7. 「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」における消防庁の取組
(1)「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の概要
近年、気候変動の影響により気象災害は激甚化・頻発化し、南海トラフ地震などの大規模地震の発生も切迫している。また、老朽化するインフラの維持管理・更新に適切に対応しなければ、行政・社会経済システムが機能不全に陥る懸念がある。
このような危機に打ち勝ち、国民の生命・財産を守り、社会の重要な機能を維持するためには、防災・減災、国土強靱化の取組の加速化・深化を図る必要がある。
政府は、平成26年6月3日に策定し、平成30年12月14日に変更を閣議決定した「国土強靱化基本計画」を踏まえ、「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」(平成30年12月14日閣議決定)等に基づき、防災・減災、国土強靱化の取組を推進してきた。
加えて、令和2年12月11日、「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」(以下、本特集において「5か年加速化対策」という。)を閣議決定し、「激甚化する風水害や切迫する大規模地震等への対策」、「国土強靱化に関する施策を効率的に進めるためのデジタル化等の推進」等の分野の取組について、更なる加速化・深化を図ることとし、令和7年度までの5か年に追加的に必要となる事業規模等を定め、重点的・集中的に対策を講ずることとした。
消防庁では、5か年加速化対策に8つの施策を位置付けており、以下、各々の施策の概要について説明する。
なお、令和5年7月28日には「国土強靱化基本計画」の更なる変更が閣議決定されたところであり、消防庁としても、幅広い住民の入団促進等による消防団の充実強化や、DXの推進による緊急消防援助隊の指揮支援体制の強化等に取り組むこととしている。
(2)5か年加速化対策における消防庁の施策
ア 大規模災害等緊急消防援助隊充実強化対策
近年の激甚化する土砂・風水害や切迫する南海トラフ地震など、大規模災害に備え、より迅速な消火・救助体制の整備、情報収集・共有機能の充実、後方支援体制の強化等を行い、効果的・効率的な活動ができるよう、緊急消防援助隊の車両・資機材の適切な整備を行う。
本施策の目標としては、令和7年度までに、情報収集活動用ドローン37台、映像伝送装置54台、拠点機能形成車10台、さらに特別高度工作車12台を整備するとともに、緊急消防援助隊動態情報システムの機能向上を行い、各都道府県や各ブロック単位での整備を進めていくこととしている。
令和4年度までに、緊急消防援助隊動態情報システムの更新を行い、機能向上を図ったほか、情報収集活動用ドローン37台、映像伝送装置31台、拠点機能形成車1台の整備を行った。
令和5年度においても、特別高度工作車12台(令和4年度に更新予定としていた6台を含む。)の更新を行うほか、拠点機能形成車7台(令和4年度に整備予定としていた5台を含む。)の整備を行う。
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情報収集活動用ドローンの活用
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拠点機能形成車
イ NBC災害等緊急消防援助隊充実強化対策
NBC災害等への対応体制の充実強化を図るため、車両・資機材の老朽化を踏まえ、適切な整備を行う。
本施策の目標としては、令和7年度までに、全国に配備しているNBC災害即応部隊(54部隊)の資機材(化学剤検知器や大型除染システム等)を最新の知見に基づき整備することとしている。
また、全国の緊急消防援助隊に配備している放射線防護資機材(放射線防護全面マスクや放射線量率計等)についても、更新することとしている。
令和4年度までに、化学剤検知器や大型除染システム等のNBC災害対応資機材を24部隊に整備するなどの対応を実施した。
令和5年度においても、28部隊への整備などを行う。
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化学剤同定装置(固体・液体) | 大型除染システム |
NBC災害対応資機材(一部)
ウ 大規模災害等航空消防防災体制充実強化対策
大規模災害等発生時の被害状況の早期把握、救助・救急活動、被災地への迅速な消防庁職員派遣等のため、消防防災ヘリコプターの航空機・資機材等の整備を行う。
本施策の目標としては、令和7年度までに、緊急消防援助隊の航空小隊(5か年加速化対策開始前の令和2年12月1日時点で74隊)を80隊程度まで整備し、航空消防防災体制の充実強化を図ることとしている。
令和4年度までに、新たな航空小隊が3隊配備され、緊急消防援助隊の航空小隊は77隊となった。
令和5年度以降においても、緊急消防援助隊の航空小隊の整備促進を図る。
また、あわせて消防防災ヘリコプターによる広域的な運航体制の更なる連携強化を図っていく。
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消防庁ヘリコプター
