平成29年版 消防白書

3.特定事業所における防災体制

(1)自衛防災組織等の設置

石油コンビナート等災害防止法では、特別防災区域に所在する特定事業所を設置している者(特定事業者)に対し、自衛防災組織の設置、防災資機材等の配備、防災管理者の選任、防災規程の策定等を義務付けている。また、各特定事業所が一体となった 防災体制を確立するよう、共同防災組織*3、広域共同防災組織*4及び石油コンビナート等特別防災区域協議会(以下「区域協議会」という。)*5の設置について定めている。
平成29年4月1日現在、全ての特定事業所(679事業所)に自衛防災組織が設置され、73の共同防災組織、11の広域共同防災組織及び55の区域協議会が設置されている。これらの自衛防災組織、共同防災組織及び広域共同防災組織には防災要員5,527人、大型化学消防車88台、大型高所放水車51台、泡原液搬送車133台、大型化学高所放水車111台、大容量泡放水砲24基、油回収船25隻等が常時配備されている。
さらに、特定事業所には、その規模に応じて流出油等防止堤、消火用屋外給水施設及び非常通報設備を設置しなければならないこととされている。平成29年4月1日現在、流出油等防止堤が142事業所に、消火用屋外給水施設が500事業所に、非常通報設備が481事業所にそれぞれ設置されている。

*3 共同防災組織:一の特別防災区域に所在する特定事業所に係る特定事業者が、共同して自衛防災組織の業務の一部を行うために設置する防災組織
*4 広域共同防災組織:二以上の特別防災区域にわたる区域に所在する特定事業所に係る特定事業者が、共同して大容量泡放水砲等を用いて行う防災活動に関する業務を行うために設置する広域的な共同防災組織
*5 石油コンビナート等特別防災区域協議会:一の特別防災区域に所在する特定事業所に係る特定事業者が、共同して災害発生防止等に関する自主基準の作成や共同防災訓練等を実施することを目的に設置する協議会

(2)大容量泡放射システムの配備

平成15年9月に発生した十勝沖地震では、苫小牧市内の石油精製事業所において、多数の屋外貯蔵タンクの損傷、油漏れ等の被害が発生し、さらに、地震発生から約54時間が経過した後に、浮き屋根式屋外貯蔵タンクの浮き屋根が沈んだことによる全面火災が発生した。
浮き屋根式屋外貯蔵タンクで発生する火災について、本災害の発生前はリング火災*6が想定されていたが、我が国における地震の発生危険等を考慮すると、災害想定をタンクの全面火災にまで拡充することが必要となった。
これを受け、石油コンビナート等災害防止法が平成16年6月に、同法施行令が平成17年11月に改正され、防災体制の充実強化とともに、浮き屋根式屋外貯蔵タンクの全面火災に対応するため、新たな防災資機材である大容量泡放射システムを平成20年11月までに配備することが特定事業所に義務付けられた。
大容量泡放射システムは、毎分1万リットル以上の放水能力を有する大容量泡放水砲、送水ポンプ、泡混合装置、ホース等で構成される防災資機材であり、大容量泡放水砲1基当たり、従来の3点セット(大型化学消防車、大型高所放水車及び泡原液搬送車)の3倍から10倍の泡放射を行うことができるものである。
現在、毎分1万リットルから4万リットルの放水能力を有する大容量泡放射システムが、全国で12の広域共同防災組織等に配備されている。

大容量泡放射システムによる放水訓練
大容量泡放射システムによる放水訓練

*6 リング火災:浮き屋根式屋外貯蔵タンクにおいて、浮き屋根とタンクの側板の間で全周にわたって火災となり、リング状に燃え広がるもの

(3)自衛防災体制の充実

石油コンビナートにおける防災活動は、危険物等が大量に取り扱われていることや設備が複雑に入り組んでいることから困難な場合が多く、また大規模な災害となる危険性もあることから災害発生時には、自衛防災組織や共同防災組織による的確な防災活動を行う必要があり、当該活動を担う防災要員には広範な知識と技術が必要とされる。
消防庁では、自衛防災組織等における防災活動について「自衛防災組織等のための防災活動の手引」、「防災要員教育訓練指針」、「大容量泡放射システムを活用した防災活動」等の報告書を示したところであり、平成28年度及び29年度には「自衛防災組織等の教育・研修のあり方調査検討会」を開催して標準的な教育テキストを作成し、防災要員の人材育成と自衛防災体制の充実を図っている。

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