令和6年版 消防白書

1.消防防災に関する研究

消防研究センターでは、土砂災害、南海トラフ地震等の大規模地震及び大津波といった大規模災害に備えるとともに、火災や危険物の事故の防止、消防活動時の安全確保のため、令和3年度から新しい中期研究計画を実施しており、以下に掲げる8つの課題について研究開発を行っている(第6-1表)。

(1)災害時の消防力・消防活動能力向上に係る研究開発

ア 自然災害時の現場対応型情報収集システムと情報分析・評価手法の開発

(ア)背景・目的
災害時の救助活動においては、速やかに被害の全容を把握するとともに、時間の経過により変化する状況を適切に評価して隊員の安全を確保することが必要であり、それに資する情報の収集及び分析は重要である。本研究では、土砂災害現場を主な対象として、詳細な地形データを用いた二次災害危険場所の抽出と評価方法の開発、新技術を用いた情報収集システムの開発及び人員・通信手段等に制約がある現場環境で運用できる情報分析・評価手法の研究を行う。
(イ)令和5年度の主な研究開発成果
レーザースキャナを搭載したドローンを用いた夜間でも地形を計測できる仕組み及び飛行中のドローンの画像から写真地図を作成する仕組みについて、実運用を想定した設定及び処理の簡略化と自動化を行った。
能登半島地震により発生した土砂災害の捜索救助活動現場において、利用可能な地形データを用いて安全性等に関する技術的助言を行った。第6-1図はそのうちの一つの現場の地形断面図である。崩れた土砂が斜面及び農地に堆積している中で行方不明の方の捜索が行われた。土砂の推定厚さ及び元地盤の状況から二次災害のリスクを評価しつつ、捜索活動の支援を行った。

第6-1表 消防研究センターにおける研究開発課題

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イ 自力避難困難者の避難に関する研究

(ア)背景・目的
地震、津波、水害等の災害が発生し、迅速な避難が必要となる場合、人口減少や高齢化の進展に伴い、自力避難困難者の安全を確保する重要性が高まっている。また、平成23年の東日本大震災では281人の消防団員及び消防職員が犠牲となったが、ここで得られた教訓を救助業務に当たる職員の被害防止に活かすことが重要である。
そこで本研究では、要配慮者や要支援者を含む自力避難困難者による避難開始時間や避難行動時間の予測高精度化を行うとともに、避難困難区域図の作成に必要な基礎資料の提供を行うことを目的としている。
(イ)令和5年度の主な研究開発成果
a 地域住民による津波避難訓練を計測することによって、屋内及び屋外の避難行動を一連として捉え直すことによる避難行動時間予測の高精度化に資する時間及び速度データを取得した。特に、近年計測した夜間訓練及び昼間訓練のデータについて、現在分析中である。
b 車椅子等の避難支援器具について、避難時間の短縮化及び救助者の高齢化を見据えた省力化の検討を行うため、地域における日常的な保管方法及び平面、傾斜、垂直(階段)の避難経路における活用の実態を把握した。また、既存製品ではなかった、津波避難と日常生活に併用できる、後退防止切替機能付き電動車椅子を開発中である。

第6-1図 行方不明者が最後に目撃された地点を含む地形断面図

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(2)市街地火災による被害を抑制するための研究開発

ア 超高齢・人口減少社会の火災発生予測と対策

(ア)背景・目的
今後想定される更なる高齢化と人口減少は、同時に空き家の増加や社会インフラの老朽化とダウンサイジング、日中ほぼ高齢者のみとなる地域や自力避難困難者の増加などの社会変化をもたらし、火災の発生や被害の様相も変化することが懸念される。そこで、火災の変化を予測するとともに、社会変化に適した初期火災対応技術の開発を行い、消防機関や地域住民が自ら考え、備えるのに役立つ情報と技術を提供することを目的としている。
(イ)令和5年度の主な研究開発成果
都道府県単位での火災の発生と被害の将来予測を目的として、過去の火災データを用いた機械学習により都道府県を4つのグループに分類し、予測モデルの検討を行った。また、年齢・時代・世代効果を分離するコウホート分析法を用いて分析した結果に基づき、複数のシナリオによる住宅火災死者数の将来推計を行った。その結果、住宅用火災警報器の更新が適切に行われるなど社会全体の住宅の安全レベルが変化しないと仮定した場合でも今後死者数は増加に転じ、令和22年頃には年間約1,200人に達し、その後減少する推計結果となった。昭和25年(1950年)から昭和40年(1965年)頃に生まれた世代は住宅火災による死亡リスクが他よりも高い傾向がみられ、この世代が住宅火災死亡率の高い年齢に達し、人口も多いことが推計結果に表れたと考えられる。
初期火災対応技術の開発実験に用いる消火実験装置の設計製作と発熱速度計測装置の整備を行った。

