令和3年版 消防白書

3.栃木県足利市林野火災による被害及び消防機関等の対応状況

(1)災害の概要

ア 火災の概要

令和3年2月21日15時20分頃、栃木県足利市西宮町地内にある両崖山山頂付近の山林(通称「紫山」)から出火した。管轄の足利市消防本部は同日の15時36分に覚知し消火活動に当たったが、強風注意報が発表された23日以降、両崖山及び隣り合う天狗山を含めた広範囲な山林に急激に延焼拡大した。この状況を受け、県内外から応援隊、緊急消防援助隊による部隊増強が行われ、地上消火隊、空中消火隊による連携した活動の結果、最終的に私有林約167haを焼損したものの、人的被害、住居被害は発生しなかった。(特集1-3図)
鎮圧時刻は3月1日16時、鎮火時刻は3月15日15時である。発生から鎮火まで時間を要したことや、住宅街の近くまで延焼が広がり、市内住民に避難勧告が出されたこともあり全国的に注目を集めた。

特集1-3図 地上消火活動の実績

画像をクリック(タップ)すると拡大表示します

特集1-3図 地上消火活動の実績

イ 地域の特性

火災発生場所の両崖山は標高251メートルと比較的低い山であるが、斜面が急勾配で消火活動は困難を極めた。堆積していた多量の落ち葉を介して延焼したため、多くの人員や水量が必要となった。

ウ 気象の状況

広く冬型の気圧配置となった影響で、栃木県では空気が乾燥した状態が続き、断続的に風が強くなるなど、火災が発生しやすい気象状況となっていた。出火時の天候は晴れ、実効湿度54.8%、平均風速毎秒3.9メートル、気温22.3度、最終降雨日から6日が経過していた。(観測値は足利市河南消防署南分署における観測結果に基づく)

エ 出火原因

足利市消防本部によると、出火箇所は両崖山から天狗山に通じるハイキングコース途中の休憩所付近であり、出火当日、たばこを吸うハイカーが目撃されていることや原因調査時にたばこの吸い殻が確認されたことからたばこの不始末によるものと推定されている。

(2)消防機関等の活動

ア 消防庁の対応

消防庁は発災当初から情報収集を開始するとともに、2月24日6時30分には消防庁災害対策室を設置、同日11時には第2次応急体制、さらに翌日13時45分には消防庁長官を長とする消防庁災害対策本部に改組(第3次応急体制)した。
また、被災自治体の支援や情報収集のため、24日以降、栃木県及び足利市に対し、6日間にわたり延べ39人の消防庁職員を派遣した。派遣された職員は、被害規模の把握の支援のほか、指揮の支援、消防防災ヘリコプターや自衛隊ヘリコプターで構成される空中消火隊と陸上部隊との調整、緊急消防援助隊の円滑な活動調整や安全管理などを行った。

イ 足利市災害対策本部等の動き

足利市は、2月22日10時00分に災害対策本部を設置するとともに、周辺住宅地において最大305世帯610人に避難勧告を発令した。
栃木県は、2月24日9時40分に災害警戒本部を設置した。

ウ 消防機関の活動

2月21日、火災を覚知した足利市消防本部は、市街地の消火栓から取水し、両崖山山頂付近の火元を北側から消火に当たった。22日には南側からもホースを延長して火元を挟み込む態勢をとり、到着した消防防災ヘリコプターや自衛隊ヘリコプターと連携した消火活動を行った。23日の延焼拡大を踏まえ、24日には相互応援協定に基づく県内外からの応援(栃木県内11隊、群馬県内4隊)を得て、広大な延焼範囲を包囲する態勢を整え、住宅地への延焼阻止に当たった。
栃木県消防防災航空隊はヘリベース、フォワードベースの運用、空中消火及び情報収集活動に当たった。
茨城県及び埼玉県の消防防災ヘリコプターは、栃木県との航空消防防災相互応援協定に基づき出場し、空中消火活動に当たった。
足利市消防本部は延べ1,015人、足利市消防団は延べ331人が消火活動に当たった。

