平成24年版 消防白書

第5章 原子力災害への対応

1.管轄消防本部の活動

(1) 主な現況

平成23年3月11日の東京電力福島第一原子力発電所事故の発生以降、原子力災害対策特別措置法に基づく原子力災害対策本部長の指示により、当該原子力発電所の周辺地域において避難指示区域の設定が行われ、このうち発電所から半径20kmの範囲は警戒区域として立入制限が行われてきた。また、平成24年4月以降、これらの区域については、避難指示解除準備区域*1、居住制限区域*2及び帰還困難区域*3に順次見直しが進められている。(第5―1図)

*1 避難指示解除準備区域とは、現在の避難指示区域のうち、年間積算線量が20mSv以下となることが確実であることが確認された地域。当面の間は、引き続き、避難指示が継続されることになるが、復旧・復興のための支援策を迅速に実施し、住民の一日でも早い帰還を目指す区域
*2 居住制限区域とは、現在の避難指示区域のうち、現時点からの年間積算線量が20mSvを超えるおそれがあり、住民の被ばく線量を低減する観点から引き続き避難を継続することを求める地域。将来的に住民が帰還し、コミュニティを再建することを目指し、除染を計画的に実施するとともに、広域の地域経済社会の復興のために地元自治体から早期復旧が強く要望されている施設の復旧などを行う区域であり、住民が受ける年間積算線量が20mSv以下であることが確実であることが確認された場合には、「避難指示解除準備区域」に移行
*3 帰還困難区域とは、5年を経過してもなお、年間積算線量が20mSvを下回らないおそれのある、現時点で年間積算線量が50mSv超の地域

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当該区域を管轄する双葉地方広域市町村圏組合消防本部(以下「双葉消防本部」という。)、相馬地方広域市町村圏消防本部(以下「相馬消防本部」という。)、郡山地方広域消防組合消防本部(以下「郡山消防本部」という。)及び伊達地方消防組合消防本部(以下「伊達消防本部」という。)では、放射性物質による汚染、地震等による消防施設や水利の被災等の厳しい条件の下、消防活動を継続して行っている。

双葉消防本部は、原発事故直後の避難指示により消防本部や消防署から退去を余儀なくされ、現在も警戒区域外の署所に人員や車両を移転している。消防庁では、仮庁舎や指令システム等の整備に係る財政支援を行った。
また、相馬消防本部及び郡山消防本部も避難指示等によりそれぞれ1つの分署を移転したが、避難指示区域の見直し等により震災前の体制に概ね復旧している。

避難指示区域の管轄消防本部は、当該区域内の防火対策として、定期的に巡回を実施している。
管内の大部分が警戒区域に設定された双葉消防本部では、火災の早期発見のため、監視カメラの設置を行った。また、多数の消火栓が震災により破損したことから、上水道と併せてその復旧を進めるとともに、用水路への水の放流、簡易型防火水槽の整備、高性能水中ポンプの導入、更には大阪市消防局から譲渡された遠距離大量送水システムや富士市消防本部及び新城市消防本部から譲渡された大型水槽車の導入等により消防水利の確保を図っている。消防庁では、監視カメラ、簡易型防火水槽、高性能水中ポンプの整備に係る財政支援を行った。
このほか、伊達消防本部においても、高槻市消防本部から譲渡された大型水槽車を導入している。

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避難指示区域においては、火災の早期発見、除草や枝木の伐採等の面でも制約があることから、大規模な火災が発生した場合の備えとして、平成23年11月に福島県内の消防本部による応援体制が確立されるとともに、平成24年3月には原子力災害現地対策本部及び福島県災害対策本部による緊急対策が取りまとめられ、関係機関の連携が強化されている。消防庁では、緊急消防援助隊の活動に係る調整を行うとともに、関係省庁等と連携して火災時の放射線影響や延焼拡大に関する技術情報の提供、消防職員向け研修等を行った。

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県内に設置された応急仮設住宅を対象に、双葉消防本部では、県内消防本部及び警察と合同で防火・防災指導(応急仮設住宅ふれあい巡回訪問)を実施している(第1回目:平成23年9月26日~平成24年1月18日。101箇所)。その際、住民からの要望の多い消火器やAEDの取扱訓練も行っている。

住民の一時立入に際して、当該区域の管轄消防本部では警戒活動を行っている。その際、住民や除染作業者等で体調不良になった者の救急搬送等を実施している。また、立入者に対する予防広報や、火災を発見した場合の早期通報の依頼等も行っている。

管内に福島第一原発及び第二原発が所在する双葉消防本部では、原子力規制庁の現地事務所等と連携し、当該発電所への防火指導や自衛消防組織の訓練指導を行っている。また、火災等への出動や、作業員の救急搬送を行っている。

(2) 課題

避難指示区域における消防体制について、各市町村の復旧・復興と合わせて充実・強化を図る必要がある。消防庁としても、関係省庁、原子力災害現地対策本部、福島県、関係市町村等と連携し、管轄消防本部への支援を引き続き行っていくことが必要である。

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