イ 消防力と消防水利の変化が延焼被害等に及ぼす影響の評価

(ア)背景・目的
消防本部が管轄内で発生する火災に十分に対応するためには、火災予防の推進によって火災の発生と拡大を抑制するとともに、地域の状況に合わせて十分な消防力と消防水利を確保しておくことが重要である。
本研究では、消防本部による消防力と消防水利の整備に資することができるよう、市街地火災の延焼阻止に必要な消防水利の評価手法を開発するとともに、消防力運用シミュレーションに基づく火災被害推定手法の開発を行う。
(イ)令和5年度の主な研究開発成果
消火に必要な水量を推定する手法を開発するため、放水量データを火災規模に応じて4種類に分類するとともにグラフ化して近似式を作成した。また、作成した近似式と令和4年度に作成した近似式の妥当性を検証した。
また、消防力の要素を考慮して地域の延焼リスクを計算することができるよう、消防力運用シミュレーションの開発を行った(第6-2図)。これにより、消防力を踏まえて各建物で火災が発生した際に生じる延焼被害を計算し、統計的に扱うことができるようになった。

第6-2図 開発した消防力運用シミュレーションの画面例

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さらに、既開発の市街地火災延焼シミュレーションソフトウェアの火災リスク計算機能について、延焼速度式を切り替えて計算を行う機能や燃え落ち時間の設定機能を追加して、機能を向上させた。
その他、消防本部等7機関に対してシミュレーションソフトウェアや延焼経路データを新たに提供したほか、2機関に対して更新データの提供を行った(令和6年3月現在、合計119機関へ提供済み)。
さらに、令和6年1月1日に発生した輪島市大規模火災について、火災現場での延焼の焼け止まり調査や消防本部に対するヒアリングを行った。調査結果等に基づいて火災の市街地火災延焼シミュレーションによる検証を行った結果、映像記録や消防職員の証言に近い延焼状況を再現することができた。また、消防活動が行われない放任火災だった場合についてシミュレーションを実施したところ、焼損範囲が実際の火災の2倍以上になった可能性があることが判った。

ウ 火災旋風の発生予測

(ア)背景・目的
市街地で同時多発火災が発生すると猛烈な風を伴う火災旋風が発生して被害を格段に大きくする可能性がある。一旦火災旋風が発生してしまうと被害を防ぐことは極めて難しい。しかし、同時多発火災発生時に消防力が不足して全火災を消せない場合でも、死傷者を出すほどの強風を伴う火災旋風が今後どの火災で発生する可能性があるかを特定できれば、その火災が小さいうちに優先的に消すことでこのような火災旋風の発生が防げる。本研究の目的は、火災の規模がどれくらい大きくなれば死傷者を出すほどの強風を伴う火災旋風が発生し、その強風域がどれくらいの範囲に及ぶかということを予測するモデルを開発することである。
(イ)令和5年度の主な研究開発成果
前年度までに開発した予測モデルの改良を行った。このモデルは、過去に発生事例の多い「火災域風下に発生する火炎を含まないタイプの火災旋風」について、実験室規模の限られた条件下において、火災旋風の最大風速、直径及び発生時の横風風速を予測可能なモデルである。予測には無風下での火炎上昇気流の最大速度や火炎高さなどの値が必要になるが、モデルの核となる渦のモデル部のみの精度を検証するために、これらの値は意図的に測定値を用いていた。これらの値を予測式に置き換えた。
モデルを実規模の火災旋風向けに拡張するためには、自然界で発生する実際の火災旋風の性質と発生時の状況を知る必要がある。そのため、野焼きの機会を利用して実規模火災旋風の観測を行っている。ドップラーライダー*1による観測結果と多方向から撮影した映像を用いて火炎を含まない火災旋風(第6-3図)の発生位置を特定し、この火災旋風の直径と水平面内の速度を明らかにした。

