平成24年版 消防白書

1.大規模災害発生時における消防本部の効果的な初動活動

消防審議会における議論や答申内容を踏まえ、東日本大震災での被災地消防本部の活動等について調査を行い、大規模災害発生時における消防本部の効果的な初動活動のあり方や、消防職員の安全対策を含めた消防本部が具体的に取るべき方策等について検討した結果を、平成24年4月に「大規模災害発生時における消防本部の効果的な初動活動のあり方検討会報告書」として取りまとめ、全国の消防本部に配布した。その主な概要は以下のとおりである。

(1) 初動活動の重要性

地震等の災害発生とともに、消防本部では消防力の確保のため初動措置を行い、災害対応体制を確立した上で、発災直後から集中する災害通報等に基づき災害対応を実施する。被害状況等の把握、同時多発災害への対応など、初動期における対応が、その後の被害軽減に繋がることから、限られた消防力を効果的に活用することが重要となる。また、効果的な初動活動を行うためには、事前に計画を策定しておくことや事前計画に基づいた訓練を実施し、災害対応に備えておくことが必要である。

(2) 効果的な活動方策

東日本大震災では、東北地方沿岸部を中心とした広範囲で地震と津波による被害が発生し、被災地消防本部は、自らも被災した状況下で、県内応援隊や緊急消防援助隊到着までの間、限られた消防力で同時多発する災害へ対処することが求められた。これらのことを踏まえ、災害初期における対応策を中心に、大規模災害発生時における職員の安全対策を含めて、消防本部が具体的に取るべき方策等について検討した。

ア 災害対応体制及び情報管理体制の確立

消防本部では、大規模災害が発生した際、災害に即応していくため、その人員、施設、車両、装備、資機材及び水利等の消防力を早期に確保し、災害対応体制を確立することが重要となり、庁舎等の被災を想定した事前計画の策定及び職員の安全管理を含めた非常招集計画の策定が必要である。

早期に情報を収集・集約・分析し、災害活動に繋げていくことや、災害の発生状況等から保有する消防力による対応の可否判断を行うためにも、初動期における情報管理が重要となり、情報通信手段の複数確保、119番通報途絶時の対応、関係機関等による情報収集及び伝達などが必要である。

イ 消防活動方針及び部隊運用方策

大規模災害発生時の活動方針は、消防本部の消防力を最大限に発揮し、総合的な対応を図るため、災害の状況に応じた活動の優先順位や部隊活動の原則等、地域の実情に応じ、災害を想定して事前に定めておき、職員が共通認識を持つ必要がある。また、地震発生後、沿岸部での津波発生に備えた情報の収集、広報・避難誘導活動や津波の浸水想定区域内における活動の方針を定めておくことに加え、同時多発する災害に限られた消防力で対応するため、二次的に発生する火災への優先対応など、状況に応じた出動の選別を行う必要があり、その基準等について定めておく必要がある。

消防本部では、人命の安全確保と被害の軽減を図ることを主眼として、災害に対する消防活動の効果等を的確に判断し、限られた部隊を効果的に運用することが重要となり、災害状況等に応じた本部運用と署所運用の切替え、災害の同時多発時における個々の災害への部隊出動数、被害集中地域への部隊の移動配置、大規模火災時の部隊運用等を想定した計画が必要である。また、地震時は災害覚知の遅れ、消防水利の不足、がれき等による現場到着遅延及び障害が発生することを考慮する必要がある。

ウ 消防団等との情報共有及び連携のあり方

大規模災害発生時は被害の範囲が広大であることから、情報の収集をはじめ、広報・避難誘導活動、災害対応などにおいて、関係機関との連携は不可欠であり、特に消防本部と消防団との情報共有及び連携活動が重要となる。消防本部等と消防団との通信手段の確保及び連絡体制の確立を行い、災害時における活動の分担や連携方法について事前に計画を策定し、共同して平時における訓練等を実施しておくことが必要である。また、災害対応の中心となる消防本部等と消防団による合同の指揮本部を設置するなど、情報の共有と指揮系統の統一を図ることが重要となる。

