平成21年版 消防白書

4 常備消防体制整備の課題

(1)消防の広域化の推進

ア 広域化の必要性

消防庁では、平成6年(1994年)以降、市町村の消防の広域化を積極的に推進してきたが、平成17年4月1日現在で管轄人口10万未満の小規模消防本部がいまだ全体の6割を占める状況にあった(第2-1-7図)。

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一方、災害の大規模化、住民ニーズの多様化等、近年消防を取り巻く環境は急速に変化しており、消防はこの変化に的確に対応しなければならないものの、小規模な消防本部においては、一般的に、出動体制、保有する車両等の住民サービス面や組織管理面での限界が指摘されていた。また、日本の総人口は、平成17年に戦後初めて減少に転じており、今後も将来人口は減少すると予想されている。これにより一般的に各消防本部の管轄人口も減少すると考えられ、さらに、消防団員の担い手不足の問題も懸念されていた。このような現状から、市町村の消防の体制の整備・確立を図るためには、市町村の消防の広域化をより積極的に推進することが不可避であった。

イ 市町村の消防の広域化に関する法律の整備(消防組織法の一部を改正する法律)

消防庁では、広域化のメリットを踏まえ、市町村の消防の広域化の推進策について議論してきたが、「今後の消防体制のあり方について(中間報告)~消防の広域化を中心として~」(平成18年1月 今後の消防体制のあり方に関する調査検討会)及び「市町村の消防の広域化の推進に関する答申」(平成18年2月1日 消防審議会)を踏まえて、第164回国会(平成18年通常国会)に「消防組織法の一部を改正する法律案」(閣法第87号)を提出した。同法案については、平成18年6月6日に国会で可決、成立し、同月14日に公布され、同日から施行された(平成18年法律第64号)。
また、改正後の消防組織法第32条第1項に基づき、同年7月12日に市町村の消防の広域化に関する基本指針を定めた(平成18年消防庁告示第33号)。この中で、広域化を推進する期間について、平成19年度中には都道府県において推進計画を定め、平成24年度までを目途に広域化を実現することとしている(第2-1-6図、第2-1-7図、第2-1-8図、第2-1-9図)。

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ウ 消防庁の取組

消防庁では、基本指針の策定と合わせ、広域化の推進方策の検討及び実施並びに都道府県及び市町村における広域化の取組を支援するために、消防庁長官を本部長とする消防広域化推進本部を設置し、全庁を挙げて広域化を推進しているところである。具体的には、消防広域化推進アドバイザー*3の派遣や、セミナーの開催等を行っている。

*3 消防広域化推進アドバイザー:既に広域化を実現した消防本部の幹部など、広域化の推進に必要な知識・経験を持つ人の中から選ばれ、消防庁が選定し登録する。都道府県等の要望に応じて派遣され、助言などの支援活動を行う。

また、市町村の消防の広域化に伴って必要となる経費に対して、その運営に支障の生じることがないよう、必要な財政措置を講じている。
そのうち、消防署所等の整備については、平成18年に改正された消防組織法の規定に基づく市町村の消防の広域化に限り、広域化対象市町村が、消防の広域化に伴って、消防力の整備指針(平成12年消防庁告示第1号)により行わなければならない広域消防運営計画に定められた消防署所等(消防署、出張所、分遣所、駐在所、派出所、指令センター等)の整備(土地の取得経費は含まない。)については、事業費の90%に一般単独事業債を充当し、元利償還金の30%に相当する額を、後年度、普通交付税の基準財政需要額に算入することとしている。
なお、消防通信・指令施設(消防救急デジタル無線で原則都道府県域を1ブロックとして整備するもの及び高機能消防指令センターで複数の消防本部が共同で整備するもの又は市町村の消防の広域化に伴い整備するものに限る。)については、特に推進すべき事業として、事業費の90%に防災対策事業債を充当し、元利償還金の50%に相当する額を、同じく基準財政需要額に算入することとしている。

エ 各都道府県の推進計画の概要

都道府県は、当該都道府県の区域内において自主的な市町村の消防の広域化を推進する必要があると認める場合には、その市町村を対象として、自主的な市町村の消防の広域化の推進及び広域化後の消防の円滑な運営の確保に関して、推進計画を定めるものとされている。
推進計画では、自主的な消防の広域化を推進する必要があると認める市町村の組合せを定めるものとされ、基本指針ではこの組合せの基準について、消防本部の規模が大きいほど望ましく、消防力、組織体制、財政規模等を考慮し、おおむね30万以上の規模を目標とすることが適当であるとしている。
平成21年10月末現在、42の都道府県で推進計画が策定されており、未策定の一部の県においても引き続き検討が行われている。

オ 広域化対象市町村の取組

推進計画に定められた広域化対象市町村は、市町村の消防の広域化を行おうとするときは、協議により、広域化後の消防の円滑な運営を確保するための広域消防運営計画を作成することとされている。
基本指針に基づき都道府県が推進計画を作成し、広域化の対象となった市町村間で広域消防運営計画を策定し広域化した例として、平成21年4月現在、富良野広域連合消防本部、東広島市消防局及び久留米広域消防本部の3件がある。

