平成22年版 消防白書

[住民等の自主防災活動]

1 コミュニティにおける自主防災活動

(1)コミュニティにおける自主防災活動の促進

防災体制の強化については、消防機関をはじめとする防災関係機関による体制整備が必要であることはいうまでもないが、住民によるコミュニティにおける自主防災活動を促進し、地域ぐるみの防災体制を確立することも重要である。
特に、大規模災害時には、道路、橋りょう等は損壊し、電話、電気、ガス、水道等のライフラインが寸断され、常備消防をはじめとする防災関係機関等の災害対応に支障を来すことが考えられる。また、広域的な応援態勢の確立にはさらに時間を要する場合も考えられる。このような状況下では、地域住民一人ひとりが「自分たちの地域は自分たちで守る」という固い信念と連帯意識の下に、組織的に出火の防止、初期消火、情報の収集伝達、避難誘導、被災者の救出・救護、応急手当、給食・給水等の自主的な防災活動を行うことが必要不可欠である。
阪神・淡路大震災においても、地域住民が協力し合って初期消火を行い、延焼を防止した事例や、救助作業を行い人命を救った事例等が数多くみられ、地域における自主的な防災活動の重要性が改めて認識されたところであり(第4―1図)、これに伴い全国における自主的な防災組織による活動カバー率(全世帯数のうち、自主防災組織の活動範囲に含まれている地域の世帯数)も増加傾向にある(第4―2図)。

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このような自主防災活動が効果的かつ組織的に行われるためには、地域ごとに自主防災組織を整備し、平常時から、災害時における情報収集伝達・警戒避難体制の整備、防災用資機材の備蓄等を進めるとともに、大規模な災害を想定し防災訓練を積み重ねておくことが必要である。
また、地域の防火防災意識の高揚を図るためには、地域の自主防災組織の育成とともに、婦人(女性)防火クラブ、少年消防クラブ、幼年消防クラブ等の育成強化を図ることも重要である。さらに、防災関係機関をはじめ、消防団、自主防災組織、婦人(女性)防火クラブ、事業所、各種団体等、地域防災の担い手同士が相互に連携することが、防災力の向上につながる。

(2)自主防災組織等

自主防災組織は地域住民の連帯意識に基づき自主防災活動を行う組織で、平常時においては、防災訓練の実施、防災知識の普及啓発、防災巡視、資機材等の共同購入等を行っており、災害時においては、初期消火、避難誘導、救出・救護、情報の収集・伝達、給食・給水、災害危険箇所等の巡視等を行うこととしている。
平成22年4月1日現在では、全国1,750市区町村のうち1,621市区町村で14万2,759の自主防災組織が設置されており、組織による活動カバー率は74.4%となっている(附属資料25)。
これらの自主防災組織を育成するために、平成21年度は813市区町村において、資機材購入及び運営費等に対する補助が行われており、また、298市区町村において、資機材等の現物支給が行われている。これらに要した経費は平成21年度で合計37億4,300万円となっている。
消防庁では、自主防災組織活動を進めるための指針である「自主防災組織の手引」(冊子)や自主防災組織結成のためのポイントを示した「自主防災組織の結成に向けて」(CD‐ROM)を作成し、それぞれ各自治体等へ配布している。今後は、住民が参加しやすい工夫を凝らすことなどにより、地域の防災力を一層向上させていくことが必要である。
自主防災組織の活性化のためには、各自主防災組織間の協調・交流や行政・企業・教育その他の分野との連携が重要であり、自主防災組織が相互の活動内容を知り、連絡を取り合うための都道府県単位・市町村単位及び地区単位の連絡協議会の設置が非常に有効であることから、消防庁として設置の促進を支援している。
また、平成21年度からは、地域防災力の強化を図るために地方公共団体が自主防災組織等の地域住民に対して実施する防災教育の取組を「地域防災スクール」として推進している。
なお、防災訓練においては住民の事故が起こらないか、細心の注意が払われているが、万一にも住民の事故が起きてしまった場合には、防火防災訓練災害補償等共済制度が活用されることとなっている。こうしたことによって住民が安心して訓練に参加できる体制が確立されている。

家庭の主婦等を中心に組織された自主防災組織である婦人(女性)防火クラブは、平成22年4月1日現在、10,709団体、約172万人が活動しており、家庭での火災予防の知識の修得、地域全体の防火意識の高揚等を図っている。また、災害時には、お互いに協力して活動できる体制を整え、安心安全な地域社会をつくるため、各家庭の防火診断、初期消火訓練、防火防災意識の啓発等、地域の実情や特性に応じた防火活動を行っている。
なお、婦人(女性)防火クラブの団体相互の交流、活動内容の情報交換、研修等を実施し、活動内容の充実強化につなげるため、平成22年8月現在42道府県において都道府県単位での連絡協議会が設置されている。

少年消防クラブは、少年少女が災害、防災について学ぶ組織であり、平成22年5月1日現在のクラブ数は、4,841団体、約42万人となっている。少年消防クラブの発足当初は、火災予防の普及徹底を目的とした学習、研究発表、ポスター作成、校内点検、火災予防運動などの活動が主であったが、最近では消火訓練、避難訓練、救急訓練などの実践的な活動に向けた取組のほか、防災タウンウォッチングや防災マップづくりなど身近な防災の視点を取り入れた活動も多く行われている。
消防庁では、地方公共団体等とともに全国少年消防クラブ運営指導協議会(会長:消防庁長官)を設けて、優良なクラブや指導者に対する表彰を実施しており、平成21年度は、特に優良なクラブ19団体、優良なクラブ37団体、及び優良な指導者11名を表彰した。また、表彰式とあわせて「少年少女消防クラブフレンドシップ2010」を開催し、全国から多くのクラブ員が参加し、交流を深めたところである。
少年消防クラブは、これまで長く15歳までの少年少女を中心として編成されていたが、青少年の防災教育を推進する観点から、消防庁では平成20年11月に、クラブの対象を高校生など18歳までに引き上げることなどについての検討を都道府県等に依頼した。これを受けて、高校で少年消防クラブが組織されるなど、高校生が新たに少年消防クラブ活動に参加する例が出てきている。
少年消防クラブの対象年齢引き上げに関連して、平成21年度には、年齢を引き上げたクラブの活動内容や、少年消防クラブの活性化のための方策についての検討を行い、「少年消防クラブの充実方策に関する検討会」報告書を取りまとめた。この中では、少年消防クラブのモデル的な活動内容を示すことの有効性、指導者育成やクラブ相互の情報交流、積極的な広報の重要性などが指摘されている。この報告を受けて、消防庁などが参画する少年消防クラブ活性化推進会議では、実践的な活動を取り入れるなど積極的な取組をしようとするクラブを全国から募集し、55のクラブを「モデル少年消防クラブ」として選定したところであり、今後、モデル少年消防クラブの具体的な活動事例を広く紹介することなどを通して、少年消防クラブ活動の一層の発展を目指していく。

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児童・園児を中心とした幼年消防クラブは、幼年期において、正しい火の取扱いについてのしつけを行い、消防の仕事を理解してもらうことにより、火遊び等による火災発生の減少を図るためのものであり、近い将来、少年・少女を中心とした防災活動に参加できる素地をつくるため、9歳以下の児童(主に幼稚園、保育園の園児など)を対象として編成され、消防機関等の指導の下に組織の育成が進められている。
なお、平成22年5月1日現在の組織数は、13,942団体、約116万人となっている。

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