平成21年版 消防白書

3 救助体制の整備

(1)体制の整備

消防機関の行う救助活動は、火災、交通事故、水難事故、自然災害からテロ災害などの特殊な災害にまで及ぶものであり、消防庁ではこれらの災害に対して適切に対応できるよう所要の体制の整備をすすめている。特に平成16年10月に発生した新潟県中越地震、平成17年4月に発生したJR西日本福知山線列車事故等により、大規模な災害事象が発生している状況を踏まえて全国的な救助体制の強化の必要性が高まり、平成18年4月「救助隊の編成、装備及び配置の基準を定める省令(昭和61年自治省令第22号)」を改正し、新たに高度救助隊及び特別高度救助隊を創設した。これらの隊には従来の救助器具に加え高度な救助用器具を備えることとし、関係消防本部において着実に整備がすすめられてきた。また、隊員の構成については、専門的かつ高度な救助技術に関する知識・技術を兼ね備えた隊員で構成することとし、この高度救助隊員の教育を平成18年度から消防大学校のカリキュラムに取り入れるとともに、平成19年11月には「専門的かつ高度な教育を受けた隊員」となるための、消防学校等における教育訓練について定めた。
こうした高度救助隊及び特別高度救助隊の体制が概ね整備された平成20年には、岩手・宮城内陸地震が発生し緊急消防援助隊が派遣されたが、関係消防本部の高度救助隊等も陸上部隊として出動し、被災現場で高度な救助活動を行った。

(2)資機材の整備

資機材の整備については、近年はテロ対策が重要な要素となっている。すなわち、平成13年の米国同時多発テロ事件以降、国内外において依然としてテロの脅威が高まっており、有毒化学物質や細菌等の生物剤、放射線の存在する災害現場においても迅速かつ安全な救助活動を行うことが求められている。
こうした状況を踏まえ消防庁では、救助隊の装備の充実を図るため、平成18年度にウォーターカッター車及び大型ブロアー車の各1台を5セット、平成19年度に大型除染システム車を5台、平成20年度にウォーターカッターと大型ブロアーの装備を備えた特別高度工作車5台を整備し、消防組織法第50条に基づく無償使用により特別高度救助隊を配置する主要都市に配備した。
平成21年度には、テロ災害や大規模地震など国内で発生する様々な大規模特殊災害等に備えるため、携帯型生物剤検知装置等のテロ災害対応資機材を整備し、主に特別高度救助隊及び高度救助隊に配備するとともに、特殊災害対応自動車10台、特別高度工作車9台及び大型除染システム車8台整備し、特別高度救助隊を配置する主要都市に配備する。

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(3)救助技術の高度化等

年々多様かつ高度化する消防救助事象に対応し、救助技術の高度化等を推進するため、平成9年(1997年)度から「救助技術の高度化等検討会」を、平成10年(1998年)度から「全国消防救助シンポジウム」を毎年度開催している。平成21年度の「救助技術の高度化等検討会」については、「日本版ショアリングの考察について」をテーマにし、「全国消防救助シンポジウム」においては、「大規模災害に対する活動能力の向上を目指して~日本における都市型捜索救助(US&R)活動*2~」をテーマにして開催する。

*2 都市型捜索救助(US&R:Urban Search & Rescue)活動:瓦礫の下に取り残された生存者に対する位置特定、閉鎖空間からの救出活動、生存者の容体を安定化するための応急処置を柱とする一連の救命・救出活動

また、平成21年度から消防大学校の専科教育救助科の受講人員を増員するなど救助技術等にかかる教育プログラムの充実を図ったほか、テロ災害等に対する対応を強化するため、検知型遠隔探査装置の実用性の検討を行った。

(4)安全管理体制の強化

災害対応の基本は安全・確実・迅速に活動することであり、救助技術の高度化等検討会等において救助活動要領等を検討するなかで安全管理についても検討し、報告書として取りまとめてきた。こうしたなか平成21年5月に大分県において水難救助訓練中の隊員が殉職する事故が発生した。消防庁としては、消防本部等における安全管理体制の強化や事故防止の徹底の促進に一層努めていく。