第6-3図 野焼き観測時に発生した火災旋風

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(3)火災原因調査と火災避難の高度化に関する研究開発

ア 火災原因調査の高度化に関する研究

(ア)背景・目的
火災を減らすためには、火災原因を明らかにし適切な予防対策を講じることが必要である。信頼性の高い原因判定には、現場残さ物の分析手法と同定手法、噴出した油類のミスト爆発の性状などの専門性の高い分野での現場で使える情報やデータを提示する必要がある。このため、現場残さ物の物質同定手法を開発することや引火性液体に着目し着火と爆発に関する現象を明らかにすることを目的とした研究を行っている。
(イ)令和5年度の主な研究開発成果
a 現場残さ物の同定に関する研究
加熱前後の綿とポリエステルを混紡した布についてフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)と熱分解ガスクロマトグラフィ(GC)による分析を行い、結果を比較した。FT-IRの分析では、布の表裏、すり潰して粉末状にした場合で分析結果が大きく異なることがわかり、表側と粉末の試料ではポリエステルと加熱された綿に特徴的なピークが得られた。FT-IRの結果は熱分解GCと相補的な結果であったため、分析手法を組み合わせることで材質を特定できる可能性を見出した。
電気溶融痕について生成時の周囲温度の違い、被覆の有無の条件で異なる試料を作成し、X線CT(X線を用いたコンピュータ断層撮像)分析した。ボイド(溶融痕中に生成した空洞部分)の大きさについて周囲温度の影響で明確な違いは見られなかったが、被覆がある状態で作成した溶融痕は被覆がない試料と比べ大型のボイドが生成していることがわかった。また、溶融痕の表面部分と内部ではX線の透過率に違いがある可能性が示唆された。
b 引火性液体の燃焼性状に関する研究
液体が物に衝突した際に静電気帯電が起こる。引火性液体の代わりに安全のため水道水を用い、帯電量測定のためのファラデーケージ内で、金属板に液体が衝突した際の帯電量の計測を開始した。流速をほぼ同じにし、ノズル径を1.2㎜と2㎜に変えて比較すると、径の大きい方が帯電が強く出ることが確認できた。
引火性液体のミスト爆発の観察を目的に、密閉容器内においてミストの生成と電気火花による着火が可能な実験装置を製作した。内容積8リットルの密閉容器において、底面から上方に向けてデカンのミストを放出し、容器中央付近の電気火花で着火したところ、火炎の外部噴出が観察できた。着火の様子を高速度カメラで撮影し、解析した(第6-4図)。

第6-4図 ミストの着火の様子

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イ 高層建築物の順次避難における避難順序算定方法

(ア)背景・目的
消防法に基づき、防火管理者は消防計画の提出と避難訓練の実施が義務付けられている。一般的に、設計時における火災安全のための避難計画では各階から流入する避難者による階段室内での合流と混雑は考慮されていない。火災時における避難時間の長期化、逃げ遅れ等を防ぐためには、階段室内の混雑緩和とリスクの高い階からの優先的避難を目的とした順次避難を行う必要がある。本研究は順次避難における具体的な避難方法を明らかにすることを目的としている。
(イ)令和5年度の主な研究開発成果
階段において異なる階の群集が合流する状況を把握する実験の方法について検討した。合流状況を変化させるための実験条件について詳細な組み合わせを検討するとともに、当該組み合わせにより想定される合流状況を実験時に再現するための手順を検討した。加えて、群集の流れを把握するために必要なデータ取得を可能とするため、実験を行う実際の階段における群集の降下状況の記録に用いるビデオカメラ等の観測機材を検討するとともに、これら観測機材を用いて上部より合流状況を記録するための設置方法を検討した。
以上の検討に基づき実際の高層建築物の階段を多数の被験者に降下させる群集実験を実施した。開口部と上階それぞれから階段踊り場に流入する群集の流入順序、先行して流入した群集の停止の有無といった実験条件の組み合わせにより合流状況を変化させ、この際の被験者群集の階段降下状況を上記観測機材を用いて記録した。

