平成24年版 消防白書

5.災害情報等の伝達のあり方

東日本大震災をはじめ、平成24年4月の北朝鮮による「人工衛星」と称するミサイル発射事案、同年5月の茨城県等における竜巻災害等の危機や災害事案において、住民等に対する情報伝達のあり方が重要な問題としてクローズアップされている。

(1) 東日本大震災の教訓への対応

市町村防災行政無線*5(同報系)は、災害時における通信の輻そうや発信規制が行われることがないことから、東日本大震災においても地方公共団体から住民への大津波警報や避難の呼びかけなど災害情報伝達の手段として有効に活用された。

*5 市町村防災行政無線には、同報系と移動系とがある。
市町村防災行政無線(同報系)とは、市町村庁舎と地域住民とを結ぶ無線網である。市町村は、公園や学校等に設置されたスピーカー(屋外拡声子局)や各世帯に設置された戸別受信機を活用し、地域住民に情報を迅速かつ確実に一斉伝達しており、災害時には、気象予警報や避難勧告、Jアラート等の伝達に利用している。
市町村防災行政無線(移動系)は、市町村庁舎と市町村の車両、市町村内の防災機関(病院、電気、ガス、通信事業者等)、自主防災組織等を結ぶ通信網である。災害時における市区町村の災害・対策本部においては、交通・通信の途絶した孤立地域や防災関係機関等からの情報収集・伝達、広報車との連絡や交通・通信の途絶した孤立地域等に利用される。

例えば、全国瞬時警報システム(以下「Jアラート」という(第1-1図)。)と連携させ、自動的に市町村防災行政無線(同報系)から放送ができる仕組みを構築していた岩手県洋野町、宮城県東松島市、福島県新地町等においては、本震の直後で混乱している状況の中で自動的に市町村防災行政無線(同報系)を起動させて大津波警報の第1報を放送できたことは住民の避難を図る上で非常に有効であった旨の報告が当該市町村よりなされている。また、福島県新地町においては、Jアラートによる第1報の放送が通常と異なる音声(男性の合成音声)であったため、異常な事態であることがすぐにわかったという住民の声があったと報告されている。一方、沿岸地を中心として地震の揺れや津波による倒壊・破損や電源喪失等により、Jアラートや市町村防災行政無線(同報系)等の情報伝達手段が利用できなくなり情報伝達に支障が生じた例もあった。

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このため、市町村防災行政無線(同報系)の未整備地区における早急な整備をはじめ、Jアラートと連携して情報伝達手段を自動的に起動できる仕組みの構築や設備の耐震化、無線の非常用電源の容量確保等の耐災害性の向上、デジタル化による双方向通信の確保等の高度化等を図ることが必要である。また、住民に災害情報を確実に伝達するため、市町村防災行政無線(同報系)に限らず、コミュニティ放送、緊急速報メール等の活用による災害情報伝達手段の多重化・多様化を進めることが重要となっている。
市町村防災行政無線(同報系)については、防災基盤整備事業において財政支援を講じてきたところであり、平成23年度補正予算(第3号)では避難所となる学校や病院等と市町村庁舎において双方向通信を可能とする市町村防災行政無線(移動系)等を整備するための経費について補助金による予算措置を講じた。また、平成23年12月に創設された「緊急防災・減災事業(単独)」において、市町村防災行政無線(同報系)の設置・更新も対象とし更なる支援を充実させてきた。
さらに、住民への災害情報伝達手段の多重化・多様化の観点から、実証実験を岩手県大槌町、岩手県釜石市、宮城県気仙沼市、千葉県旭市、東京都江東区、東京都豊島区において実施している(第1-1表)。当該実証実験においては、非常電源の充実等による耐災害性の強化や、多様な情報伝達手段の活用、様々なメディアとの連携等について検証を行っている。これらの結果を踏まえ、平成24年度末を目途に、災害情報伝達手段に係る推奨仕様書を策定し、全国に配布することとしている。

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(2) Jアラートによる迅速な情報伝達の課題

平成24年4月の北朝鮮による「人工衛星」と称するミサイル発射事案に際し、沖縄県内においてJアラートの放送試験等を同年4月5日及び10日に実施した。機器の障害や設定誤りにより、いくつかの団体において予定通りの放送がなされなかった。
同年6月1日現在、Jアラートの受信機を整備している市町村の割合は、99%を超え、気象警報や国民保護情報をはじめとする災害関連情報がJアラートにより市町村に伝達される体制の整備が図られてきた。
しかしながら、Jアラートによる自動起動が可能な情報伝達手段を有する市町村の割合は、同日現在、69.9%にとどまり(附属資料II-47)、情報伝達手段としては市町村防災行政無線(同報系)を除くと、一部の音声告知端末、コミュニティ放送やケーブルテレビ等に限られているのが現状である。

