令和4年版 消防白書

特集5 令和4年10月4日及び11月3日の北朝鮮による弾道ミサイル発射に伴う対応

1.我が国周辺の安全保障環境等

(1)全般

現在の安全保障環境の特徴として、国家間の相互依存の関係が一層拡大・深化する一方、国家間のパワーバランスの変化が加速化・複雑化し、既存の秩序をめぐる不確実性が増大している。こうした中、令和4年2月に開始されたロシアによるウクライナ侵略など、既存の秩序に対する挑戦への対応が世界的な課題となっている。
我が国周辺においては、令和4年8月、中国が台湾周辺において軍事演習を行い、同月4日に9発の弾道ミサイルを発射し、そのうち5発が我が国の排他的経済水域(EEZ)内に着弾したものと推定される事案が発生している。

(2)最近の北朝鮮によるミサイル発射の動向と発射に対する消防庁の対応

北朝鮮は、平成28年2月の「人工衛星」と称する弾道ミサイル発射以降、平成29年11月の発射事案まで、頻繁にミサイルの発射を繰り返していた。この間、平成29年8月29日及び9月15日には、弾道ミサイルが北海道上空を通過して太平洋に落下する事案が発生している。
平成29年11月以来、北朝鮮は弾道ミサイルを発射していなかったが、令和元年5月以降、短距離弾道ミサイルなどの発射を繰り返し(詳細は第3章第2節を参照)、令和3年3月には新型の短距離弾道ミサイルを発射、同年9月以降は、「極超音速ミサイル」と称するものや変則軌道で飛翔する短距離弾道ミサイルなどを立て続けに発射し、その態様も鉄道発射型や潜水艦発射型など多様化している。加えて、特に令和4年1月以降、ICBM*1級を含め、弾道ミサイル(弾道ミサイルの可能性があるものを含む)の発射を26回・少なくとも51発(令和4年11月9日現在)とかつてない高い頻度で執拗に繰り返している。
これを受け、消防庁では、Jアラート*2による迅速な情報伝達を都道府県・市町村を通じ住民に対して行っている(詳細は第3章第1節を参照)(特集5-1図)。
また、弾道ミサイル攻撃による爆風等からの直接の被害を軽減するための一時的な避難に活用する観点から、政府としては、令和3年度からの5年間を集中取組期間とし、コンクリート造り等の堅ろうな建築物や地下街、地下駅舎等の地下施設(緊急一時避難施設)の避難施設としての指定を促進している(詳細は第3章コラムを参照)。
さらに、平成30年6月以降見合わせてきた国と地方公共団体が共同で実施する弾道ミサイルを想定した住民避難訓練を令和4年度より再開した。なお、令和4年度は11団体が実施することとしている(特集5-2図)。

特集5-1図 弾道ミサイル発射時のJアラートによる情報伝達

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特集5-1図 弾道ミサイル発射時のJアラートによる情報伝達

特集5-2図 弾道ミサイルを想定した住民避難訓練の概要

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特集5-2図 弾道ミサイルを想定した住民避難訓練の概要

*1 ICBM:大陸間弾道ミサイル(防衛省HP)
*2 Jアラート:内閣官房から発出される弾道ミサイル攻撃など国民保護に関する情報や気象庁より発出される緊急地震速報、津波警報、気象警報などの緊急情報を、人工衛星及び地上回線を通じて送信し、市町村防災行政無線(同報系)等を自動起動することにより、人手を介さず瞬時に住民等に伝達することが可能なシステム