(4)消防職員の消火活動時における殉職・受傷事故を防止するための研究開発

ア 放水や建物構造を考慮した火災シミュレーション技術

(ア)背景・目的
建物の構造や用途の多様化による火災現象の複雑化に対応するための現場経験が消防隊員には必要だが、出火件数の減少とともに消火活動を経験する場面が少なくなってきている。
そこで、現場経験を補い消防隊員の消火活動時における状況認識能力と予測能力の向上を目的として、実験及びシミュレーションを通して消火活動を検証する技術を研究開発する。この検証技術により、どのような消火活動が最適であったかを消火条件を変えることにより消火活動後に確認することができる。
(イ)令和5年度の主な研究開発成果
a 受傷・殉職事故の実態調査と分析
都道府県庁所在地を管轄する47消防本部を対象に、昭和23年(1948年)3月7日から令和元年12月31日までの72年間に発生した火災出動に伴う消防隊員の受傷・殉職事故に関する統計調査を行い、情報が得られた殉職62件について傾向を把握した。その結果、消防職員の殉職事故は「夜間早朝、焼損率81~100%の住宅、建物の崩落、在職5年以下の20歳代」において発生する傾向が高い。また、50歳代は外的要因だけでなく、循環器系疾患、脳卒中などの内的要因にも注意が必要であることが明らかになった。
b 火災シミュレーションを用いた消火活動検証技術の研究開発
放水モデルを火災シミュレーションに実装することにより、建物の開口部開閉状況や火源条件等の計算条件を変更して消火活動が最適であったかを検証可能にする火災シミュレーション技術の開発を実施している。あわせて、消防隊員が受傷事故事例の火災シミュレーションを実施できるように、必要な手順や条件設定をまとめたマニュアルを作成している。
消防用ガンタイプノズルを用いたストレート放水実験に対応した放水シミュレーションを実施し、床面への散水量を表す散水密度分布を比較した。放水シミュレーションで用いる放水モデルの6つの設定値のうち、放水の方向を決める放水速度と散水範囲を決める噴霧角度の変化が、散水密度分布に与える影響が大きいことがわかった(第6-5図)。
c 消火実験による消火活動時の危険回避に資する技術
受傷事故事例を踏まえ、火災実験を通して受傷事故につながる火災拡大などの急激な火災の変化を捉えられるような計測技術の研究開発を実施している。あわせて、火災シミュレーションに実装する放水モデルを構築するための放水特性データ、火災シミュレーション結果の妥当性を確認するための火災データ、公設消防機関の教育訓練に利用可能な火災データを取得するための消火実験を実大規模で実施している。
公設消防機関で使用されている大手メーカー2社の消防用ガンタイプノズルを用いて放水実験を実施し、測定した散水分布を比較することを通して放水性状を定量的に調べた。

第6-5図 放水モデルの設定値(左上)・放水シミュレーションの様子(左下)・種々の噴霧角度の散水密度分布図(右)

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イ 火災状況に応じた消防隊の放水方法

(ア)背景・目的
消防活動の放水技能には教育訓練の内容や消火活動経験が影響すると考えられる。火災件数は全国的に減少傾向であり、このことは活動経験の減少につながるため、それを補う教育訓練の内容は重要なものとなる。消防職員に火災状況に応じた放水方法に関する情報及び放水による火災室の環境変化に関する情報を共有することは適切で安全な活動のために必要である。
そこで、本研究では火災状況に応じた適切な放水方法を明らかにするため、実験的な検証を行い整理し、それらを教育資料として役立てることを目的としている。
(イ)令和5年度の主な研究開発成果
火災状況について情報共有する取り組みとして、1リットルの牛乳パックを用いた簡易燃焼区画及び放水実験用実大燃焼区画(長さ約12m)での実験映像を消防大学校での教育資料として活用する試みを行った。異なる実験条件における燃焼と消火の状況の明確な違いは火災現象の理解に役立った。また、赤外線カメラ(熱画像直視装置)の火災時の見え方と活用に関して消防職員向け資料を試作した。
1リットルの牛乳パックと同じ大きさの簡易燃焼区画内で見いだされた、液体燃料のプール燃焼がカーテン状火炎に変化する現象について、燃料種類と燃焼面積を変化させてカーテン状火炎の発生条件について検討した(第6-6図)。

第6-6図 簡易燃焼区画内のカーテン状火炎

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(5)危険物施設における火災等事故・地震災害を抑止するための研究