エ 地域防災力の中核を担う消防団に関する対策
近年、災害が激甚化・頻発化する中で、地域防災力の中核として、消防団の果たす役割がますます大きくなっていることを踏まえ、消防団の災害対応能力を向上させるため、市町村に対し、救助用資機材等を搭載した多機能消防車両を無償で貸し付け、訓練等を支援している。
また、救助用資機材等の整備を促進するための国庫補助事業を実施しており、令和5年度から新たに、補助対象資機材に水中ドローン及び高視認性防寒衣を追加し、更なる災害対応能力の向上を支援している。
本施策の目標としては、特に風水害に対応した十分な車両・資機材を備え救助活動等を行える消防団の割合を令和7年度までに100%とすることとしている。
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救助用資機材搭載型小型動力ポンプ積載車
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救助用資機材等のイメージ
オ 自治体庁舎等における非常用通信手段の確保対策
消防庁は、令和4年8月3日からの大雨において、山形県飯豊町における固定電話回線が断絶したため、地域衛星通信ネットワークを利用して災害情報の把握を行った。
このように、災害発生時に地上通信網が途絶した際に、都道府県や市町村等が外部と連絡を取ることができるよう都道府県・市町村等に対して衛星通信を用いた非常用通信手段の確保を働き掛けるとともに、技術情報の提供を通じて整備を促進する。
本施策の目標としては、令和7年度までに地域衛星通信ネットワークの第3世代システムをはじめとした衛星通信機器を全市町村・消防本部に導入することとしている(特集1-1図)。
特集1-1図 衛星通信を用いた非常用通信手段のイメージ
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令和4年度までに、40道府県が地域衛星通信ネットワークに係る衛星通信機器を全市町村へ導入又は導入に向けた具体的な取組に着手した。
令和5年度においても、引き続き、各都道府県に対し衛星通信システムの整備状況及び予定に関する調査を実施し、調査結果を踏まえ7都県へ働き掛けを行う。
カ 住民等への情報伝達手段の多重化対策
住民に対し災害情報を確実に伝達すべく、その伝達手段の多重化を推進するため、アドバイザー派遣や技術的知見の整理、各種会議での周知等により、市町村に対して防災行政無線等の整備や戸別受信機の導入などを促進する。
本施策の目標としては、令和7年度までに、全ての市町村において防災行政無線等の災害情報伝達手段を整備することとしている。
令和4年度までに、全市町村のうち96.2%の団体で防災行政無線等が整備済となっている。
令和5年度においても、引き続き市町村に対して技術的提案や助言を行うアドバイザー派遣事業を実施するとともに、「災害情報伝達手段の整備等に関する手引き」(令和5年3月消防庁)に掲載されている災害情報伝達手段の奏功事例を最新の事例に更新する。
キ 消防指令システムの高度化等に係る対策
各消防本部等で整備されている消防指令システムについて、近年の情報通信技術(ICT)環境の変化や、令和6年度から令和8年度にかけてシステムが更新のピークを迎えることを踏まえ、通報手段の多様化や外部システム及びサービスとの円滑な連携の実現等、高度化に向けて検討し、同システムの標準化を図る。
本施策の目標としては、各消防本部における外部システムと連携するための標準インターフェイス(データの出入口)の導入を推進するため、令和5年度末までに消防庁において標準インターフェイスやデータの要件を盛り込んだ標準仕様書を策定することとしている。
目標年度である令和5年度は、引き続き標準仕様の検討を行うとともに、消防本部での消防指令システムの実運用を想定した実証実験等を実施し、高度化に向けた検討を進めている。
ク 被害状況等の把握及び共有のための対策
発災時に迅速・的確な災害応急対策を講じるため、死者数等の人的被害、全壊棟数等の住家被害及び避難指示の発令状況等(12項目の被害情報)を地方公共団体等と効率的に共有するためのシステムを整備する(特集1-2図)。
特集1-2図 消防庁が収集する被害情報
本施策の目標として、令和5年度までに全都道府県について、12項目の被害情報全てを自動収集するためのシステムを整備し、その整備後は、安定的な運用に努めることとしている。
令和4年度は、令和5年度の稼働に向けて、本システムの整備及び関連システムの改修を実施した。
令和5年度は、4月に本システムの稼働を開始し、全都道府県との間で被害情報を自動収集できる体制を構築した。引き続き、本システムの安定的な運用に努めるとともに、訓練や実災害時に生じた運用上の課題を踏まえ、被害状況等の把握及び共有が迅速にできるよう、必要に応じて改善に取り組むことを予定している。また、内閣府(防災担当)が整備する予定の「次期総合防災情報システム」との情報連携に向けて、技術要件等を調整している(特集1-3図)。
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