2.地震の検証と今後の対応
(1)政府における検証
政府においては、関係省庁が連携して初動対応に当たるとともに、救命救助や捜索、インフラやライフラインの復旧、被災者支援等に政府一体となって取り組んだ。
これらの経験を今後の災害対応に活かしていくため、政府は内閣官房副長官補(内政担当)を座長とする「令和6年能登半島地震に係る検証チーム」(以下、本特集において「検証チーム」という。)を開催し、令和6年6月、「令和6年能登半島地震に係る災害応急対応の自主点検レポート」をとりまとめた。
さらに、検証チームの点検結果も踏まえ、災害時における応急対策・生活支援策の強化を検討するため、令和6年6月に、中央防災会議防災対策実行会議の下に、「令和6年能登半島地震を踏まえた災害対応検討ワーキンググループ」が設置され、検討のとりまとめが行われている。
(2)本地震の教訓を踏まえた今後の消防防災分野における推進事項
消防庁においては、「輪島市大規模火災を踏まえた消防防災対策のあり方に関する検討会」(以下、本特集において「検討会」という。)を開催し、輪島市大規模火災における原因調査の結果等を踏まえ、消防活動計画等の策定、車両・資機材等の整備など消防本部において事前に取るべき方策や、応援部隊の体制強化、感震ブレーカー等の普及に向けた取組などの地震火災対策等についてとりまとめを行った。
また、緊急消防援助隊の一連の活動等を検証し、今後の緊急消防援助隊の円滑かつ効果的な運用を議論するため、消防庁、被災都道府県及び出動隊等で構成された「令和6年度緊急消防援助隊運用調整会議令和6年能登半島地震における緊急消防援助隊の活動に関する検証会」(以下、本特集において「検証会」という。)を開催した。
これらを踏まえて、消防庁においては、令和6年7月に「令和6年能登半島地震の教訓を踏まえた今後の消防防災分野における推進事項について」(令和6年7月12日付け通知)を発出し、各地方公共団体における消防防災力の強化に向けた推進事項を周知した。
政府における検証や、検討会、検証会等による検証により得られた課題と消防庁における今後の対応策は以下のとおりである。
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検討会の様子
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検討会後のブリーフィングの様子
ア 輪島市大規模火災を踏まえた火災予防、消防活動等の消防防災対策の強化
(ア) 検証から得られた課題
地震に伴い、石川県輪島市朝市通り周辺では大規模な市街地火災が発生した。
管轄する奥能登広域圏事務組合消防本部では、半島という地理的制約がある中、道路損壊や土砂崩落等により陸路での地元外からの早期応援が困難な状況下で、消防車両の横転や消防団拠点施設(詰所)の倒壊・損壊により消防車両の出動や資機材等の搬出が行えず、迅速な初動対応が困難であったことや、水道管の破断により多くの消火栓が使用不能となるなど、限られた消防力での消火活動を余儀なくされた。
また、住民が避難することによる火災の発見・通報、初期消火の遅れなど、大規模地震時の火災予防の課題や津波警報下での津波浸水想定区域における消防活動の課題、都市構造の不燃化や密集市街地の整備改善、建築物等の耐震化の促進などのまちづくりの課題が確認された。
(イ)今後の対応策
地元消防本部等の体制強化として、震災時の木造密集地域での活動及び津波時の浸水想定区域での活動について勘案した計画の策定、津波の状況に応じた活動のための効果的な情報収集体制の構築、消防団の充実など地域防災力の強化等の取組を推進していく必要がある。今後、消防庁は、各消防本部において策定すべき津波時の浸水想定区域での活動について勘案した計画の策定等について、全国の消防本部の事例を踏まえつつ、計画に盛り込むべき事項等を計画例として示す予定である。
また、火災の早期覚知、情報収集のためのドローンや高所監視カメラの整備促進、耐震性貯水槽の設置促進、消火活動の省力化、無人化のための無人走行放水ロボットや水幕ノズルの整備、消防署・消防団拠点施設(詰所)の耐震化等の取組を推進していく。
さらに、地震対策の推進として、地震における火災予防の推進(家具転倒防止対策、耐震自動消火装置付き火気設備、住宅用火災警報器、防災訓練等)や、大規模地震時の電気火災対策(感震ブレーカー等の普及推進)等の取組が必要であり、今後、消防庁は、感震ブレーカー等の普及に向けて、各地域における取組を促進するため、感震ブレーカー等について実態把握を行った上で、モデル計画を策定し、別途通知する予定である。
イ 緊急消防援助隊の迅速な進出と効果的な活動に向けた体制強化
(ア)検証から得られた課題