カ 広域化の実現に向けて

今後、各都道府県が策定した推進計画に基づき、広域化対象市町村間で広域化に向けて、広域消防運営計画の策定が本格化し、順次消防の広域化が実現していくこととなる。
なお、消防救急無線のデジタル化に関しては、消防の広域化及び指令業務の共同運用等の検討と歩調を合わせつつ、アナログ消防救急無線の周波数使用期限である平成28年5月までの間で、既存設備の更新時期等を踏まえた最適な時期に実施することとされている。
消防庁では、広域化対象市町村において広域化の実現に向けた積極的な取組が行われ、消防力の強化が図られるよう、引き続き消防の広域化を支援していくこととしている。

消防の広域化の進捗状況

市町村の消防の広域化は、消防の体制の整備及び確立を図ることを旨として、着実に取組が進められています。各都道府県においては関係者と議論を行い、将来の消防の見通しや広域化の対象と考える市町村を定めた消防広域化推進計画を策定しています。そして、この推進計画に定められた広域化対象市町村では、消防の広域化を目指して様々な取組を行っています。
広域化対象市町村では、広域化後の消防の運営を円滑に行うために「広域消防運営計画」を作成することとなります。そのため広域化対象市町村で構成するブロック内に協議会等を立ち上げ、計画の作成に向けた検討を行うこととなります。
現在、そうした検討を行うため、広域化に向けた協議会・協議組織が設立されているブロック、協議会設置のための準備組織が設立されているブロック、又は、勉強会が組織されているブロックなど全国で広域化への取組が本格化しています。
広域化に向けて協議会・協議組織が設立されている先進的な取組を行っているブロックとして、栃木県、奈良県、長野県があります。栃木県では推進計画で県全体を1つの消防本部とすることとしており、平成21年5月に市長・町長を委員とした「栃木県消防広域化協議会」を立ち上げました。協議会には各消防長や各市町の消防防災主管課長等で構成する幹事会やその下部組織として専門部会、分科会が設けられています。そして栃木県から1名、各消防本部から1名ずつの合計14名の常勤職員で構成された事務局を中心に、広域化に向けた取組を進めています。協議会事務局では、ホームページを立ち上げており、会議の開催状況や協議会規約等を随時掲載するなど、最新の取組状況を公開しています(栃木県消防広域化協議会ホームページ参照 URL:http://tochigi-kouiki.jp/index.php)。

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奈良県においても推進計画で県全体を1つの消防本部とすることとしています。平成21年4月に市町村長や奈良県危機管理監等を委員とした「奈良県消防広域化協議会」を立ち上げました。事務局は奈良県から1名、各消防本部から13名、消防本部が置かれていない村の職員1名の合計15名の常勤職員で構成され、県補助金や各消防本部からの負担金により運営されています。
長野県については、県内を2つの消防本部とすることとしており、同様の協議会と常任の事務局がそれぞれ立ち上がっています。
消防庁では、引き続き、これらの先進的な取組を行っているブロックや、これから協議を本格化する各都道府県の広域化対象市町村に対して、情報提供や広域化セミナーの開催などの支援を行っていきます。

(2)消防力の整備

消防庁では、「消防力の整備指針」及び「消防水利の基準」を示している。
「消防力の整備指針」は、「消防力の基準」として昭和36年(1961年)に制定されて以来、市町村の消防力の充実強化に大きな役割を果たしてきた。制定以来、数次にわたり改正が行われたが、その後の都市構造の変化、消防需要の変化に対応して、より実態に即した合理的な基準となるよう平成12年(2000年)に全部改正が行われ、それまでの「必要最小限の基準」から「市町村が適正な規模の消防力を整備するに当たっての指針」へと性格が改められ、市町村の自主的決定要素が拡充された。さらに、平成15年12月の消防審議会答申においては、「消防力の基準」について、市町村の消防力の整備に係る指針としての位置付けを維持しつつ、消防サービスの水準確保を前提にして、消防力の整備に当たって市町村が様々な選択を行えるような内容・形態にしていく必要があるとされるとともに、分野別の標準的職務能力の明示、「兼務」概念の導入、施設の性能・効果を考慮した規定の導入、消防団員数に関する算定指標の設定等の必要性について提言が行われた。また、平成16年12月の消防審議会答申では、消防行政を効果的に推進していくためには、その理念として具体的な施設、人員についての基準を示すことが極めて重要であり、このためには、大規模災害時等における国の役割を明確にした上で、市町村に対して、「総合性の発揮」、「複雑・多様化・高度化する災害への対応」、「地域の防災力を高めるための連携」、「大規模災害時における広域的な対応」の必要性について「指針」に盛り込むべきであるとの提言が行われた。
これらを受け、消防庁においては、平成17年6月に「消防力の基準」の一部改正を行い、名称も「消防力の整備指針」とした。
各市町村においては、この「消防力の整備指針」を整備目標として、地域の実情に即した適切な消防体制を整備することが求められている。

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