2.消防団の充実強化施策
平成25年12月に成立した消防団等充実強化法(特集5-6図)や平成27年12月22日に第27次消防審議会から出された「消防団を中核とした地域防災力の充実強化の在り方に関する答申」を踏まえ、消防庁では、消防団を中核とした地域防災力の充実強化について取り組んでいる。
特集5-6図 消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律概要
1.目的・基本理念等
◯消防団を中核とした地域防災力の充実強化を図り、もって住民の安全の確保に資することを目的とし、地域防災力の充実強化は、消防団の強化を図ること等により地域における防災体制の強化を図ることを旨として実施(1~3条)
◯地域防災力の充実強化を図る国及び地方公共団体の責務(4条)
◯住民に対する防災活動への参加に係る努力義務(5条)
◯地域防災力の充実強化に関する関係者相互の連絡及び協力義務(6条)
◯地域防災力の充実強化に関する計画・具体的な事業計画の策定義務(7条)
2.基本的施策要
(1)消防団の強化
◯消防団を「将来にわたり地域防災力の中核として欠くことのできない代替性のない存在」と規定(8条)
◯消防団への加入の促進
・意識の啓発(9条)
・公務員の消防団員との兼職に関する特例(10条)
・事業者・大学等の協力(11・12条)
◯消防団の活動の充実強化のための施策
・消防団員の処遇の改善(13条)
・消防団の装備の改善・相互応援の充実(14・15条)
・消防団員の教育訓練の改善・標準化、資格制度の創設(16条)
(2)地域における防災体制の強化
◯市町村による防災に関する指導者の確保・養成・資質の向上、必要な資機材の確保等(17条)
◯自主防災組織等の教育訓練において消防団が指導的役割を担うための市町村による措置(18条)
◯自主防災組織等に対する援助(19条・20条)
◯学校教育・社会教育における防災学習の振興(21条)
(1)消防団への加入促進
ア 事業者の協力
被雇用者である消防団員の割合の増加に伴い、消防団員を雇用する事業所の消防団活動への理解と協力を得ることが不可欠となっている。そのため、平成18年度から、「消防団協力事業所表示制度」の普及及び地方公共団体による事業所への支援策の導入促進を図っている(特集5-7図)。
特集5-7図 消防団協力事業所表示制度
画像をクリック(タップ)すると拡大表示します
また、事業者が、特別の休暇制度を設けて勤務時間中の消防団活動を可能としたり、従業員の入団を積極的に推進したりすることなどは、地域防災力の充実強化に資すると同時に、地域社会に貢献し、ひいては事業所の信頼性の向上にもつながるものである。そこで、平成27年に加え、平成30年においても、一般社団法人日本経済団体連合会等の経済団体に対し、総務大臣から書簡を送付し、消防団活動に対する事業者の理解と協力を呼び掛けるとともに、当該団体の会員企業の従業員に対する消防団への加入促進及び勤務の免除やボランティア休暇の取得等、消防団活動に対する配慮を行うよう依頼した。総務大臣名での書簡を送付した後も、機会を捉えて、様々な経済団体や企業に対し消防団への協力を依頼している。
日本郵便株式会社に対しては、平成25年12月13日及び29年2月22日に、消防団活動への参加促進を依頼するとともに、各地方公共団体に対しても、平成26年1月24日、郵便局への働き掛けを依頼した。
平成27年9月8日には、「総務省消防庁消防団協力事業所*2」のうち、従業員が消防団に多数加入している5つの事業所を対象として、総務大臣から感謝状を授与し、あわせて、総務大臣と当該5つの事業所及び5つの経済団体との意見交換会を実施した。
また、消防団活動へ特に深い理解や協力を示すことにより、地域防災力の向上に寄与している事業所等及び消防団員確保に貢献している事業所等に対し、平成30年3月7日、消防庁長官が表彰を行った。
イ 女性消防団員の活躍推進に向けた取組
(ア)消防団への加入促進
まず、平成25年11月8日、26年4月25日、27年2月13日及び30年1月19日の4度にわたり、総務大臣から全ての都道府県知事及び市町村長に対し、書簡を送付し、女性の消防団への加入促進に向けた積極的な取組について依頼した。
また、平成29年10月25日、前年と比較して女性消防団員数が相当数増加した8つの消防団に対して、総務大臣から感謝状を授与した。
さらに、女性消防団員を増加させるため、消防庁では、平成27年度から、子育て期の女性消防団員等をサポートする取組など、地方公共団体が企業や大学等と連携して実施する事業への支援やこれらの取組の普及促進を図っている。
