平成30年版 消防白書

[風水害対策の現況]

1.風水害対策の概要

梅雨前線の影響による大雨や台風の日本列島への接近・上陸は、しばしば日本列島に大きな被害をもたらしている。また近年は、短時間強雨の回数が増加傾向にあり、短時間で局地的に非常に激しい雨が降ることにより、中小河川の急な増水が引き起こされ、被害を生じさせる事例が多く発生しているほか、地下空間やアンダーパス*1の浸水等による被害も発生している。
洪水、土砂災害、高潮、竜巻等突風など様々な態様の風水害に対し、万全の対策がとられる必要がある。特に、避難勧告等の具体的な発令基準の整備、要配慮者*2・避難行動要支援者*3対策は、災害による人的被害を防ぐための対策として非常に重要であり、早急な体制整備が必要である。
なお、出水期前の平成30年5月には、中央防災会議会長から都道府県防災会議会長に対し、主に以下の点に留意して防災態勢の一層の強化を図ることを要請するとともに、管内市町村防災会議への周知を依頼した。

〔1〕災害の発生を未然に防止するため、防災事務に従事する者の安全確保にも留意した上で、職員の参集や災害対策本部の設置等適切な災害即応態勢の確保を図り、関係機関との緊密な連携の下に、危険箇所等の巡視・点検の徹底、関係機関から市町村に対する助言、災害対策本部における機能の維持、非常電源の確保(浸水対策や十分な燃料の確保を含む)等の取組について万全を期すること。

〔2〕市町村は、関係機関の支援を受けながら、具体的でわかりやすい避難勧告等の発令基準や発令区域を設定し、事前に発令区域や発令のタイミング等を住民に周知すること。特に、土砂災害は、予測が困難で命を脅かすことが多いことから、土砂災害警戒情報が発表された場合は、土砂災害に関するメッシュ情報において、危険度が高まっているメッシュと重なった土砂災害警戒区域・危険箇所等に直ちに避難勧告等を発令することを基本とすること。また、その他洪水予報河川や水位周知河川に比べて得られる情報が少ない洪水予報河川・水位周知河川以外の河川等についても、命の危険を及ぼすと判断したものについては避難勧告等の発令基準を策定すること。

〔3〕市町村は、避難経路の安全性や住民が安全に避難できる時間等も考慮した上で、災害の種別毎に指定緊急避難場所を確保するとともに、指定緊急避難場所を確保することが困難である場合には、指定緊急避難場所以外の比較的安全な避難場所を確保することや自主防災組織等が地域内で比較的安全な施設等を近隣の安全な場所として自主的に設定することに対して助言すること等により、住民の居住地近隣に避難場所を確保することについても検討すること。また、都道府県、関係機関及び市町村が指定緊急避難場所の表示等を新設・更新する際は、当該避難場所が対応している災害種別が一目でわかるよう、平成28年3月に日本工業規格に定められた「災害種別図記号(JIS Z8210)」及び「災害種別避難誘導標識システム(JIS Z9098)」に基づく表示に努めること。

〔4〕避難勧告等に係る本庁と行政区・支所との間における責任区分や発令権者を明確化すること。時機を逸することなく適切に避難勧告等を発令・伝達できるよう万全の体制を確保すること。また、避難のためのリードタイムがなく、危険が切迫している状況にあっては、指定緊急避難場所等開設前であってもちゅうちょなく避難勧告等を発令すること。

〔5〕市町村は、情報が伝わりにくい要配慮者に対しても避難勧告等の情報が確実に伝達されるよう適切な措置を講ずるとともに、避難行動要支援者名簿に係る名簿情報の避難支援等関係者への提供等を推進すること。さらに、着実な情報伝達及び早い段階での避難の促進に努めること。

〔6〕要配慮者の避難を考慮し、市町村への防災情報の提供を早期に行うとともに、要配慮者利用施設管理者等へ災害計画の作成や避難訓練の実施を徹底すること。また、市町村が避難訓練の実施状況について確認するとともに、情報伝達体制を定めておくこと。

〔7〕災害時にちゅうちょなく避難勧告等を発令・伝達できるようにするとともに、住民自身が適切に避難行動をとることができるようにするため、地域の実情に応じた災害を想定した避難勧告等の発令・伝達、避難判断のための訓練を出水期前に実施するよう努めること。

〔8〕被災した市町村は様々な主体から多数の応援の申出がなされると同時に応援を要請するようになることから、それらの応援を円滑かつ効果的に活用するため、市町村は受入れ体制の確保に努め、都道府県は受援調整等について積極的な支援に努めること。

〔9〕災害復旧事業施工中の箇所について、再度の災害発生及び復旧作業中の事故等を防止するため、気象情報等について留意しつつ警戒監視を行う等、適切な措置を講ずること。

〔10〕市町村は、「防災・危機管理セルフチェック項目」等を活用し、災害対応のあり方について職員の理解を深めるとともに、自己点検を通じて災害対応能力の向上を図ること。

*1 アンダーパス:交差する鉄道や他の道路などの下を通過するために掘り下げられている道路などの部分をいう。周囲の地面よりも低くなっているため、大雨の際に雨水が集中しやすい構造となっている。
*2 要配慮者:高齢者、障害者、乳幼児その他の特に配慮を要する者
*3 避難行動要支援者:要配慮者のうち、災害が発生し、又は災害が発生するおそれがある場合に自ら避難することが困難な者であって、その円滑かつ迅速な避難の確保を図るため特に支援を要する者

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