災害現場における倒壊建物等の安定化技術(ショアリング)について

1 ショアリング(Shoring)の概念

ショアリングとは、地震等の災害によりその建物の構造にダメージを受けて余震の影響や、自重による二次倒壊の危険性がある建物の危険度を評価し、建物内での救助活動中及び建物内に要救助者が取り残されている時の二次倒壊による危険を未然に防ぐために、ダメージを受けた外壁、天井及び窓やドアなどの開口部をショアという支柱で支えて安定化させる技術です。
ショアリングは、その建物のダメージの受け方や場所、目的等により、大きく次の4つのパターンに分類できます。

建物の外壁が外方向へ倒れようとしていたり、建物全体が傾いて倒壊しようとしている場合に、外部側面からショアリングを施して建物の外壁部分を支えるもの。

建物の天井部分が上部階、屋根又は隣接した建物の倒壊で荷重がかかり、倒壊若しくは抜け落ちてしまいそうな場合に建物内部の天井に縦方向のショアリングを施して建物内部の天井部分を支えるもの。

建物に設けてある窓又はドアなど、建物内部への進入口となる開口部が倒壊などによる影響で負荷がかかり、潰れたり閉ざされたりしないように、開口部にショアリングを施して窓枠及びドアの枠を補強するもの。

建物の倒壊などにより偶発的にできたボイド(空洞)で、そのボイドが通路になったり、その下に被災者がいる場合には、そのボイドの形に合わせてショアリングを施してボイドの倒壊を防止するもの。

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2 米国におけるUS&R活動とショアリング

米国では、連邦危機管理庁(FEMA:Federal Emergency Management Agency)の要請に基づき、大規模災害等の緊急事態に都市型捜索救助隊(Urban Search & Rescue Task Force)が派遣されます。都市型捜索救助隊の活動は、瓦礫の下に取り残された生存者に対する位置特定、救出救助等を柱とする一連の救命・救出活動であり、ショアリングは、この目的を達成するための一つの技術として位置付けられています。

3 日本の国内事情に対応したショアリング

米国内においてショアリングに使用する木材は、米まつ(パイン材)が一般的です。日本において流通している木材は杉が圧倒的に多く、入手が容易であることから、米まつ(パイン材)と杉の強度について、圧縮、引張り等について検証したところ、結果は、米まつ(パイン材)に対する杉の強度比は0.8であり、使用木材を多くするなど強度を増すことにより、概ねショアリングに適していると言えます。

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4 火災現場におけるショアリングの活用

木造建物は、火災による焼損で柱や梁といった主要構造部の強度が著しく低下し、消火活動による放水のため、収容物が水分を多量に含むことにより、倒壊危険が増加します。こうした場合には、建物内部に安全な空間を確保するためのスポット・ショアと言われるショアリングが効果的です。
また、火災現場においてショアリングを実施する場合、完全に鎮火した後でなければ可燃物である木材を使用することはできないため、金属製の救助用支柱器具等を活用することとなります。

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5 ショアリング技術の普及

消防庁では、平成20年10月に東京都立川市の総務省自治大学校及び東京消防庁第八消防方面訓練場を会場に「平成20年度実戦的な特殊災害対応訓練」を開催し、在日米海軍統合消防部佐世保署訓練課ドリルマスターの草場秀幸氏を講師に迎え、総務省消防庁消防大学校及び各都道府県・政令市消防学校の救助訓練指導者、さらに国際消防救助隊登録隊員等を対象にレイカー・ショア及びウィンドウ・ショアに関する実技訓練を実施するとともに、平成21年2月に滋賀県大津市の全国市町村国際文化研修所及び大津市消防局北消防署訓練場を会場に開催した「平成20年度国際消防救助隊セミナー」において、国際消防救助隊登録隊員を対象に「スポット(ポスト)・ショア」に関する実技訓練を実施するなど、ショアリング技術の普及を図っています。

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