7.原子力災害対策

平成23年(2011年)3月11日に発生した東日本大震災により、東京電力福島第一原子力発電所において長時間にわたり電源が使えなくなり、炉心溶融や水素爆発が起きて大量の放射性物質が外へ漏れ出すという事故が発生しました。
今回の震災における原子力災害対策は、緊急時の拠点となるオフサイトセンターも被災するなど、きわめて困難な状況のなかで行われています。

原子力災害の発生に際し、被ばくによる健康被害から一般公衆を防護する効果が最も高い対策が「避難」です。

平成24年4月現在では、予測される年間被ばく量などをもとに、以下のように避難指示区域が設定されています。
まず、避難指示区域のうち、年間積算線量が20ミリシーベルト以下となることが確実であることが確認された区域が、避難指示解除準備区域です。
次に、避難指示区域のうち、年間積算線量が20ミリシーベルトを超えるおそれがあり、住民の被ばく線量を低減する観点から引き続き避難を継続することを求める区域が、居住制限区域です。
そして、避難指示区域のうち、5年間を経過してもなお、年間積算線量が20ミリシーベルトを下回らないおそれがあり、現時点で年間積算線量が50ミリシーベルトを超える区域を帰宅困難区域としています。
避難指示解除準備区域、居住制限区域では、住民の立ち入りは自由ですが、原則として宿泊できません。一方、帰宅困難区域では、立ち入り自体が制限されます。
放射性ヨウ素(ヨウ素131)の放出が相当な量に達した場合、呼吸などで甲状腺にとりこまれ、内部被ばくする可能性があります。対策として、安定ヨウ素剤の予防服用があります。
今回は、市町村の判断で安定ヨウ素剤の配布が行われたほか、原子力災害対策現地本部が3 月16 日に、半径20キロメートル圏内の避難区域から避難する人に安定ヨウ素剤を飲んでもらうように、福島県知事および対象となる市町村に指示を出しました。

安定ヨウ素剤は、飲む量が多すぎると重大な副作用を招くおそれがあります。このため、原子力災害対策現地本部から県知事及び関係市町村長宛に、本部の指示を受けて医療関係者の立ち会いのもとで服用し、個人の判断で服用しないようにという指示が出されました。

飲食物から放射性物質を体内にとりこまないように、消費者に対しては摂取制限、生産者に対しては作付け制限や出荷の制限が行われます。

飲食物に含まれる放射性物質に関しては、原子力安全委員会が指標となる値を策定し、厚生労働省が取り決めを行います。
事故から6日目の3月17日、厚生労働省は原子力安全委員会によって示された指標値を暫定規制値とし、これを上回る食品については販売等をしてはならないと各自治体に通知しました。

この暫定規制値は、特に子どもの健康に留意するために見直しが行われ、厚生労働省は12月に新たな基準を決定しました。

また、3月21日以降、野菜類や茶、魚介類、肉牛など、さまざまな食品が出荷制限や摂取制限の対象となりました。
これらの制限は、数値が低下した場合に、順次解除されています。

原子力事故における立入制限は、以下のような目的で行われます。
・災害地域に入る必要がない人の無用の被ばくを防止すること
・住民避難の際に移動の障害にならないようにすること
・防災業務関係者の活動、防災用資機材の搬送などの障害とならないようにすること

今回の事故では、4月22日午前0時に、経済産業省が福島第一原発の半径20キロメートル圏内を警戒区域に設定しました。
警戒区域は事実上の立入禁止区域です。
消防隊、警察、自衛隊といった、緊急事態応急対策に従事する人でなければ、市町村長の許可なく立入りを行うことは禁止されます。
違反すると、10万円以下の罰金又は拘留が科せられます。
ただし緊急に避難した被災者の方たちなどに対しては、必要な物資や貴重品の持ち出しを行うため、5月10日より一部の危険な区域をのぞき、一時立入りが認められました。

立入制限は今後も見直しが行われる予定です。

原子力施設には、電力会社によって空気中の放射線を24時間連続で監視するモニタリングポストが設置されており、毎日10分ごとに、各地点の放射線量が公表されています。
しかしながら、今回の事故直後には、電源喪失によりモニタリングポストでの計測ができなくなったため、モニタリングカーでモニタリングを継続しました。外部電源復旧後は、モニタリングポストおよびモニタリングカーのデータに加え、敷地内の土壌、海水および海底土を採取して放射性物質や放射能濃度を測定し、結果が公表されています。

緊急被ばく医療体制は、外来や通院で治療を行う初期被ばく医療、入院診療を行う2次被ばく医療、より専門的な入院診療を行う3次被ばく医療の3段階となっています。

緊急被ばく医療が必要かどうかは、体の表面に測定器を近づけ、1分間に計測される放射線の数で判断します。
全身の除染が必要な被ばく量は10万cpm(カウント・パー・ミニット)以上です。

福島県によると、6月10日までに199,672人に対してスクリーニングを実施、そのうち10万cpm以上の値を示したのは102人でした。ただし、脱衣後に計測すると10万cpm以下となり、健康に影響を及ぼす事例はみられませんでした。
また、0~15歳までの子どもに対し、甲状腺の検査を実施しましたが、いずれも問題となるレベルではありませんでした。

福島県では、子どもたちの健康を長期的に見守るため、平成23年3月11日時点で0~18歳までの福島県民を対象に、平成23年10月から甲状腺検査が開始されました。
他にも、高い放射線量が検出された地域を中心に、内部被ばくの検査が行われています。
内部被ばくは、人間の体内に摂取されて沈着した放射性物質の量を、体外から測定するホールボディカウンター(WBC)という装置で検査するほか、尿検査や母乳などでも簡便に検査することができます。

3次被ばく医療とは、放射線医学総合研究所と広島大学といった高度の専門医療を行うことができる機関が指定され、重症被ばく患者の高度先進医療を行うことになります。
今回の原発事故では、3次被ばくの例はありません。

放射線にかかわる健康面については、文部科学省に健康相談ホットライン、放医研に放射線被ばくの健康相談窓口が設けられており、一般市民からの相談に応じています。