平成24年版 消防白書

2.消防力の確実かつ迅速な被災地への投入

(1) 空路や海路も利用した機動的な体制の構築

東海地震、東南海・南海地震や首都直下地震等においては、被災地へのアクセス道路が相当程度寸断される事態が大いに懸念される。こうした事態に備え、空路及び海路をより機動的に用いた被災地への消防力の投入を検討する必要がある。
このため、消防防災ヘリコプターの整備促進を図るとともに、自衛隊等関係機関との連携も進めながら、航空機を活用して車両、資機材等を搬送する際の技術面・運用面にわたる検討を行う。

(2) 機動力の高い車両等の配備

東日本大震災では、がれきが山積している現場や広範囲に浸水が続く現場など、活動に苦慮した事例があったことから、走破力の向上や小型化等により、機動力の高い車両等の配備も必要である。
そこで、消防組織法第50条の規定による無償使用制度を活用し、全地形対応車*7、重機*8、大規模震災用高度救助車*9等の車両等を整備している。

*7 浸水、がれき、土砂、雪等あらゆる地形に対応でき、救助活動のほか、人員・物資の搬送等にも活用できる。
*8 がれき、土砂等の障害物を除去することにより、道路の啓開、救助隊等と連携した効果的な救助活動に活用可能。
*9 大規模震災時において、活動が困難な救助現場に対処するため、圧縮空気を動力源とした破壊工作器具や小型・軽量・高性能な救助資機材を積載した走破性の高い四輪駆動タイプの救助活動用の車両。


(3) 緊急消防援助隊の出動計画の見直し等

広範囲に甚大な被害が発生した場合も想定して、緊急消防援助隊の出動計画を見直すほか、今回の震災において見受けられた都道府県隊におけるブロック毎の分割出動や先行的な部隊出動等の手法の活用など、より確実かつ迅速に被災地へ到達するための取組について、都道府県単位での積極的な検討を促進していく。

p26_01.jpg

(4) 広域的情報収集及び情報共有の体制強化

東日本大震災では、ヘリコプターテレビ電送システムの地上受信局の被災のほか、公衆通信網や消防救急無線の被害・輻輳等により、通信面で問題が生じた。大規模災害発生初期においては、的確に被害状況を把握することがとりわけ重要であることから、広域的な情報収集体制と消防庁及び緊急消防援助隊間の情報共有体制を強化することが必要である。
そこで、消防庁では、次のような取組を進めている。

ア ヘリコプター衛星通信システム(ヘリサット)の整備

消防庁では、大規模災害時における緊急消防援助隊の運用を的確に行うため、迅速かつ広域的な災害情報収集を目的として、消防組織法第50条に基づく無償使用制度を活用してヘリコプターの整備に努めているが、衛星を介した我が国独自の映像送信システムであるヘリサット(P.234参照)の搭載を併せて進め、地上の受信設備の有無にかかわらず映像伝送が可能な情報収集体制の確立により、初動体制の向上に取り組んでいる。

p26_02.jpg

平成24年度より、東京消防庁、京都市消防局、埼玉県、宮城県及び高知県に配備又は配備予定の消防庁ヘリコプターに順次搭載を予定している。

イ 緊急消防援助隊動態情報システム

緊急消防援助隊動態情報システムは、大規模災害等に緊急消防援助隊が出動した際に、部隊の位置及び動態状況を把握し、緊急消防援助隊の円滑かつ効果的な活動に資することを目的として開発されたシステムで、平成18年4月に運用を開始した。さらに、東日本大震災での活動における諸課題への対策を考慮して平成24年6月から新システムの運用を開始した。同月現在、指揮支援部隊登録消防本部及び各都道府県の代表消防本部に対して、可搬型端末機器(タブレット型パソコン)等の通信機器を配備し、運用訓練を行うなどして取扱いの習熟を図っている。
このシステムの活用により、各部隊で災害情報を共有、視覚的な被害情報の把握などが可能となり、また、3G携帯電話回線が不通になった場合でも、自動的に衛星回線に切り替わることにより、確実な通信が確保できることとなった(第3―1図)。

3-1zu.gif
p27_01.jpg

ウ ヘリコプター動態管理システム

ヘリコプター動態管理システムは、ヘリコプターの位置情報の把握だけでなく、地上から文字メッセージや目的地をヘリコプターに伝送するシステムである。大規模災害時に際し消防庁において出動機体の選定を迅速に行えるよう、点検予定などの平時動態及び自管内や広域応援で出動中といった災害時動態双方の入力が可能となる機能拡張を図っている。
平成24年6月1日現在、73機の消防防災ヘリコプターのうち21機に搭載されている。

エ 無線中継車及び可搬型衛星地球局(VSAT)の整備

東日本大震災では、固定電話・携帯電話の発信制限や停電による消防救急無線の基地局の機能停止により、消防応援活動調整本部、指揮支援隊、指揮下各活動隊及び派遣元の消防本部間の連絡体制の確保が困難となった。
そこで、大規模災害発生時の通信確保の支援体制を強化するため、平成24年度末までに、無線中継と映像送受信等が可能な無線中継車及び地域衛星通信ネットワーク経由で電話やファクシミリなどが利用できる可搬型衛星地球局(VSAT)を整備する。

p27_02.jpg p27_03.jpg

関連リンク

はじめに
はじめに 昭和23年に消防組織法が施行され、市町村消防を原則とする自治体消防制度が誕生して、まもなく65年を迎えようとしています。この間、我が国の消防は、関係者の努力の積み重ねにより着実に発展し、国民の安心・安全確保に大きな役割を果たしてきました。 しかしながら、平成23年3月に発生した東日本大...
第I部 東日本大震災を踏まえた課題への対応
第I部 東日本大震災を踏まえた課題への対応 平成23年3月11日に発生した東日本大震災による被害は、死者・行方不明者約2万人の人的被害、全壊約13万棟、半壊約25万棟の住家被害など、まさに戦後最大の規模となった。 この大災害を受け、消防庁長官の諮問機関である第26次の消防審議会に対し、「広範な地域に...
第1章 地震・津波対策の推進と地域防災力の強化
第1章 地震・津波対策の推進と地域防災力の強化 地震・津波対策については、東日本大震災を踏まえ、平成23年4月に中央防災会議に設置された「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」の報告(平成23年9月28日)にあるように、発生頻度の高い津波のみならず、発生頻度は極めて低いも...
1.防災基本計画の修正と災害対策基本法の改正等
1.防災基本計画の修正と災害対策基本法の改正等 (1) 防災基本計画の修正と地域防災計画の見直し 前述の中央防災会議専門調査会報告を基に、平成23年12月に開催された中央防災会議において、地方公共団体において作成する地域防災計画等の基本となる「防災基本計画」が修正された。従来、津波対策は震災対策の特...