平成21年版 消防白書

1 大阪市浪速区個室ビデオ店火災を踏まえた防火安全対策について

(1)大阪市浪速区個室ビデオ店火災の概要

平成20年10月1日未明、大阪市浪速区の個室ビデオ店「キャッツ」において、死者15人、負傷者10人(うち1人が10月14日に死亡)という重大な人的被害を伴う火災が発生した。消防庁では、消防法第35条の3の2の規定により消防庁長官が行う調査として現地に職員を派遣し、大阪市消防局とともに火災原因調査を行った。

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この火災における被害拡大の要因として、
○ 火元の個室から流出した煙・熱が短い時間のうちに通路に充満して、避難経路が絶たれたこと。
○ 密室構造の個室において、利用客はヘッドホンの使用等により、火災の発生に気づきにくい状況であったこと。
○ 自動火災報知設備が設置されていたが、作動中に警報が停止されたおそれがあること。
○ 通路は狭く複雑で、行き止まりの構造であり、かつ、個室入口の扉は外開きで、避難の際に通路側に開放されたままの状態となり、避難に支障を生じやすい状況であったこと。
○ 防火管理上の教育・訓練が十分実施されておらず、従業者による初期消火、避難誘導等の応急活動が適切に行われなかったこと。
等により、多数の利用客が逃げ遅れたことが考えられる。

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(2)全国の個室ビデオ店等に関する緊急調査及びフォローアップ調査の結果

この火災を踏まえ、全国の個室ビデオ店等(個室ビデオ店、カラオケボックス、インターネットカフェ、漫画喫茶、テレフォンクラブ等の遊興に供する個室型店舗)に係る緊急調査を行うとともに、その後3回のフォローアップ調査を行っている。主な結果は図2のとおりであり、防火管理面を中心として、引き続き違反是正を推進していくことが必要な状況である。

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(3)予防行政のあり方に関する検討会

また、大阪市浪速区個室ビデオ店火災を踏まえ、有識者等から構成される「予防行政のあり方に関する検討会」を開催し、個室ビデオ店等における防火安全対策を検討した。
本検討会では、本火災の状況、全国の個室ビデオ店等の緊急調査及びフォローアップ調査、個室ビデオ店を想定した火災実験やシミュレーション等を踏まえ、個室ビデオ店等における防火安全対策の現状と課題の整理が行われ、対応の考え方について、提言がとりまとめられている(平成21年6月3日公表消防庁ホームページ参照 URL:http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/houdou/h21/2106/210603-1houdou/01_210603-1houdou.pdf)。

(4) 個室ビデオ店等における防火安全対策の推進

上記提言を踏まえ、消防庁では、次のような防火安全対策を推進している。

ア 消防用設備等による防火安全対策の強化等

個室ビデオ店等においては、その構造や利用形態等から、火災による煙・熱が内部で急激に滞留しやすく、利用客が周囲の状況に気づきにくいため、潜在的に逃げ遅れによる人命危険性が大きい。このため、より早期かつ確実に火災の覚知・伝達を行うとともに、煙で避難の方向が識別できなくなることを防止する必要があることから、消防用設備等の設置基準に係る消防法施行規則等の一部を改正し、個室ビデオ店等に対応した火災警報や誘導表示の機能等の確保を図ることとした(平成21年12月1日施行。既存施設の猶予期間:平成22年11月30日まで)。
a 個室ビデオ店等の個室(これに類する施設を含む。以下同じ。)に煙感知器の設置を義務づける(消防法施行規則第23条第5項第3号の2)。
b 人為的に警報を停止しても自動的に鳴動状態に移行するよう、個室ビデオ店等に設置する受信機に再鳴動機能を義務づける(消防法施行規則第24条第2号ハ)。
c 個室ビデオ店等のうち、ヘッドホンを用いたサービスを提供する個室について、当該サービスの提供中にあっても、地区音響装置及び非常警報設備の警報音が確実に聞き取れるよう措置することを義務づける(消防法施行規則第24条第5号イ(ハ)、同条第5号の2イ(ハ)、第25条の2第2項第1号)。
d 個室ビデオ店等の廊下及び通路の床面又はその直近の避難上有効な場所に、通路誘導灯又は蓄光式誘導標識を設けることを義務づける(消防法施行規則第28条の3第4項第3号)。

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消防法施行令の一部を改正する政令(平成20年政令第215号)等が平成20年10月1日付けで施行(既存施設の猶予期間:平成22年3月31日まで)され、すべての個室ビデオ店等に自動火災報知設備の設置が義務づけられていることを踏まえ、その早期の設置を促進している。

個室に外開きの扉が設けられている場合には、避難の際に開放しても狭い通路での通行障害とならないようにするため、再び閉鎖状態となるよう措置することが必要である。このため、全国消防長会において、当該措置の実施方策について申合せ事項がとりまとめられ、各消防機関において条例改正等の対応が進められているところである。

イ 防火管理体制の確保

平成20年度第2次補正予算により、個室型店舗等の関係者に対する自主防火の取組の支援事業として、個室型店舗等における消防訓練マニュアル及び啓発用リーフレットを作成し、全国の消防機関へ配布するとともに、これを用いて消防機関において消防訓練の指導等を行うための人員の配置に係る支援を行っている。

ウ 消防機関における立入検査、違反是正等の充実強化

個室ビデオ店等における潜在的な危険性にかんがみ、立入検査及び違反是正を重点的に実施することが必要である。これと併せて、消防法令上の届出により状況把握に努めるとともに、使用停止命令を含め必要な権限行使を的確に行うことが重要である。
また、関係行政機関(建築、保健衛生、警察等)との連携が重要であり、特に防火安全に直接関係する事項(建築基準法令違反等)については、所管当局において速やかに是正等が図られるよう、具体的に取組を進めることが必要である。
これらを踏まえ、消防庁では、立入検査マニュアル及び違反処理マニュアルを改正し、個室型店舗等を立入検査及び違反処理の重点的な対象として位置付けた。併せて、建築基準法の防火の規定に関する違反を確実に把握し、速やかに違反処理に移行できるよう、立入検査時の着眼点を追加するとともに、消防法令以外の法令の違反を確認した際の所管行政庁への通知及び連携体制の確立について具体的な記述を追加した。また、平成21年度の地方交付税の算定上、予防査察活動の強化のために必要な人員の拡充が措置されていることを踏まえ、消防機関において、立入検査・違反是正に必要な実施体制が確保されるよう促している。

参考 兵庫県宝塚市カラオケボックス火災への対応
死者3名、負傷者5名が発生した兵庫県宝塚市カラオケボックス「ビート」(平成19年1月20日)における火災を踏まえ、カラオケボックス等における防火安全対策についての制度改正が行われた。その概要は次のとおり。
○消防法施行令、消防法施行規則の一部改正の概要
・消防法施行令別表第一の用途区分として、新たに(2)項ニを設けた。
※(2)項ニ:カラオケボックスその他遊興のための設備又は物品を個室(これに類する施設を含む。)において客に利用させる役務を提供する業務を営む店舗で総務省令で定めるもの
・(2)項ニに掲げる防火対象物について、延べ面積にかかわらず自動火災報知設備の設置を義務付けた。
・カラオケボックス等において、騒音により自動火災報知設備又は非常警報設備の警報が聞き取れないことのないよう所要の措置を講ずることを義務付けた。
公布日:平成20年7月2日
施行日:平成20年10月1日
経過措置:既存の施設については、消防用設備等の種類に応じ、平成21年9月30日から平成22年9月30日までの猶予期間あり

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