平成22年版 消防白書

6 消防用設備等における新技術の開発促進への期待及び課題

消防法令に定める消防用設備等の技術上の基準に性能規定を導入すること等により、新技術の開発促進が期待されるが、その実効性を高めるためには、消防防災分野における新たな技術に関する知見の蓄積を図るとともに、客観的検証法の適用範囲を着実に拡大していくことが必要である。このため、総務大臣による認定によりその知見が十分に蓄積された特殊消防用設備等については、速やかに客観的検証法を策定することにより、消防機関において、その設置等の可否の判断をできるようにしていくこととしている。
一方、消防機関においても、客観的検証法による審査体制を整備し、消防防災分野における新たな技術を用いた設備等が導入できる体制を構築することにより、消防防災に係る技術開発の促進と安全性の高い合理的な防火安全対策の構築に寄与することが望まれる。

住宅用火災警報器の設置効果

平成16年の消防法改正により、戸建てを含むすべての住宅を対象に住宅用火災警報器(以下「住警器」という。)の設置が義務付けられました。平成18年6月から全国で義務化された新築住宅に続き、市町村条例で定めることとされた既存住宅への義務化についても、平成22年4月時点では世帯数ベースで約5割の地域において既に始まっており、平成23年6月には全国で義務化されます。このため、各地域においては普及促進の取組が活発に行われているところです。
各地域における設置促進の取組により着実に普及が進んでいますが、住警器の全国の普及率は、平成22年6月時点で58.4%(消防庁推計)となっており、一層の取組が必要です。
住警器の設置促進のためには、住警器の設置の意義や被害減少の効果について、地域の住民に分かりやすく伝えていくことが重要です。消防庁では、平成19年から平成21年までの3年間における、失火を原因とした住宅火災注) 44,085件について、住警器の設置による被害減少の効果を分析しました。その結果、死者数、焼損床面積、損害額で見ると、住警器が設置されている場合は、設置されていない場合に比べ、被害状況が概ね半減しており、火災発生時の死亡リスクや損失の拡大リスクが減少することが分かりました。
住警器の普及が進むことで、住宅火災による死者数の減少が期待されます。

(注)ここでは、住宅火災のうち原因経過が「放火」又は「放火の疑い」であるものを除く件数を、「失火を原因とした住宅火災」の件数としている。

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火災予防行政のあり方に関する総合的な検討

これまでのわが国における建物火災を振り返ると、昭和40年代から50年代にかけては、デパートやホテルなどの大規模な事業所で数十人以上の死傷者を伴う大きな火災が相次いで発生しました。これらを契機として消防法令の改正が重ねられ、火災予防行政の強化が図られてきた結果、近年ではこの種の大規模な事業所における大火災の発生は見られなくなりましたが、一方で、雑居ビル内の飲食店等の比較的小規模な事業所やグループホームなどの小規模福祉施設などで多くの死傷者を伴う火災の発生が目立つ状況です。

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また、高齢化の進展等に伴い、一般住宅での火災による死者が高齢者を中心に増加する傾向にあることを踏まえて、平成16年には消防法が改正され、住宅用火災警報器の設置が義務付けられるなど、近年では、事業所等における火災予防対策と並んで、住宅防火対策の強化が火災予防行政の大きな課題となっています。
以上のような火災予防行政を取り巻く状況の変化を踏まえると、これまで一定規模以上の事業所等を中心にスプリンクラーなどの消防用設備等の整備(ハード面の対策)や防火管理者の設置などの人的体制の確立(ソフト面の対策)を求めてきた火災予防行政の枠組みを洗い直し、特に小規模な事業所や施設、雑居ビルなどにおける防火対策の実効性を高めていくための取り組みが求められています。限られた消防職員の体制の中で、小規模事業所を含めて火災予防の実効性の向上を図っていく上では、消防法令の順守・違反状況に関する公表制度の整備なども検討課題となるでしょう。
一方で、現在の消防法令は、建築物等の用途や規模に着目して、火災予防のためのハード面・ソフト面の対策を個別・並列的に詳細にわたって義務付ける形となっていますが、過去の大火災の発生ごとに新たな点検制度等を積み重ねてきた結果、規制体系の複雑化も進んでいます。このため、施設ごとに求められる防火安全性の水準を改めて整理することを軸に、規制体系を再構築することにより、新技術の活用を含め、必要な防火性能を満たすより多様な手法の選択を容認するとともに、新しい形態の事業所等に適用されるべき火災予防対策についてより柔軟に対応できる体系としていく必要性が指摘されています。
消防庁では、こうした火災予防行政のあり方をめぐる諸問題について総合的な検討を行うため、「予防行政のあり方に関する検討会」に「基本問題に関する検討部会」を設け、平成22年4月から検討作業を開始しています。今後、同検討部会において取りまとめられる基本的方向を踏まえて、法制上の手当を含めて必要な措置を講じ、火災予防行政に係る実効性の向上と規制体系の再構築を目指すこととしています。

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