緊急消防援助隊については、これまでも実災害や訓練等の積み重ねにより、迅速な出動が可能となるよう取り組んできたところであり、本地震では石川県内に速やかに進出することができた。一方で、発災当初、道路損壊や土砂崩落等により、大型車両による被災地への進出には困難が伴ったことから、道路損壊等が発生した場合における陸路での迅速な進出について検討が必要である。
また、道路損壊等が発生した本地震においては、自衛隊や海上保安庁と連携した輸送機や船舶等での進出が有効であった。このため、空路や海路による進出を念頭にした部隊のあり方の検討や関係機関との一層の連携強化の取組が必要である。
さらに、ヘリコプターを必要とする事案の集約及び調整の円滑化に向けた航空運用調整の一層の強化や、積雪寒冷地等であったことにより活動及び宿営において過酷な状況であったことを踏まえた緊急消防援助隊の隊員の活動環境の整備及び処遇の改善の課題が確認された。
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進出時の道路状況
(イ)今後の対応策
消防庁としては、道路損壊や土砂崩落等により進出が困難となった場合の対策として、悪条件下での進出・活動を可能にするための、車両の小型化、資機材の軽量化や関係機関との連携による空路・海路での応援部隊及び車両・資機材の投入などの対策や航空運用調整の強化、緊急消防援助隊の活動環境の整備を進めていく(詳細は特集3を参照)。
ウ 災害時の通信体制の強化
(ア)検証から得られた課題
本地震において、防災行政無線等の屋外スピーカーの損壊や停電による電源喪失の発生、消防指令センターと各消防署所間の通信ネットワークの断絶等が発生した。
また、災害現場における通信状況が悪く、関係機関への情報伝達や様々な被災現場で活動する複数の活動部隊等の間における情報共有、被災地の映像情報の安定した共有が行えない等の制約が発生した。
さらに、消防庁から携帯電話事業者に対して被災者等の位置情報提供要請を実施する必要が生じた。
(イ)今後の対応策
a 住民への災害情報伝達手段の多重化
消防庁としては、防災行政無線等の設備の耐震化、非常用電源の強化等を含めた災害情報伝達手段の多重化を推進していく。多重化に当たっては、障害者・外国人等に対しても、確実に情報を伝達できるように留意して取組を進めていく。
b 消防防災分野の通信基盤の強化
消防庁としては、災害時においても平常時と同様の部隊運用を継続できるようにすべく、消防指令センターと消防署所間における、消防指令システム、消防救急デジタル無線等の通信手段の多様化や電源設備のバックアップ態勢の強化等のあり方を検討していく。
また、地域衛星通信ネットワーク等の耐災害性に優れている非常用通信手段の確保及びその確実な運用に加え、消防防災無線、衛星携帯電話等の通信手段の多重化等を推進していく。あわせて、被災地の被害状況を映像等にて情報共有を確実に行うべく、高所監視カメラ、消防庁映像共有システム等の導入・活用を推進していく。
c 要救助者の携帯電話位置情報の積極的な活用
消防庁としては、救助機関(都道府県災害対策本部及び市町村災害対策本部を含む。)において、救助の目的のため、携帯電話事業者に対する要救助者の位置情報提供要請を積極的に活用するよう推進していく。
エ 大規模災害等に備えた消防団の更なる充実強化
(ア)検証から得られた課題
本地震では、道路損壊や土砂崩落等により陸路での地元外からの早期応援が困難な状況の中、地域に密着した消防団は地域防災力の要として非常に大きな役割を果たしたところであり、地域住民同士の助け合いの中核を担う消防団の役割の重要性が再認識された。
一方で、地震や津波により、消防団拠点施設(詰所)が倒壊・損壊し、消防団車両の出動や資機材等の搬出が行えず、迅速な初動対応が困難となった事例や、消防団車両が消防団拠点施設(詰所)のシャッターに衝突し、出動まで時間を要した事例のほか、道路損壊や土砂崩落等により、通常の消防車両の通行が困難となり、救助が必要な災害現場への迅速な進出が行えなかった事例などが確認されたことを踏まえ、消防団の災害対応能力を一層強化するための積極的な取組が必要である。
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倒壊した輪島市門前分団詰所の様子
(輪島市消防団門前分団員提供)
(イ)今後の対応策
消防庁としては、大規模災害等に備えるため、消防団拠点施設(詰所)の耐震強化、狭小・狭隘な道路や悪路でも通行可能な機動性が高い小型車両等の整備推進、女性や経験が浅い消防団員も含め、全ての消防団員が比較的容易に取り扱える小型化・軽量化された救助用資機材等の整備推進、デジタル技術の活用促進等、災害対応能力の強化に取り組んでいく。
さらに、ドローンを含めた救助用資機材等の訓練や消防団活動に必要な準中型免許等の資格の取得など実践的な教育訓練体制や多様な主体との連携促進等の活動体制の充実強化を図るとともに、消防団の更なる充実強化に向け、処遇の改善ややりがいを持って活動できる環境づくり等にも取り組んでいく。