エ 緊急消防援助隊等の活動

強風により火勢が拡大した2月24日には、栃木県知事からの要請を受けた消防庁長官の広域航空消防応援の要請により出場した山梨県、横浜市消防局、宮城県、茨城県及び埼玉県の消防防災ヘリコプターが空中消火活動、群馬県及び福島県の消防防災航空隊が航空指揮支援活動に当たった。
翌25日には、更に火勢が拡大したことから、栃木県知事からの要請を受けた消防庁長官の緊急消防援助隊出動の求めにより、統括指揮支援隊として東京消防庁、航空指揮支援隊として福島県消防防災航空隊が活動した。航空小隊(空中消火及び情報収集)として宮城県、埼玉県、茨城県、横浜市消防局、東京消防庁及び富山県の消防防災ヘリコプターが出動、活動した。
なお空中消火については2月21日から3月1日までの間、栃木県消防防災ヘリコプターほか県外消防防災ヘリコプター7機の応援により30万7,910リットル(626回)の散水が行われた(特集1-4図)。

特集1-4図 消防防災ヘリコプターの消火活動実績

画像をクリック(タップ)すると拡大表示します

特集1-4図 消防防災ヘリコプターの消火活動実績

オ 自衛隊の対応

2月22日に栃木県は自衛隊に空中消火にかかる災害派遣要請を行い、2月22日から3月1日までの間、ヘリコプター部隊(最大CH-47×8機態勢)により200万5,000リットル(401回)の散水が行われた。

カ 火災後の消防庁の取組

消防庁では本火災を契機に、令和3年度より「より効果的な林野火災の消火に関する検討会」を開催し、林野火災における応援要請のタイミング、指揮体制の早期確立、陸上部隊・航空部隊との情報共有方法、活動時間・場所の区分けによる連携方法等の検討を行い、今後のより効果的な林野火災の消火活動等に役立てていくこととしている。

両崖山及び天狗山全景(横浜市消防局提供)
両崖山及び天狗山全景
(横浜市消防局提供)
上空から見た延焼状況(横浜市消防局提供)
上空から見た延焼状況
(横浜市消防局提供)
延焼状況(足利市消防本部提供)
延焼状況
(足利市消防本部提供)
消火活動の状況(足利市消防本部提供)
消火活動の状況
(足利市消防本部提供)
東京消防庁ヘリコプター空中消火活動(横浜市消防局提供)
東京消防庁ヘリコプター空中消火活動
(横浜市消防局提供)
両崖山山頂付近の焼損状況(足利市消防本部提供)
両崖山山頂付近の焼損状況
(足利市消防本部提供)

関連リンク

はじめに
はじめに 昨年は、静岡県熱海市土石流災害や8月11日からの大雨などの自然災害に見舞われ、多くの人的・物的被害が生じました。 また、新型コロナウイルス感染症への対応として、救急隊員の感染防止対策の徹底や、ワクチン接種業務への救急救命士の活用など様々な対応が求められました。 気候変動...
1.令和3年7月静岡県熱海市土石流災害による被害及び消防機関等の対応状況
特集1 最近の大規模自然災害等への対応 1.令和3年7月静岡県熱海市土石流災害による被害及び消防機関等の対応状況 (1)災害の概要 6月末から日本付近に停滞した梅雨前線の影響で、西日本から東北地方の広い範囲で大雨となり、各地で河川氾濫、浸水、土砂崩れ等が発生した。 静岡県熱海市では、降り始めから7月...
2.令和3年8月11日からの大雨による被害及び消防機関等の対応状況
2.令和3年8月11日からの大雨による被害及び消防機関等の対応状況 (1)災害の概要 ア 気象の状況 8月11日から21日にかけて、日本付近に停滞した前線に暖かく湿った空気が断続的に流れ込んだ影響で前線の活動が活発となり、西日本から東日本の広い範囲にかけて大雨となった。 特に、8月12日から14日は...
3.栃木県足利市林野火災による被害及び消防機関等の対応状況
3.栃木県足利市林野火災による被害及び消防機関等の対応状況 (1)災害の概要 ア 火災の概要 令和3年2月21日15時20分頃、栃木県足利市西宮町地内にある両崖山山頂付近の山林(通称「紫山」)から出火した。管轄の足利市消防本部は同日の15時36分に覚知し消火活動に当たったが、強風注意報が発表された2...