あわせて、消防庁ホームページ内に女性の消防団への加入促進を図るためのポータルサイト(特集5-8図)を開設し、女性消防団員の活躍の様子や活動事例等を掲載している。
特集5-8図 消防団オフィシャルウェブサイト内「女性消防団員コーナー」
画像をクリック(タップ)すると拡大表示します
(イ)全国女性消防操法大会の開催
平成29年9月30日、女性消防団員等の消防技術の向上と士気の高揚を図るため、秋田県秋田市において「第23回全国女性消防操法大会」を開催した。
(ウ)全国女性消防団員活性化大会の開催
女性消防団員の活動をより一層、活性化させることを目的として、「全国女性消防団員活性化大会」を開催している。全国の女性消防団員が一堂に会し、日頃の活動成果を紹介するとともに、意見交換を通じて連携を深めている。
平成30年11月9日、滋賀県大津市において第24回大会を開催した。
ウ 大学等の協力
平成25年12月19日、文部科学省と連携し、大学等に対し、消防団活動のための適切な修学上の配慮等を依頼した。また、文部科学省と協力し、全国国立大学学生指導担当副学長協議会に消防庁職員を派遣するなど、機会を捉えて積極的な働き掛けを行ってきた。
あわせて、平成28年11月28日には、文部科学省及び各国公私立大学長あてに、大学生の消防団への加入促進等について通知を発出した。その通知において、課外活動等の一つとして消防団活動を推奨するなど、学生の消防団活動への一層の理解促進や、学生が消防団活動に参加しやすい環境づくりに配慮するよう依頼した。
加えて、消防団員入団促進キャンペーンの実施に併せて、大学構内向け消防団員募集広告の掲示やポスターの配布等により、学生への理解促進を図った。
エ 学生消防団活動認証制度
消防団に所属する大学生、大学院生又は専門学校生に対する就職活動支援の一環として、平成26年11月から「学生消防団活動認証制度」の普及を図っている。この制度は、真摯かつ継続的に消防団活動に取り組み、顕著な実績を収め、地域社会に多大な貢献をした大学生等に対し、市町村がその実績を認証するものである。
平成30年4月1日現在、当該制度を導入している市町村の数は266となっており、引き続き導入に向けた働き掛けを行っている(特集5-9図)。
特集5-9図 学生消防団活動認証制度
画像をクリック(タップ)すると拡大表示します
オ 機能別団員制度・機能別分団制度等の導入
市町村が、全ての災害・訓練に出動する消防団員を基本としつつ、地域の実情に応じて消防団の組織・体制を整備することができるよう、市町村において次の制度の選択を可能とする方策を講じている。なお、消防団員の条例上の採用要件として年齢・居住地等を制限している場合は、当該条例を見直すことにより、幅広い層の人材が入団できる環境の整備を図ることが必要である。
(ア)機能別団員制度
入団時に決めた特定の活動・役割に参加する制度である。なお、機能別団員制度の1つである「大規模災害団員」制度については、(5)に記載している。
(イ)機能別分団制度
特定の活動・役割を実施する分団・部を設置し、所属する消防団員が当該活動を実施する制度である。
(ウ)休団制度
消防団員が出張、育児等で長期間にわたり活動することができない場合、消防団員の身分を保持したまま一定の期間、消防団員としての活動の休止を消防団長が承認する制度である。
カ 国家公務員の加入促進
消防団等充実強化法第10条において、公務員の消防団員との兼職に関する特例規定が設けられた。この規定により、国家公務員の消防団への加入を容易にする環境整備がなされたことを踏まえ、平成26年6月27日、職員の消防団への加入を促進するよう、各府省に対し働き掛けを行った。
キ 地方公共団体に対する働き掛け
消防団等充実強化法の成立に伴い、平成25年12月25日、各地方公共団体に対し、地方公務員が消防団員となる意義、報酬の取扱い等を示した通知を発出し、地方公務員の加入促進について働き掛けた。さらに、平成25年11月8日、26年4月25日、27年2月13日及び30年1月19日の4度にわたり、総務大臣から全ての都道府県知事及び市町村長あてに書簡を送付し、地方公務員をはじめとした消防団員確保に向けた一層の取組のほか、消防団員の処遇改善等を依頼した。
また、平成29年7月28日、各地方公共団体に対し、学生、女性、被雇用者及び公務員の消防団への加入促進について、それぞれの都道府県・市町村が取り組むべきことについて明示した通知を発出した。さらに、首長が参加する会議に消防庁職員を派遣するなど、機会を捉えて積極的な働き掛けを行った。
ク 先進事例の紹介