ア 石油タンクの地震被害予測高精度化のための研究

(ア)背景・目的
危険物施設における地震災害を抑止する上で、石油類の貯蔵・取扱量が多く、危険性が他の施設よりも大きな大型石油タンクの地震時の被害予測を高い精度で行うことは重要である。石油タンクの地震被害を高精度に予測する上での課題には、入力地震動の予測精度向上と、石油タンクの地震動応答評価精度向上の2つがある。本研究では、入力地震動については、石油タンク上部からの油の流出やタンク火災につながるタンク内の液面揺動の原因となる周期数秒から十数秒の長周期地震動の予測の高精度化に向けて、石油タンクサイトに対する経験的長周期地震動予測式の改良に取り組んでいる。また、石油タンクの地震動応答評価については、タンク底部からの大量の油の流出につながる短周期地震動によるタンク底部の浮き上がり現象につき、浮き上がり量計算法の改良に取り組んでいる。
(イ)令和5年度の主な研究開発成果
石油タンクサイトに対する経験的長周期地震動予測式の改良版の考案のため、令和5年度は、令和3年度までに収集・整理した岩盤上で観測された長周期成分を含んでいる地震動の観測記録を用いて、震源における長周期地震動の励起の強さと震源深さの関係の分析を行った。タンク浮き上がり量計算法の改良については、令和5年度は、タンクが浮き上がっている状態のときとそうではないときでの計算プロセスの見直しによる計算精度向上の効果の検討を行ったほか、タンクの浮き上がりに抵抗する内容液の質量の評価のしかたが浮き上がり量の計算結果に及ぼす影響の検討を行った。

イ 化学物質等の製造・貯蔵工程における火災危険性の評価方法の研究

(ア)背景・目的
現代社会において、科学技術の発達及び社会環境の変化に伴って、膨大な種類の火災危険性を有する化学物質等が製造・使用されている。さらに、化学物質等の火災危険性は取扱い方法によって異なる。化学物質等を取り扱う施設等が、一旦、火災となると多大な人的被害、経済的損失及び環境破壊をもたらすことから、化学物質等の火災予防が特に重要である。
本研究では、化学物質等の製造・貯蔵中における火災危険性に焦点を当て、取扱い方法に即した火災危険性を評価するための方法を提言することを目的としている。本研究成果は火災に対する予防・被害軽減対策に役立てることができる。また、火災原因調査においても化学物質等が火災となる温度条件等を検討することにより火災原因を特定する手法として有効である。
(イ)令和5年度の主な研究開発成果
火災予防対策及び火災原因調査技術の向上を目的として研究を実施した。製造・貯蔵中に反応暴走を起こす化学物質等について、熱量計を用いて得られた発熱挙動及び成分分析を基に発熱反応の進行を推定する方法を開発した。また、貯蔵中に自然発火を起こす化学物質について、熱量計等を用いて酸化発熱を測定することによって火災危険性を評価する方法を開発した。

(6)地下タンクの健全性診断に係る研究開発

ア 背景・目的

ガソリンスタンド等で用いられている鋼製一重殻地下タンクで老朽化の進んだものに対しては、腐食防止のため、内面にガラス繊維強化プラスチックを施工する(ライニング)事例が増加しているが、ライニングは長期間使用により防食性を損なうおそれがあることから、その経年劣化の状況(健全性)を点検により確認することが危険物流出事故防止のために重要である。しかし、現状のライニングの点検方法は主に目視等における定性的なものであり、健全性を詳細に把握することができない。こうしたことから、長期間使用された鋼製一重殻地下タンクの内面ライニング鋼板の健全性の定量的診断手法の確立を目指して、ライニングと鋼板の劣化・腐食状態に関する各種非破壊計測により得た測定値と防食性の観点から見た劣化・腐食状態との関係を明らかにする研究開発に取り組んでいる。

イ 令和5年度の主な研究開発成果

これまでの研究で、長期間にわたって石油燃料を貯蔵したタンクのライニングでは、ライニング樹脂の深層部に油の成分が入り込んで樹脂が膨張する現象(膨潤)が生じていること、及びライニングの膨潤の度合いは、ライニング内部を伝わる超音波の速さ(音速)と相関があることが見いだされている。令和5年度は、ライニングの防食性能の劣化の程度を、鋼製一重殻地下タンクから入手したライニング鋼板サンプルに対する付着性試験(ライニングの表面に固定した治具を強制的に引き剥がした際の破断状況等から防食性能を評価する方法)により評価した。その結果、ライニングの膨潤が進行したものほど、付着性が劣化していることがわかった。以上のことから、膨潤により高分子の網目が開いたものほど、水や腐食性イオンがライニング内部に入り込みやすくなるため、塗膜下の鋼板腐食が生じやすくなるものと考えられる。いくつかのサンプルについて、付着性良否と音速値の関係を整理した結果、音速の計測により膨潤度を調べることにより、非破壊検査で比較的簡易にライニングの健全性診断が行える可能性を示した。

