令和3年版 消防白書

[住民等の自主防災活動]

地域防災力の充実強化に当たっては、その中核となる消防団の充実強化だけでなく、地域住民一人一人が「自分たちの地域は自分たちで守る」という固い信念と連帯意識に基づき、コミュニティにおける自主的な防災活動を実施し、地域ぐるみの防災体制を確立することも重要である。
阪神・淡路大震災においては、地域住民が協力し合って、初期消火により延焼を防止した事例や、救助活動により人命を救った事例等が数多くみられた(第4-1図)。また、東日本大震災においても、地域における自主的な防災活動の重要性が改めて認識され、自主防災組織の結成の促進やその活動の活性化に向けた取組が各地で行われている。その後の大規模災害においても、自主防災組織が、地域住民の中心となってハザードマップの作成や避難訓練を実施するなど、日頃から地域防災力の向上に努めていた結果、地域住民の避難が適切に行われ、被害の軽減につながった事例もある。
自主防災活動が効果的かつ組織的に行われるためには、地域ごとに自主防災組織を整備し、平常時から、災害時の情報の収集伝達体制・警戒避難体制を確立し、防災用資機材の備蓄等を進めるとともに、大規模な災害を想定した防災訓練を積み重ねていくことが必要である。
また、地域の防火防災意識の高揚を図る上で、自主防災組織の育成とともに、女性防火クラブ、少年消防クラブ、幼年消防クラブ等の育成強化を図ることも重要である。

第4-1図 阪神・淡路大震災における生き埋めや閉じ込められた際の救助の状況

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第4-1図 阪神・淡路大震災における生き埋めや閉じ込められた際の救助の状況

(1)自主防災組織

自主防災組織は、地域住民の連帯意識に基づく自発的な防災組織であり、令和3年4月1日現在で、全国1,741市区町村のうち1,691市区町村で169,804の自主防災組織が設置され、自主防災組織による活動カバー率(全世帯数のうち、自主防災組織の活動範囲に含まれている地域の世帯数の割合)は増加傾向にある(第4-2図、資料4-1)。また、自主防災組織を育成するため、令和2年度には、1,005市区町村において資機材の購入費及び運営費等に対する補助が、187市区町村において資機材等の現物支給が、それぞれ行われている。これらに要した経費は令和2年度で合計39億9,387万円となっている。
なお、防災訓練においては住民の事故が起こらないように、細心の注意が払われているが、事故が起きてしまった場合には、公益財団法人日本消防協会の防火防災訓練災害補償等共済制度等を活用することが可能である。

第4-2図 自主防災組織の推移

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(各年4月1日現在)

第4-2図 自主防災組織の推移

(備考)「消防防災・震災対策現況調査」により作成

(2)女性防火クラブ

女性防火クラブは、家庭での火災の予防に関する知識の修得、地域全体の防火防災意識の高揚等を目的とした組織をいう。その数は令和3年4月1日現在で7,236団体であり、クラブ員の数は約108万人となっている。
また、女性防火クラブの相互交流や活動に関する情報交換、研修等を通じて同クラブの充実強化につなげるため、令和3年4月1日現在で43道府県において、道府県単位の連絡協議会が設置されている。
東日本大震災においても、避難所での炊き出し支援や、被災地への義援金・支援物資の提供等の活動が行われた。また、平成28年熊本地震においても避難所での炊き出し等の支援が行われた。

(3)少年消防クラブ

少年消防クラブは、10歳以上18歳以下の少年・少女が防火及び防災について学習するための組織をいう。その数は令和3年5月1日現在で4,285団体であり、クラブ員の数は約40万人となっている。
消防庁では、消防の実践的な活動を取り入れた訓練等を通じて他地域の少年消防クラブ員との親交を深めるとともに、消防団等から被災経験、災害教訓、災害への備え等について学ぶ「全国少年消防クラブ交流大会」を平成24年度から開催している。
令和3年度は、令和2年度に引き続き、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、中止することとした。

(4)幼年消防クラブ

幼年消防クラブは、幼年期に、正しい火の取扱いについて学び、消防の仕事を理解することにより、火遊び等による火災発生の減少を図ろうとするための組織である。近い将来、少年・少女を中心とした防災活動に参加できる素地をつくるため、9歳以下の児童(主に幼稚園、保育園の園児等)を対象として編成され、消防機関等の指導の下に同クラブの育成が進められている。その数は令和3年5月1日現在で13,445団体であり、クラブ員の数は約109万人となっている。

(5)自主防災組織等の活動の活性化

自主防災組織等の活動の活性化が地域防災力の更なる充実強化に当たり重要であるとの認識から、消防庁では令和2年度から、消防団又は自主防災組織が地域の防災組織等と連携して行う事業に対する支援や、自主防災組織のリーダー育成支援、自主防災組織同士の地域単位、市町村単位又は都道府県単位の連絡協議会の設立の取組を支援する事業を実施している。

(6)防災知識の普及啓発

地域防災力の充実強化に当たっては、地域住民一人一人が防災の担い手として防災知識を持つことも重要である。消防庁では、インターネットを活用していつでも、誰でも、無料で防災の知識や災害時の危機管理について学習できる「防災・危機管理e-カレッジ」を消防庁ホームページにおいて運用している。このほか、SNS等の広報媒体を通じ、防災知識の普及啓発を行っている。
また、消防庁では、東日本大震災の経験を踏まえ、被災地で活躍した市町村職員、消防団員、女性防火クラブ員、自主防災組織の構成員等の方々を語り部として、希望する全国の市町村に派遣し、講演等を行う「災害伝承10年プロジェクト」を平成25年度から毎年実施している。

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