったため、通常の救助工作車に加え、消防庁が無償使用車両として配備している重機、拠点機能形成車等が活用された。

特集1-1図 静岡県熱海市土石流災害における緊急消防援助隊の活動状況

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特集1-1図 静岡県熱海市土石流災害における緊急消防援助隊の活動状況
カ 災害後の消防庁の対応

(ア)被害規模の迅速な把握
熱海市土石流災害では、発災当初、土石流による被害状況の正確な把握が困難であったが、ドローン映像等を活用した被災エリアの確定、住民情報等との突合による安否不明者名簿の作成、広く情報を募るための名簿公表等を経て、安否不明者の絞り込み特定を行った。
こうした取組は早期の被害規模把握、救助活動の効率化・重点化に有効であり、今後の同様の災害発生時においても活用すべく、消防庁においては、被害状況の迅速な把握のための取組をガイドラインとして取りまとめ提示できるよう、検討を進めているところである。
なお、安否不明者の氏名等公表については、氏名等の公表を行うに当たっての留意事項を周知すべく、内閣府と連携し「災害時における安否不明者の氏名等の公表について」(令和3年9月16日付け通知)を各都道府県防災主管部長に対して発出した。

(イ)救助・捜索活動
熱海市土石流災害の救助・捜索活動では、多量の土砂が堆積するなど困難な状況のなかで、これに対応した様々な資機材の活用、県内及び緊急消防援助隊の消防機関や自衛隊等の関係機関との効果的な連携など、今後の災害対応にも参考となる取組が見られた。
これを受け、消防庁は、日本各地で起こり得る土砂災害・風水害時の救助活動の参考とするべく、「熱海市土石流災害における救助活動事例(奏功事例)等の周知について」(令和3年8月31日付け通知)を発出し、各都道府県消防防災主管部長に対して救助活動の奏功事例等を周知するとともに、これまでの実災害や訓練等で得られた教訓や地域の特性等も踏まえ、土砂災害時における救助活動の充実、関係機関との連携の強化を図るよう要請した。
今後、本災害を受けて、多数の応援部隊を得て活動する際の活動方針策定など地元消防本部への指揮支援、また、警察・自衛隊といった関係機関との活動調整等について、より効果的な方策を検討していく予定である。

(ウ)資機材・車両の整備
熱海市土石流災害の救助・捜索活動では、ドローン映像や狭隘・急傾斜の被災現場で活動可能な小型救助車が有効に活用されたことから、消防庁では、今後の災害に備え、空撮した写真から地図画像を作成できる情報収集活動用ハイスペックドローン、登坂能力・資機材搬送能力に優れた小型救助車の配備等を進めることとしている。

捜索活動状況
捜索活動状況
現地合同調整本部会議の様子
現地合同調整本部会議の様子
捜索活動状況(ドローンにより撮影)(静岡県内応援隊提供)
捜索活動状況(ドローンにより撮影)
(静岡県内応援隊提供)
救出活動状況(神奈川県大隊提供)
救出活動状況
(神奈川県大隊提供)
資機材・隊員除染作業状況(愛知県大隊提供)
資機材・隊員除染作業状況
(愛知県大隊提供)
重機を活用した捜索活動状況(静岡県消防防災航空隊提供)
重機を活用した捜索活動状況
(静岡県消防防災航空隊提供)
DPATによるメンタルヘルスに関するレクチャーを受けている様子(愛知県大隊提供)
DPAT*10によるメンタルヘルスに関する
レクチャーを受けている様子
(愛知県大隊提供)
宿営活動状況(静岡県消防防災航空隊提供)
宿営活動状況
(静岡県消防防災航空隊提供)

*1 高齢者等避難:災害対策基本法第56条第2項の規定に基づくもの。第2章第9節第2-9-1図を参考にされたい。
*2 緊急安全確保:災害対策基本法第60条第3項の規定に基づくもの。第2章第9節第2-9-1図を参考にされたい。
*3 特定災害対策本部:第2章第9節第2-9-2図を参考にされたい。
*4 非常災害対策本部:第2章第9節第2-9-2図を参考にされたい。
*5 消防庁長官による出動の求め:消防組織法(昭和22年法律第226号)第44条第1項、第2項又は第4項の規定に基づき、消防庁長官から災害発生市町村の属する都道府県以外の都道府県知事又は当該災害発生市町村以外の市町村長に対し緊急消防援助隊の出動のための必要な措置を求めること。
*6 消防庁長官による出動の指示:消防組織法第44条第5項の規定に基づき、消防庁長官から災害発生市町村の属する都道府県以外の都道府県知事又は当該都道府県内の市町村長に対し緊急消防援助隊の出動のための必要な措置を指示すること。
*7 DMAT:災害発生直後の急性期(概ね48時間以内)に活動が開始できる機動性を持った、専門的な研修・訓練を受けた災害派遣医療チームで、医師、看護師及び業務調整員で構成される。
*8 出動隊の総数:出動した隊数・隊員数の実総数
*9 延べ活動数:日毎の活動した隊数・隊員数を活動期間中累計した数
*10 DPAT:自然災害や多数傷病者発生災害による災害ストレス等により発生する精神的問題に対し、専門性の高い精神科医療の提供と精神保健活動の支援を行う災害派遣精神医療チームで、精神科医師、看護師、業務調整員で構成される。

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