(3) 地方公共団体における災害情報等の伝達体制の充実に向けて

このような背景の下、消防庁においては、平成24年6月から「地方公共団体における災害情報等の伝達のあり方等に係る検討会」を開催し、同年8月には、地方公共団体における住民に対する災害情報伝達手段の整備に関する基本的な考え方について中間取りまとめが行われた。
この中間取りまとめにおいては、災害時において、住民の安全の確保を図るため、住民に対して災害関連情報を確実かつ迅速に伝達することが極めて重要であることから、〔1〕情報伝達手段の多重化・多様化の推進(第1-2図、第1-3図)及び〔2〕迅速性に優れた情報伝達手段の確保を図ることとし、全ての市町村において、平成24年度を含め5カ年で(平成28年までに)Jアラートによる自動起動が可能な情報伝達手段を確保することなどが求められている。

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同検討会においては、さらに災害情報の活用に係る地方公共団体職員の人材育成・研修について検討し、平成24年内に最終報告を取りまとめる予定である。
また、住民への情報伝達について万全を期すため、これまで消防庁においては、関係省庁と連携し、Jアラート受信機を運用する全ての地方公共団体を対象とした毎月の受信機までの導通試験や、任意の団体が参加する年2回のJアラートを用いた緊急地震速報訓練を実施している。
平成24年9月12日には、Jアラート受信機を運用する全ての地方公共団体が参加する初めての全国一斉の自動放送等訓練を実施した。今回の訓練では、各地方公共団体のJアラートの運用状況に応じて情報を受信し情報伝達手段を起動させる等の訓練を実施した。訓練においては、1,256団体(うち自動起動1,158団体)が実際に情報伝達手段の起動を行った。このうち、市町村防災行政無線(同報系)の放送訓練の実施は1,074団体、音声告知端末については220団体、登録制メールについては147団体、コミュニティ放送については40団体、ケーブルテレビ放送については36団体であった(第1-4図)。

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予定どおり放送等の訓練が実施されたのは、1,441団体であった(第1-5図)。放送等がなされなかった団体については、その原因を調査し、早急に改善を図るとともに、改善状況について確認するため、再訓練を実施した。今後とも、引き続き訓練等の充実を図り、Jアラートによる情報伝達が確実に実施されるよう取り組んでいくこととしている。

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(4) 消防救急無線*6のデジタル化の推進

東日本大震災では、地震動や津波による消防救急無線の機器や基地局の被害により、緊急消防援助隊として出動している部隊と消防応援活動調整本部との通信、同県内で活動している部隊同士の通信、緊急消防援助隊として出動している部隊と受援消防本部との通信等の一部に問題が生じた。
従来から、アナログ方式(150MHz帯)により整備・運用されてきた消防救急無線は、車両動態管理・文字等のデータ通信や秘話性の向上による利用高度化及び電波の有効活用を図る観点から、平成28年5月末までにデジタル方式(260MHz帯)に移行することとされている。消防救急無線をデジタル化することにより、明瞭な音声通話や文字情報を瞬時に伝送することにより一層的確な指示を発令することができること、チャンネル数が増加し無線の輻輳・混信が抑制できること、消防本部間の通信ネットワークが接続されより広域的な通信が容易になることなどのメリットがあることから、東日本大震災の教訓を踏まえ、災害に強い消防通信基盤を確保し、今後の大規模災害において緊急消防援助隊の応援と受援をスムーズかつ一元的に行うため、全国の消防本部は早急に消防救急無線をデジタル化していく必要がある。
消防庁では、財政支援措置、技術アドバイザーの派遣、デジタル化実証実験で得られた知見の提供など全国の消防救急無線のデジタル化が円滑に行われるよう支援策を推進している。

*6 消防救急無線は、消防本部(消防指令センター)と消防署、消防隊・救急隊を結ぶ通信網である。消防本部から消防隊・救急隊への指令、消防隊・救急隊からの消防本部への報告、火災現場における隊員への指令等に活用されている。

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