平成27年版 消防白書

トピックス2 国際緊急援助及び消防防災に関する国際交流の最近の動き

1.ネパール地震災害に対する国際緊急援助隊救助チームの派遣

海外で大規模な災害が発生した場合、被災国等からの要請に基づき国際緊急援助隊救助チームが派遣されるが、平成27年4月のネパール地震災害において、消防庁は全国の消防本部の救助隊員等により編成される国際消防救助隊を国際緊急援助隊救助チームの一員として現地に派遣した。

(1) 災害の概要

平成27年4月25日、日本時間の15時11分頃(ネパール時間の11時56分頃)ネパールの首都カトマンズから北西約80kmを震源地とするマグニチュード7.8(米国地質調査所(USGS)発表)の大規模な地震が発生した。この地震でネパールの首都カトマンズを中心に死者8千人、負傷者2万人を超える甚大な被害が発生した。

(2) 地震発生直後の消防庁の対応

消防庁では、地震発生直後から外務省、独立行政法人国際協力機構(以下「JICA」という。)及び隊員の派遣が見込まれる消防本部(以下「派遣元消防本部」という。)と緊密な調整を行っていたが、地震発生当日の21時15分頃、ネパール政府が非常事態宣言を発出し、21時55分頃、各国に対して、あらゆる形の人道援助の要請を表明したため、外務省から「国際緊急援助隊の派遣に関する法律」に基づく派遣の協議がなされた。これを受けて、消防庁長官が国際消防救助隊の出動を決定し、派遣元消防本部に対して派遣の要請を行った。
今回派遣された国際消防救助隊は、消防庁及び7消防本部所属の計17人で構成され(トピックス2-1表)、成田国際空港に4月26日12時00分までに集結した。国際緊急援助隊救助チームの結団式後、国際消防救助隊の発隊式が行われ、隊員を激励する内容の高市総務大臣のメッセージが伝達された。

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なお、国際緊急援助隊救助チームは、消防(国際消防救助隊)の他、外務省、警察、海上保安庁、JICA等から構成され、今回のネパールの派遣では、総勢70人のチームが編成された。

(3) 被災地での活動

4月26日17時52分に成田国際空港を出発した国際緊急援助隊救助チームは、バンコク経由で4月27日にはネパールに到着する予定であったが、ネパールのトリブバン国際空港が、支援のため各国から飛来する航空機の着陸による混雑の影響により着陸できず、4月28日ネパール時間の11時44分に到着した。

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ネパールのカトマンズに到着した国際緊急援助隊救助チームは、既に現地の日本国大使館及びJICA事務所を通じて、被災状況や救助活動が必要とされる範囲等の情報収集を行っていたため、ネパール到着の午後から、旧王宮(ハヌマン・ドカ)周辺において、これまでの派遣と比較し、入国後、最も迅速に捜索救助活動に取り掛かることとなった。
捜索救助活動にあたっては、国連を中心として各国の救助部隊や被災国の災害対策本部との調整を行うOSOCC(現地活動調整センター)が捜索救助範囲の区割りや各国の救助部隊の活動範囲を調整し、その結果に基づいて、各国の救助部隊が活動スケジュールの組立てや割り当てられた活動範囲の部隊配置等を行った。
なお、国際緊急援助隊救助チームは、国連の下で各国の専門家により構成される国際捜索・救助諮問グループであるINSARAGによる能力評価において、最高分類である「Heavy(ヘビー)」を取得していることから、多くのがれきが堆積するとともに、建物倒壊危険が高い等高度な捜索救助技術が要求される活動範囲を割り当てられた。
4月29日には、旧王宮周辺及びバクタプール周辺において捜索救助活動を実施した。ゴーグルや防塵マスク等の個人装備の装着を徹底した隊員が、気温35度にも及び、余震の発生危険のある過酷な活動条件の中、手作業によりがれきを除去していく方法で捜索救助活動を実施し、旧王宮周辺において女性1人の遺体を発見した。
さらにOSOCCと調整しつつ、4月30日は旧王宮周辺及びバクタプールで、5月1日はサクーで、それぞれ手作業でのがれき除去による捜索救助活動を継続したが、地震発生から1週間を経過した5月2日、救助支援から復興支援の段階に移行しているとのネパール政府の声明を受け、OSOCCの会議において国連側から捜索救助活動終了の発表があった。
国際緊急援助隊救助チームは、サクーにおいて要救助者情報を把握していたため、捜索救助活動を継続することとしたが、5月3日午前、捜索中の要救助者が現地住民により遺体で発見されたとの情報を入手したため、部隊をサクーから撤退させた。
その後、ゴンガブ地区に移動し、被災状況等の調査を実施後、ネパール武装警察から捜索救助活動の必要な範囲等についての情報収集を行った。
5月4日、ネパール武装警察からの捜索救助活動の要請を受け、ゴンガブ地区において1階・2階が座屈した建物の捜索救助活動を実施した。構造評価専門家による安全確認が実施された後、画像探査装置や削岩機等の高度な救助資機材を活用した捜索救助活動を実施したものの要救助者の発見には至らなかった。
5月5日、ネパール武装警察より、国際緊急援助隊救助チームの支援が必要な活動範囲はこれ以上無いとの説明を受け、5月6日に捜索救助活動を終了した。

5月8日、ネパールでの任務を終えた国際緊急援助隊救助チームは、ネパールを出発後、バンコクを経由し、5月9日日本時間の早朝、成田国際空港に到着した。
成田国際空港では、国際緊急援助隊救助チームの解団式に出席した後、国際消防救助隊解隊式が行われ、過酷な任務を果敢に遂行した隊員に対する慰労と感謝を伝える高市総務大臣のメッセージが伝達された。

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(4) 帰国後の表彰等

ネパールから帰国して約1ヶ月後の6月12日、総務省において、総務大臣感謝状贈呈式及び消防庁長官表彰式が実施された。
消防庁長官表彰式では、各派遣隊員に対して表彰状及び国際協力功労章が、派遣元各消防本部に対して表彰状がそれぞれ授与され、続いて、総務大臣感謝状贈呈式において、高市総務大臣から各派遣隊員に感謝状が贈呈された。
また、国際緊急援助隊救助チームに対して、11月5日に外務大臣感謝状授与式が、11月18日には天皇皇后両陛下御接見が、それぞれ実施された。

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(5) 海外の大規模災害への適確な対応

今回の派遣では、残念ながら生存者の救出には至らなかったものの、気温が35度を超える猛暑の中、また、要救助者や現地の被害状況等の情報把握が困難な状況の中での、国際緊急援助隊救助チームの献身的な活動に対して、ネパール政府及び国民から高い評価と謝意が送られた。
今回の派遣を通じて、迅速な国際消防救助隊の編成、捜索救助技術の向上、警察、海上保安庁等他機関との連携強化等について、平素からの準備の重要性が再認識されたところであり、「Heavy(ヘビー)」の評価にふさわしい活動が実施できるよう、引き続き各種研修や訓練の実施、国際機関との密接な情報交換等に取り組んでいくこととしている。

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