平成29年版 消防白書

2.火災原因調査等及び災害・事故への対応

(1)火災原因調査及び危険物流出等の事故原因調査等

ア 火災原因調査及び危険物流出等の事故原因調査等の実施
消防防災の科学技術に関する専門的知見及び試験研究施設を有する消防研究センターは、消防庁長官の火災原因調査及び危険物流出等の事故原因調査(消防法第35条の3の2及び第16条の3の2)を実施することとされており、大規模あるいは特異な火災・危険物流出等の事故を中心に、全国各地においてその原因調査を実施している。また、消防本部への技術支援として、原因究明のための鑑識*1、鑑定*2、現地調査を消防本部の依頼を受け共同で実施している。
平成27年度から平成29年度*3に実施した火災原因調査等は第6-3表のとおりである。また、平成28年度に行った鑑識は86件、鑑定は60件である。

第6-3表 火災原因調査及び危険物流出等の事故原因調査の現地調査実施事案一覧(平成27年度から平成29年度*3までの調査実施分)

画像をクリック(タップ)すると拡大表示します

第6-3表 

主な原因調査は次のとおりである。
平成27年5月に神奈川県内の簡易宿泊所で発生した火災(死者11人、負傷者17人)においては、消防庁長官の自らの判断による火災原因調査を行った。
平成27年10月に広島県内の飲食店で発生した火災(死者3人、負傷者3人)においては、消防庁長官の自らの判断による火災原因調査を行った。 平成28年4月に秋田県内の合板製造工場で出火し、工場約18,000m2を焼損した火災に関して、現地消防本部の依頼により、火災原因調査を行った。
平成28年5月に三重県内の伊勢志摩サミット開催地域に入るためのチェックポイントにおいて、手荷物検査のためのX線検査装置から発生した火災では、現地消防本部の鑑識支援の依頼を受け、サミット期間内であるため即時調査官を派遣し、焼損物件の鑑識作業を実施した。
平成28年6月に神奈川県内の原油を貯蔵している49,000kl屋外タンク浮き屋根上部で出火したもの。出火当時は定期点検作業中であり、現地消防本部の依頼により出火原因についての調査を行った。
平成28年10月に静岡県内で発生したカーボン電極製造工場の火災(死者1人)において、現地消防本部の依頼により出火原因についての調査を行った。
平成29年1月18日に和歌山県で原油を貯蔵している約85,000kl屋外タンクで、タンク内部から出火した。発災当時はスラッジ除去作業を行っているところであり、現地消防本部の依頼により出火原因について調査を行った。
平成29年1月22日に和歌山県で重質油からワックスを取り除くプラントの一部から出火し近隣に避難指示が出された火災で、消防庁長官に対する現地消防本部からの依頼により原因調査を行った。
平成29年2月16日に埼玉県内の延べ床面積72,000m2の大型物流倉庫において火災が発生し、12日間にわたり延焼し、45,000m2が焼損したもの。この火災について、消防庁長官自らの判断による火災原因調査を行い、11日間延べ127人を投入して見分に当たった。

