平成21年版 消防白書

2 群馬県渋川市老人ホーム火災を踏まえた防火安全対策について

(1)群馬県渋川市老人ホーム火災の概要

平成21年3月19日、群馬県渋川市の老人ホーム(老人福祉法第29条による届出は未届)において、死者10人、負傷者1人という重大な人的被害を伴う火災が発生した。消防庁では現地に職員を派遣し、渋川広域消防本部とともに火災原因調査を行った。

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この火災における被害拡大の要因としては以下の事項が考えられる。
○ 夜間の職員が1人であり、また建物が小規模で自動火災報知設備等は設置されていなかったことから、火災を早期発見し避難誘導等を行うことが極めて困難であったこと。
○ 屋外への出口等が入所者により容易に解錠できない形状のもので施錠されているなど、避難経路となる出口や通路の極めて不適切な管理があり、早期に屋外へ避難することが困難であったこと。
○ 建物が小規模な木造建築物であり、さらに耐火性能に乏しい材料による増築等もなされていたこと等から、火災の延焼拡大が極めて早かったこと。
○ 入所者の喫煙など日頃の火気管理に不徹底があったこと。

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(2)社会福祉施設等に係る防火対策の徹底及び緊急調査の実施

この火災を踏まえ、未届の有料老人ホームを含む全国の入所社会福祉施設等に対し、防火対策の徹底を求めるとともに、福祉部局及び建築部局と連携を図り緊急調査を行った。
この結果、特に未届の有料老人ホームにおいては高い割合で消防法令違反が発見されたことから、フォローアップ調査を行い、違反是正の徹底を図っている。

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(3)小規模社会福祉施設等における防火安全対策の推進

本火災の教訓にかんがみ、消防庁では次のような防火安全対策を推進している。

ア 早期に火災の発生を覚知する対策

消防法施行令の一部を改正する政令(平成19年政令第179号)により、平成21年4月1日より社会福祉施設等のうち主として自力避難困難者が入所するもの(消防法施行令別表第一(6)項口)については、面積に関係なく自動火災報知設備の設置が義務化されていることから、改正基準への早期適合に係る指導の徹底を図っている。
また、経済危機対策における総務省施策として、平成21年度補正予算により、就寝を伴う小規模な社会福祉施設等で自動火災報知設備の設置が義務づけられていないものに対し、住宅用火災警報器を国が一括で調達のうえ各地方公共団体に配備し、防火安全教育・指導の一環として設置することとしている。

イ 自力避難困難な入所者の避難を支援する対策

利用者には、自力避難が困難な者が多数含まれていることが多いことから、利用者の避難対策を確保するため、特に職員等による避難誘導・介助体制の強化を図っている。
このため、小規模社会福祉施設等における避難誘導体制の確保の徹底を目的に、一定の時間内に避難誘導等が完了することを検証する方法を取り入れた「小規模社会福祉施設用の避難訓練マニュアル」が、全国消防長会において策定されたところである。このマニュアルを活用した訓練の推進により、施設等の実情に応じて総合的に実効性の高い避難対策が講じられるよう促している。

ウ 出火及び延焼拡大を防止する対策

利用者の喫煙等に係る適切な火気管理、調理・暖房等の火気使用設備・器具等について安全機能を有するものの使用、階段や廊下等の避難経路及び避難口の適正な管理、寝具類等第一着火物となりやすい物品の防炎化・難燃化など、火災の発生や拡大を防止する対策の推進を図っている。

死者7名、負傷者3名が発生した長崎県大村市認知症グループホーム「やすらぎの里さくら館」(平成18年1月8日)における火災を踏まえた自力避難困難者の入居する認知症グループホーム等における防火安全対策についての制度改正概要は次のとおり。
消防法施行令、消防法施行規則の一部改正の概要
[消防法施行令別表第一(6)項口に掲げる防火対象物]

  • 消火器具の設置(150m2以上→全て)
  • 自動火災報知設備の設置(300m2以上→全て)
  • 消防機関へ通報する火災報知設備の設置(500m2→全て)
  • 簡易なスプリンクラー設備(水道連結型スプリンクラー設備)の設置(1,000m2→275m2
  • 防火管理者の選任(収容人員30人以上→10人以上)


公布日:平成19年6月13日
施行日:平成21年4月1日
経過措置:既存施設について、消火器は平成22年4月1日まで、スプリンクラー設備・自動火災報知設備及び消防機関へ通報する火災報知設備は平成24年3月31日までの設置の猶予期間あり

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