平成23年版 消防白書

第4節 福島原子力発電所事故関連

*1 本節については、以下の資料を基に作成。
・原子力安全に関するIAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書(平成23年6月)(原子力災害対策本部)
・国際原子力機関に対する日本国政府の追加報告書(第2報)(平成23年9月)(原子力災害対策本部)
・平成23年(2011年)東京電力(株)福島第一・第二原子力発電所事故(東日本大震災)について(原子力災害対策本部)

1 事故の状況及び対応

(1) 福島第一原子力発電所

3月11日、東京電力(株)福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という。)は、地震により外部電源が喪失し、さらに、1号機から5号機までは津波により非常用ディーゼル発電機が停止し、全交流電源喪失*2となった。なお、発災前、1号機から3号機は運転中であり、4号機から6号機は定期検査中であった。また、4号機については、全数の燃料が原子炉内から使用済燃料プールに移送されていたほか、各号機の使用済燃料プールにも燃料が保管されていた。

*2 全交流電源喪失:非常用ディーゼル発電機なども使用不能となり、全ての交流電源を供給できなくなる事象

同日16時45分、東京電力(株)は1号機及び2号機において原子炉の水位が確認できないことから、原子力災害対策特別措置法(平成11年法律第156号。以下「原災法」という。)第15条に基づく事象に該当すると判断し、政府に通報し、同日19時3分、内閣総理大臣は原子力緊急事態宣言を発し、原子力災害対策本部(本部長:内閣総理大臣)及び原子力災害現地対策本部を設置した。
その後、1号機から3号機までは、それぞれ原子炉圧力容器への注水ができない事態が一定時間継続し、各号機の原子炉の炉心の核燃料は水で覆われずに露出して炉心溶融*3に至った。

*3 炉心溶融:原子炉冷却材の冷却能力の異常な現象、あるいは炉心の異常な圧力上昇により、燃料体が加熱し、かなりの部分の燃料集合体または炉心構造物が溶融すること。

1号機から3号機までの炉心冷却のため東京電力(株)は消火系ラインや消防車による注水作業を開始し、原子炉の圧力を減少させるため格納容器ベントなどの対応を行うなか、3月12日15時36分に1号機の原子炉建屋で、14日11時1分に3号機の原子炉建屋で爆発が発生し、それぞれの原子炉建屋が破壊され、これらにより、大量の放射性物質が環境に放出された。
3月15日6時頃には、2号機で爆発音があり、同日9時38分及び16日5時45分に4号機の原子炉建屋で火災が発生した。
また、1号機から4号機までの使用済燃料プールについては、電源の喪失によりプール水の冷却が停止したため、使用済み燃料の発熱による水の蒸発により、その水位が低下し続けた。
このため、3号機の使用済燃料プールに対し、3月17日に自衛隊ヘリによる散水、その後、警視庁機動隊及び自衛隊による放水、また、3月19日から25日にわたり、緊急消防援助隊による海水放水が行われた(詳細は、第3章第10節参照)。
4号機の使用済燃料プールに対しては、3月20日及び21日に自衛隊により放水が行われた。このほか、1号機から4号機までの使用済燃料プールに対しては、コンクリートポンプ車や冷却浄化系システムによる注水が行われた。
平成23年11月17日現在、1号機から3号機までの原子炉については、圧力容器底部の温度が概ね100℃以下となり、冷温停止状態に向けた注水が実施されている。また、1号機から4号機までの燃料プールについては、循環冷却システムによる燃料の冷却を実施中である(原子力災害対策本部、政府・東京電力統合対策室公表資料より)。

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(2) 福島第二原子力発電所及びその他の原子力発電所

東京電力(株)福島第二原子力発電所(以下「福島第二原発」という。)については、津波により、1号機、2号機及び4号機の海水ポンプが運転できず原子炉除熱機能が確保できない状態となり、その後、原子炉の圧力抑制機能が喪失したことから、東京電力(株)は、原災法第15条に基づく事象に該当すると判断し、政府に通報し、3月12日7時45分、内閣総理大臣は原子力緊急事態宣言を発した。
なお、その後の復旧作業により、3月15日までに、すべての原子炉において冷温停止状態となっている。
東北電力(株)東通原子力発電所、東北電力(株)女川原子力発電所及び日本原子力発電(株)東海第二発電所については、地震により外部電源が停止する状態になったが、それによる甚大な被害は発生しなかった。

(3) 収束に向けた取組

国、地方公共団体及び原子力事業者等は、原子力災害対策本部において策定した事態収束に向けた道筋に従って、原子炉内の燃料の冷却等の作業や放射性物質の拡散防止、また、避難区域に係る取組、原子力被災者への支援など、様々な取組を行っている。
なお、INES(国際原子力・放射線事象評価尺度)評価*4の適用については、11月1日現在、福島第一原発事故はレベル7に、福島第二原発事故はレベル3に、それぞれ暫定評価されている。

*4 INES(国際原子力事象評価尺度)による評価:7...深刻な事故、6...大事故、5...所外へのリスクを伴う事故、4...所外への大きなリスクを伴わない事故、3...重大な異常事象、2...異常事象、1...逸脱、0...尺度以下、-...評価対象外

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