イ 火災原因調査及び危険物流出等の事故原因調査の高度化に向けた取組
近年の火災・爆発事故は、グループホームや個室ビデオ店のような新しい使用形態の施設での火災や、ごみをリサイクルして燃料を製造する施設での火災、あるいは、機器の洗浄を行うなどの非定常作業時の火災、燃焼機器、自動車などの製品の火災など、複雑・多様化している。また、石油類等を貯蔵し、取り扱う危険物施設での危険物流出等の事故や火災発生件数は増加傾向にあり、危険物施設の安全対策上問題となっている。
このような火災・事故を詳細に調査し、原因を究明することは、火災・事故の予防対策を考える上で必要不可欠であり、そのためには、調査用資機材の高度化や科学技術の高度利用が必要である。
このため消防研究センターでは、走査型電子顕微鏡、デジタルマイクロスコープ、X線透過装置、ガスクロマトグラフ質量分析計、フーリエ変換型赤外分光光度計、X線回折装置などの調査用の分析機器をはじめとして、研究用の分析機器も含めて、観察する試料や状況に応じて使用する機器を選択し、火災や危険物流出等事故の原因調査を行っている。さらに、従来の研究や、調査から得られた知見を取り入れ、更なる原因調査の高度化に向けた取り組みを行っている。
また、消防法改正により、平成25年4月から、消防本部は火災の原因調査のため火災の原因であると疑われる製品の製造業者等に対して資料提出等を命ずることができることとなった。消防本部の依頼を受け消防研究センターで実施する鑑識・鑑定では、電気用品、燃焼機器、自動車などの製品に関するものが増えており、これらの火災原因調査に関する消防本部からの問合せにも随時対応しており、消防本部の火災原因調査の支援のため、設備や体制の整備を図っていくこととしている。
消防研究センターでは、高度な分析機器を積載した機動鑑識車を整備しており、火災や危険物流出等事故の現場で迅速に高度な調査活動が行えるようにするとともに、鑑識・鑑定の支援においても活用している。

*1 鑑識:火災の原因判定のため具体的な事実関係を明らかにすること
*2 鑑定:科学的手法により、必要な試験及び実験を行い、火災の原因判定のための資料を得ること
*3 平成29年度分は、平成29年8月31日現在

(2)災害・事故への対応

消防研究センターでは、火災原因調査及び危険物流出等の事故原因調査に加え、災害・事故における消防活動において専門的知識が必要となった場合には、職員を現地に派遣し、必要に応じて助言を行うなど消防活動に対する技術的支援も行っている。また、消防防災の施策や研究開発の実施・推進にとって重要な災害・事故が発生した際にも、現地に職員を派遣するなどして、被害調査や情報収集などを行っている。
災害・事故における消防活動に対する技術的支援としては、平成29年5月に福岡県嘉麻市産業廃棄物処理場火災において、職員を現地に派遣し、火災現場を確認するなどして有効な消防活動に関する技術的助言を行った。
研究開発に係る災害・事故の調査としては、平成28年12月に新潟県糸魚川市大規模火災において、現地における延焼状況調査等を実施し、調査結果に基づく分析を行い、市街地大火の際の消防戦術をより効果的に行う方策の検討や、飛火火災と延焼シミュレーションの研究開発にその結果を活用している。

関連リンク

平成29年版 消防白書(PDF版)
平成29年版 消防白書(PDF版) 平成29年版 消防白書(一式)  はじめに  特集1 平成29年7月九州北部豪雨の被害と対応  特集2 糸魚川市大規模火災を踏まえた今後の消防のあり方  特集3 埼玉県三芳町倉庫火災を踏まえた対応  特集4 消防の...
はじめに
はじめに 昭和23年に消防組織法が施行され、市町村消防を原則とする我が国の自治体消防制度が誕生してから、平成30年3月には70年を迎えます。この間、関係者の努力の積重ねにより消防制度や施策、消防防災施設等の充実強化が図られ、火災予防・消火、救急、救助はもとより、自然災害への対応や国民保護まで広範囲に...
1.災害の概要
特集1 平成29年7月九州北部豪雨の被害と対応 1.災害の概要 (1)気象の状況 平成29年6月30日から7月4日にかけて、梅雨前線が北陸地方や東北地方に停滞し、その後ゆっくり南下して、7月5日から10日にかけては朝鮮半島付近から西日本に停滞した。 また、7月2日9時に沖縄の南で発生した台風第3号は...
2.政府・消防庁・消防機関等の活動
2.政府・消防庁・消防機関等の活動 (1)政府の活動 内閣官房は、情報の集約、内閣総理大臣等への報告、関係省庁との連絡調整を集中的に行うため、7月3日16時46分に総理大臣官邸に情報連絡室を設置した。7月5日17時51分に福岡県に大雨特別警報が発表され、予想されるその後の気象状況により、甚大な被害が...