エ 長期化活動への対策等

大規模災害発生時は活動が長期化することが想定されるため、職員の食糧、飲料水及び車両等の燃料の確保とともに、継続した活動における職員の健康・安全を考慮した休憩や交替が必要となる。食糧等の備蓄とともに、活動が長期継続した場合に必要な物資等を調達できるよう、署所近隣における事業所等との事前協定や協力体制の確立が必要である。また、活動時間に応じた職員の交替計画や休憩場所の確保等にも留意する必要がある。
さらには、応援隊を受け入れるための体制づくり(応援隊の要請、受援準備の開始など)にも配慮する必要がある。

(3) 津波災害時における安全管理

消防の出動する現場は常に危険と隣り合わせである。しかし、火災現場などでは、多くの知見や災害現場経験から、資機材や装備をはじめ、状況に応じた安全管理策を図った上で活動するものであり、職員の身に危険が迫れば退避することとなる。
これに対し、津波に対する安全管理は、津波到達前に退避することが基本となる。津波到達までに一定の時間があれば退避する時間等を踏まえた上で活動可能時間を判断し活動を実施するが、津波到達までに活動できる時間がない場合や、活動中であっても退避するために限界の時間となれば、津波後の消防活動の継続を図るため、職員の身に津波による危険が迫れば「消防職員も退避する。」ということを基本に、住民の避難誘導を行いながら、消防職員も住民とともに退避することが重要である。また、このことについては、事前に住民に周知し、十分な理解を得ておくことが必要である(第2-1図)。

2-1zu.gif

(4) 今後取り組むべき課題

津波を含む大規模災害における消防職員の安全管理のあり方については、消防本部の対応や体制だけでなく、地域住民の理解や地域全体での体制整備といったことも重要である。今後、各消防本部において、この報告書全体を踏まえ、事前計画の整備と訓練等を進めていくことに加え、津波による身の危険がある場合には消防職員も退避することについて、地域住民への周知及び理解を求めていくことや防災についての知識、技術の向上等を図るための教育を行い地域全体の災害対応力の向上を図ること、また、消防における津波に対する安全対策の検証、知見を積み上げていくことなど、課題の解決に向けて取り組んでいく必要がある。

関連リンク

はじめに
はじめに 昭和23年に消防組織法が施行され、市町村消防を原則とする自治体消防制度が誕生して、まもなく65年を迎えようとしています。この間、我が国の消防は、関係者の努力の積み重ねにより着実に発展し、国民の安心・安全確保に大きな役割を果たしてきました。 しかしながら、平成23年3月に発生した東日本大...
第I部 東日本大震災を踏まえた課題への対応
第I部 東日本大震災を踏まえた課題への対応 平成23年3月11日に発生した東日本大震災による被害は、死者・行方不明者約2万人の人的被害、全壊約13万棟、半壊約25万棟の住家被害など、まさに戦後最大の規模となった。 この大災害を受け、消防庁長官の諮問機関である第26次の消防審議会に対し、「広範な地域に...
第1章 地震・津波対策の推進と地域防災力の強化
第1章 地震・津波対策の推進と地域防災力の強化 地震・津波対策については、東日本大震災を踏まえ、平成23年4月に中央防災会議に設置された「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」の報告(平成23年9月28日)にあるように、発生頻度の高い津波のみならず、発生頻度は極めて低いも...
1.防災基本計画の修正と災害対策基本法の改正等
1.防災基本計画の修正と災害対策基本法の改正等 (1) 防災基本計画の修正と地域防災計画の見直し 前述の中央防災会議専門調査会報告を基に、平成23年12月に開催された中央防災会議において、地方公共団体において作成する地域防災計画等の基本となる「防災基本計画」が修正された。従来、津波対策は震災対策の特...