平成21年版 消防白書

[危険物行政の課題]

(1)官民一体となった事故防止対策の推進

危険物施設の火災・流出事故は、平成6年(1994年)頃を境に増加傾向に転じ、平成20年には平成6年の約2倍となる件数にまで増加している。このような状況を踏まえ、関係業界や消防機関等により構成される「危険物等事故防止対策情報連絡会」において策定された「危険物事故防止アクションプラン」(消防庁ホームページ参照 URL:http://www.fdma.go.jp/html/data/tuchi2103/pdf/210330-ki46.pdf)に基づいて、事故に係る調査分析や事故防止技術の調査研究、各種情報の共有化を進めるとともに、各都道府県における事故防止の取組など、官民一体となって事故防止対策を推進していく必要がある。
また、産業災害の背景要因として、人員や設備投資等の削減、雇用形態の変化や保守管理業務のアウトソーシング等が指摘されていることから、幅広い視点からの実態の把握による対策を講じ、各事業所の実態に応じた安全確保を図るため、危険要因を把握して、これに応じた対策を講ずることが必要である。

(2)腐食等劣化への対策

近年の流出事故増加については、危険物施設の老朽化等に伴う腐食等劣化が大きな要因となっている。このような流出事故を未然に防止するため、地下タンクの流出危険性に応じ、腐食防止・抑制対策を講ずる必要がある(P.66囲み記事「ガソリンスタンドの危険物流出事故防止対策」参照)。

(3)科学技術及び産業経済の進展等を踏まえた安全対策の推進

近年、科学技術及び産業経済の進展に伴い、危険物や指定可燃物と同様の性状を有していながらその潜在的危険性が認識されていない新規危険性物質の出現、危険物の流通形態の変容、危険物施設の大規模化、多様化、複雑化、地球温暖化対策への対応など、危険物行政を取り巻く環境は大きく変ぼうしている。
こうした状況に的確に対応するため、新規危険性物質についての早期把握や必要に応じた危険物規制に関する技術基準の見直しを引き続き図るとともに、二酸化炭素削減のため、今後普及が見込まれるバイオマス燃料を取り扱う施設等について、幅広い視点から実態を把握し、それに応じた安全確保を図るための方策を検討していく必要がある。

(4)屋外タンク貯蔵所の安全対策

固定屋根式屋外貯蔵タンクのなかには、貯蔵物の蒸発を抑えるとともに、品質保持、環境対策等のために、内部に浮き蓋を有するもの(以下「内部浮き蓋付き屋外貯蔵タンク」という。)がある。
近年、この内部浮き蓋付き屋外貯蔵タンクにおいて、内部の浮き蓋の損傷、傾斜、沈没等の事例が相次いで報告されている。内部浮き蓋付き屋外貯蔵タンクは、引火点の低い危険物を貯蔵することが多く、内部の浮き蓋に上記のような事故が発生すると、貯蔵物の液面が露出し、液面の蒸発を抑える機能が損なわれることとなる。その場合、タンク内部の浮き蓋上の空間に可燃性蒸気が滞留し、その構造上の特徴から爆発範囲内の濃度になる空間が発生するおそれが指摘されている。
このような事態が生じると爆発・火災の危険が生じるが、現行の消防法令では、内部の浮き蓋の技術基準が定められていない。こうしたことから、「内部浮き蓋付き屋外貯蔵タンクの安全対策に関する調査検討会」において、内部の浮き蓋の耐震性・安全性を向上させるために、調査検討を行っている。

ガソリンスタンドの危険物流出事故防止対策

○ガソリンスタンドの地下タンクの状況

ガソリンスタンドの地下には、ガソリンや軽油、灯油などの危険物が貯蔵されたタンクが設置されています。小さいもので容量10kl(キロリットル)、大きいものでは30klのものがあります。
これらの地下タンクの中には、埋設されて20年以上経過した金属製のものも多く、塗覆装(地下タンクの外面を保護しているアスファルトなどの被覆)などの状態によっては腐食劣化が進行しているものが見られます。また、地下タンクの腐食劣化状況は地上からは判断できないことから、腐食劣化してできた穴から危険物が流出した場合に、土壌汚染や河川等にまで流出するなどの被害拡大が懸念されています。
近年、地下タンクを含め危険物施設からの危険物の流出事故件数は増加傾向にあり、特に腐食劣化によるものは、これらの事故の中で最も多く約4割を占めています。

○地下タンクの危険物流出事故防止対策

平成20年度、消防庁では、地下タンクの設置年数、塗覆装、板厚から地下タンクの腐食状況を評価する手法と評価結果に応じた流出事故防止対策について調査検討を行いました。その結果、上記の手法により、特に腐食のおそれが高いと評価された地下タンクは、流出事故防止対策として、次に説明する内面ライニング又は電気防食を講ずる必要があるとの結論に至りました。
内面ライニングとは、流出事故を未然に防止するための対策として、近年実用化されたものです。この技術は、埋設されたままの状況で内面全体に強化プラスチックを2mm以上の厚さとなるよう被覆するものです(写真参照)。内面ライニングを実施することで、地下タンクの内部に滞留した水分による内面からのタンクの腐食を防止するとともに、外面からの腐食により金属部分に穴が開いたとしても危険物が地下タンクから外部に流出するのを防止することができます。

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