(7)消火活動困難な火災に対応するための消火手法の研究開発

ア 背景・目的

大規模倉庫等の施設で火災が発生した場合、現行の消防用設備等を用い適切に消火又は延焼阻止できるように消防訓練等が行われているが、倉庫等の特徴である高い火災荷重(単位面積当たりの可燃物の重量)や各物品の可燃性の違い等が要因で初期消火に失敗した場合、急速な延焼拡大により大量の濃煙熱気が発生する。また、倉庫の構造上、外壁開口部が少ないため、外部からの消火活動及び消防隊が内部進入できない等により消火活動は極めて困難となる。
本研究は、近年多発している消火活動困難性が極めて高い倉庫火災等に対し、安全で有効な消火手法及び消火戦術の検討を行うことを目的としている。

イ 令和5年度の主な研究開発成果

倉庫等の区画内部には多くの障害物があり、また開口部が極めて少ないことから、障害物の影響を受けないガス系消火手法は極めて有効と考えらえる。しかしながら、大規模倉庫にある防火区画(約10,000㎥)を消火するには、区画内の酸素濃度を14%程度にする必要があり、大量のガス系消火剤(例えば窒素であれば7㎥ボンベで約570本、また液体窒素であれば約7,000リットル)が必要となる。そのため、短時間での調達や投入方法が課題となる。また二酸化炭素の場合は、窒素同様、調達の課題に加え安全面も考慮する必要がある。そこで直ぐに調達可能で、安全な水を「水蒸気ガス」として用いた場合の消火手法に着目し、その燃焼抑制効果及び実現可能性をカップバーナー法*2により液体燃料(n-ヘプタン)を用い検討を行った。水蒸気の凝縮を無くすため混合気(空気+水蒸気)温度を80±5℃に設定し、水蒸気を徐々に増加させ消炎するまで計測を行った。
その結果、混合気温度80±5℃における各消炎濃度は、窒素で36.7%、二酸化酸素で23.9%、水蒸気で27.9%であった。すなわち水蒸気は、二酸化炭素に次いで窒素よりも消火性能が高く、ガス系消火剤として十分使用できることがわかった。つまり、水蒸気消炎濃度27.9%となる飽和水蒸気温度が約67℃であるため、それ以上の火災区画内温度であれば、水蒸気消火手法を活用できる可能性がある。

(8)救急搬送における感染症対応に関する研究開発

ア 背景・目的

救急隊員は、基本的に全ての傷病者に対して感染防止策を講じているが、常に感染リスクにさらされている。また、救急出場件数に関しては感染症拡大期や今後の高齢化に伴い増加する可能性があり、救急業務の効率化が求められる。
そこで、救急隊員の感染リスクをより下げるために救急隊員が暴露されるウイルス量を低減する気流制御方法の研究及び変化する救急需要に応じて望ましい位置に救急隊の待機場所を変更することにより平均現場到着所要時間を短縮する手法の研究を行う。

イ 令和5年度の主な研究開発成果

救急隊員が暴露されるウイルス量を低減する研究では、気流制御装置の救急車内での除去性能を測定するために、救急車用に特化した仰向きのマネキンの口元から気流の流れを見る煙を発生する実験装置の開発を行った。
平均現場到着所要時間を短縮する手法では、数日先の天気予報(日最高気温、日最低気温、天気)、若しくは数か月先の該当日における日最高気温、日最低気温の過去20年間の平均気温からAIを活用して1㎞メッシュ毎の救急需要予測を行い、この結果に応じて救急隊を望ましい位置へ待機場所を変更する実証実験を行った(第6-7図)。この結果、平均現場到着所要時間は0.15~0.19分短縮するとともに、特に20分以上であった事案が1.93~2.40分と大きく短縮することを確認した。

第6-7図 移動先の消防署に待機中の他の消防署の救急車(実証実験中)

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*1 ドップラーライダー:レーザー光を大気中に発射し、大気中の微粒子などからの散乱光を受光・解析することで風向・風速や大気の成分などを測定する装置。
*2 総務省告示第558号(製造所等のハロゲン化物消火設備の技術上の基準の細目を定める告示)別表第2 図2

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