平成24年版 消防白書

5.東日本大震災における津波災害に対する消防活動

東日本大震災における消防活動は、津波による浸水やがれきの堆積等、多くの活動障害がある非常に困難な状況下で行われた。
このことから、「東日本大震災における津波災害に対する消防活動のあり方研究会」(以下「研究会」という。)を開催し、今後の津波災害発生時における消防活動の実効性を高めるための活動方策及び活動上の留意点等について、火災、救助、救急の3つの分野で検討を行った。

(1) 消火活動

東日本大震災では、津波に起因して多くの火災が発生するとともに、燃えている家屋等が漂流することで広範囲に火災を拡大させ、また、散乱したがれきや道路に放置された自動車等を介して、大規模な火災に延焼拡大した。さらに、消火活動は、多くの障害のため限られた消防水利を活用し、がれき等の上を長距離にわたってホース延長をせざるを得ないなどの厳しい活動となった。
このことから、平成24年5月から研究会では、実際に活動した被災地を管轄する消防本部や、緊急消防援助隊として出動した応援消防本部の知見を踏まえ、津波に起因して発生した火災に対する効果的な消火活動、消火活動上有効な資機材、活動上の安全管理を中心に、今後の津波に起因した火災発生時における消火活動の実効性を高めるための方策や留意事項について検討を行った。

(2) 救助活動

東日本大震災における救助活動では、広範囲におよぶ活動区域、がれき・泥水が立ちはだかる中での活動、緊急消防援助隊や警察・自衛隊などの多くの関係機関との連携、救助活動の長期化などに関した様々な課題があった。
このことから、平成24年7月から研究会において、このような経験を通じて得られた貴重な教訓を取りまとめ、今後発生が予想される東海・東南海・南海地震などの津波災害への備えを充実させ、救助活動に係る諸課題を解決するための方策を検討した。

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(3) 救急活動

東日本大震災の発生を受けて、消防庁では、平成23年度、「救急業務のあり方に関する検討会」において、〔1〕大規模災害時の救急搬送体制の強化、〔2〕大規模災害時のメディカルコントロール体制のあり方、〔3〕大規模災害時における消防と医療の連携等という各テーマ別に検討を行うとともに、各消防本部に対し、救急活動中に危険を感じた又は障害となった事例等(以下「ヒヤリハット事例」という。)について、アンケート調査を実施した。
さらに平成24年7月から研究会において、被災地における受入れ可能医療機関の減少に伴う遠方の医療機関への長距離転院搬送の増加をふまえた「大規模災害における転院搬送のあり方」について検討を行うとともに、アンケート調査の結果に基づき、更なる調査・分析を加え、ヒヤリハット事例を原因となるリスクの種類(〔1〕物理的リスク、〔2〕津波・余震等によるリスク、〔3〕停電等によるリスク、〔4〕燃料不足等によるリスク、〔5〕寒さ・凍結等によるリスク、〔6〕長時間活動等によるリスク)別に分類し、今後の津波災害発生時における救急活動の実効性を高めるための活動方策及び活動上の留意点等について検討を行った。

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