第2節 市町村の消防の広域化
1.消防の広域化推進
市町村は、その区域内における消防事務を十分に果たすべき責任を有しているが、小規模な市町村における消防体制は様々な課題を抱えている場合が多い。
消防の広域化は、複数の市町村が一部事務組合や事務委託といった形態により、消防事務を共同で処理することによる行財政上のスケールメリットを活かし、消防体制の整備・確立を図ることを目指すものであり、消防庁として、平成6年(1994年)以降継続的な取組を行っているものである。
(1) 市町村消防の状況
ア 消防本部の状況
昭和23年(1948年)3月7日に消防組織法が施行されて以来、「市町村消防の原則」が消防制度の根幹として維持されており、消防本部及び消防署の設置が進められた。全国の消防本部数は、平成3年(1991年)に過去最多の936本部まで増加したが、平成6年(1994年)以降は、市町村消防の広域化の推進や市町村合併の進展とともに減少し、平成24年4月1日現在の消防本部数は791本部であり、消防本部や消防署を設置していない非常備町村数は37町村である(第2-2-1図、第2-2-2図)。


イ 非常備町村の状況
37の非常備町村は11都府県に存在するが、地理的な要因から非常備である地域も多く、37町村中、1都3県の21町村(非常備町村全体の56.8%)が島嶼地域である(第2-2-2図)。
ウ 小規模消防本部の課題
全国791消防本部のうち、管轄人口が10万人未満の小規模消防本部は478本部あり、全体の60%を占めている。
一般的に、これらの小規模消防本部では、複雑化・多様化する災害への対応力、高度な装備や資機材の導入及び専門的な知識・技術を有する人材の養成等、組織管理や財政運営面における対応に課題があると指摘されている。
(2) 広域化の背景と推進の枠組み
ア 広域化の背景
小規模な消防本部においては、一般的に財政基盤や人員、施設、装備等の面で十分でなく、高度な消防サービスの提供に課題がある場合が多いことから、消防庁では、平成6年(1994年)以降、市町村の消防の広域化を積極的に推進してきたが、いまだ小規模消防本部が全体の6割を占める状況にある。
また、日本の総人口は、平成17年以降減少傾向にあり、都市部とその他の地域により差はあるが、一般的に各消防本部の管轄人口も減少すると考えられており、さらに、消防団員の担い手不足の問題も懸念されている。このような現状から、消防の体制の一層の整備・確立を図るために市町村の消防の広域化を推進することが必要と考えられてきた。
イ 平成18年の消防組織法の改正
平成18年に消防組織法の一部改正法が成立し、消防の広域化の理念及び定義、基本指針に関すること、推進計画及び都道府県知事の関与等に関すること、広域消防運営計画に関すること、国の援助等に関すること等が規定された(第2-2-3図)。

消防組織法では、市町村の消防の広域化とは、「二以上の市町村が消防事務(消防団の事務を除く。以下同じ。)を共同して処理することとすること又は市町村が他の市町村に消防事務を委託することをいう。」(消防組織法第31条)と定義され、広域化は「消防の体制の整備及び確立を図ることを旨として、行わなければならない」(同条)こととされている。
広域化の具体的な方法としては、消防事務を共同処理する一部事務組合又は広域連合の設置、既存の組合の構成市町村の増加、消防事務組合以外の事務を処理する組合の事務に消防事務を追加すること及び消防事務を他の市町村に委託することが考えられる。
ウ 市町村の消防の広域化に関する基本指針
消防庁では、改正後の消防組織法第32条第1項に基づき、平成18年7月に「市町村の消防の広域化に関する基本指針」(以下、この節において「基本指針」という。)を定めた。この中で、広域化を推進する期間については、平成19年度中には都道府県において推進計画*1を定め、推進計画策定後5年度以内(平成24年度まで)を目途に広域化を実現することとされた。
*1 推進計画 平成23年5月に「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」が施行され、都道府県による推進計画の策定は努力義務化された。
(3) 広域化のメリットと課題
ア 広域化のメリット
一般的には以下の3点のメリットが考えられる。
(ア) 迅速で効果的な出動による住民サービスの向上
広域化により消防本部の規模が大きくなり、消防本部全体が保有する車両等が増えることから、初動時や第2次以降の出動体制が充実するとともに、統一的な指揮の下、迅速で効果的な災害対応が可能になる。
(イ) 人員配置の効率化による現場体制の充実・高度化
総務部門や通信指令部門の効率化を図り、人員を消火や救急部門に再配置することにより、不足している現場体制の強化が可能になる。また、予防部門や救急部門の担当職員の専任化を進めることにより、質の高い消防サービスの提供が可能になる。
(ウ) 財政・組織面での消防体制の基盤強化
財政規模の拡大による効率化により、小規模消防本部では整備が困難であったはしご自動車、救助工作車及び高機能指令センター等の計画的な整備が可能になる。また、職員数が増加することから、人事ローテーションの設定、職務経験不足の解消、各種研修への職員派遣など、組織管理の観点からも多くのメリットが期待できる(第2-2-4図)。

イ 広域化に伴う課題
広域化をした消防本部では、職員の身分や給与の段階的な一本化、構成市町村が増加したことに起因する調整業務の増加及び構成市町村の負担金の調整等が、広域化検討時からの課題であるとともに、広域化後もこれらの課題への対応に時間を要している場合がある。
このことから、広域化対象市町村が広域化後に円滑に業務を行っていくためには、広域消防運営計画作成時に各調整事項について十分な協議を行うとともに、構成市町村の了承を得ておく必要がある。