9 火災原因調査の現況
科学技術の進歩による産業の高度化及び社会情勢の変化に伴い、大規模又は複雑な様相を呈する火災が頻発する傾向にあり、その原因の究明には高度な専門的知識が必要である。
また、火災の原因を究明し、火災及び消火によって生じた損害の程度を明らかにすることは、その後の予防体制及び警戒体制を充実強化し、並びに消火活動を遂行する上で必要不可欠な資料を提供するものである。火災の原因究明は一義的には地方公共団体の役割であるが、それを補完することは国の責務であるといえ、これらを踏まえ、平成15年の「消防組織法及び消防法の一部を改正する法律」により、消防庁長官が特に必要があると認めた場合は、消防庁長官による火災原因調査を行うことができる制度が導入された(P.290参照)。
本制度による火災原因調査は、火災種別に応じて消防庁の職員により編成される調査チームが、消防機関と連携して実施するものであり、調査から得られた知見、資料を基に検討が行われ、消防行政の施策に反映されている。
平成18年度に兵庫県宝塚市で発生したカラオケボックス火災及び平成19年度に東京都渋谷区で発生した温泉施設爆発火災については、消防庁長官による火災原因調査が行われ、その結果等を踏まえて「予防行政のあり方に関する検討会」を開催し、「予防行政のあり方について(中間報告)」が取りまとめられた(平成19年12月)。この中間報告に基づき、防火安全対策の充実を図ることを目的として「消防法施行令の一部を改正する政令」及び「消防法施行規則の一部を改正する省令」が施行され(平成20年10月)、警報設備の設置対象が拡大された。
平成20年度においては、平成20年10月1日の大阪市浪速区の個室ビデオ店火災(死傷者25人)について、消防庁長官による火災原因調査が行われ、その結果等を踏まえて「予防行政のあり方に関する検討会」を開催し、「予防行政のあり方について(中間報告)~大阪市浪速区個室ビデオ店火災を踏まえた防火安全対策~」が取りまとめられた(平成21年6月)。この中間報告に基づき、防火安全対策の充実を図ることを目的とした「消防法施行規則の一部を改正する省令」が施行され、自動火災報知設備や誘導灯に関する設置基準が強化された。また、平成21年3月19日の群馬県渋川市老人ホーム火災(死傷者11名)についても、消防庁長官による火災原因調査が行われ、その結果等を踏まえ「小規模施設に対応した防火対策のあり方に関する検討会」が開催され、防火安全対策の検討が行われ、危険性の高い社会福祉施設、簡易宿泊所等に対する「防火安全教育・指導のための住宅用火災警報器の配備事業」を実施する契機となった。
最近では、平成23年3月11日に発生した東日本大震災において発生した千葉県市原市のコスモ石油製油所株式会社千葉製油所火災における、消防庁長官による火災原因調査を現在も継続実施している(第I部第3章第2節参照)。