消防団への加入促進に係る地方公共団体や消防団における取組について情報収集を行い、消防庁ホームページ等を通じて対外的な紹介を行っている。
ケ 総務大臣からの感謝状の授与
平成29年10月25日、前年と比較して消防団員数等が相当数増加した28の消防団等に対して、総務大臣から感謝状を授与した。
コ 加入促進のための先進的な取組の支援等
女性や若者をはじめとした消防団員を更に増加させるため、消防庁として、平成27年度から、地方公共団体が企業や大学等と連携して、女性や大学生等の消防団への加入促進を図る取組を支援するとともに、女性消防団員のいない市町村に対しては、入団に向けた積極的な取組を求めている。
*2 消防庁長官が消防団活動に協力していると認め、総務省消防庁消防団協力事業所表示証を交付した事業所等をいう。
(2)消防団員の処遇の改善*3
ア 退職報償金の引上げ
平成26年4月1日、「消防団員等公務災害補償等責任共済等に関する法律施行令の一部を改正する政令」(平成26年政令第56号)の施行に伴い、消防団員に支給される退職報償金について、全階級で一律5万円(最低支給額20万円)の引上げを行った。
イ 報酬及び出動手当の引上げ
消防団員の年額報酬及び出動手当について、活動内容に応じた適切な支給を各市町村に働き掛けるとともに、特に支給額の低い市町村に対して引上げを要請してきている。
*3 第2章第2節を参照
(3)装備等の充実強化
ア 装備の基準の改正
平成26年2月7日、東日本大震災等の教訓を踏まえ、「消防団の装備の基準」を改正し、ライフジャケット等の安全確保のための装備や救助活動用資機材の充実を図るとともに、平成26年度に地方交付税措置を大幅に拡充した。
イ 救助資機材搭載型消防ポンプ自動車等の配備
平成29年度補正予算等により、消防団及び消防学校に対し、救助資機材を搭載した消防ポンプ自動車等を配備し、訓練を支援している。
ウ 情報収集活動用資機材及び小型動力ポンプの整備
平成29年度当初予算及び平成30年度当初予算により、消防学校に対し、災害現場の状況を速やかに把握するための情報収集活動用資機材(オフロードバイク、ドローン)や、女性・若者でも扱いやすい小型動力ポンプを配備し、訓練を支援している。
エ 消防団拠点施設及び地域防災拠点施設の整備
各市町村が消防団拠点施設や地域防災拠点施設において標準的に備えることが必要な施設・機能(研修室、資機材の収納スペース、男女別の更衣室・トイレ等)について、地方財政措置等を活用しながら整備することを促進している。
(4)教育・訓練の充実・標準化
平成26年3月28日、消防団の現場のリーダーの教育訓練の充実を図るため、「消防学校の教育訓練の基準」を改正し、消防団員に対する幹部教育のうち、中級幹部科を指揮幹部科(現場指揮課程及び分団指揮課程)として再編した。
また、当該改正を踏まえ、火災防ぎょ、救助救命、避難誘導等における的確な現場指揮、安全管理の知識及び技術の向上や、自主防災組織等に対する指導・育成を行うに当たり必要な消防団員への教育を行うための教材を作成し、平成26年度から消防学校に配布している。
(5)消防団員の確保・充実に向けた更なる取組 ~「消防団員の確保方策等に関する検討会」の開催~
多様化・増加する消防団の役割に対応するためには消防団員の確保等が必要となることから、消防庁では、平成29年10月に「消防団員の確保方策等に関する検討会」を開催した。4回にわたり、「大規模災害団員*4」の導入促進をはじめとする消防団の役割の多様化への対応、多様な人材の活用に向けた工夫、消防団員の活動環境の整備等について検討し、同検討会における報告書を取りまとめた(特集5-10図)。
当該報告書の内容等を踏まえ、消防団員の確保・充実に向け、「大規模災害団員」制度の浸透等の取組を促進している。平成30年1月19日には、総務大臣から全ての都道府県知事及び市町村長あてに書簡を送付するとともに各地方公共団体に対し、「大規模災害団員」の積極的な導入など、消防団員の確保等に向けた重点取組事項について通知を発出した。当該通知において、「大規模災害団員」の活動の具体例として、大規模災害時に新たに発生する避難誘導・安否確認や避難所運営支援等の活動、事業所等で所有する重機等の資機材を、当該事業所等の従業員等が活用して行う道路啓開活動などを示している。
特集5-10図 「消防団員の確保方策等に関する検討会」報告書のポイント
画像をクリック(タップ)すると拡大表示します
*4 機能別団員の一種であり、大規模災害時に限定して出動し基本団員(*5を参照)だけでは対応できない活動や事業所等で所有する資機材を用いた活動を行う消防団員をいう。
*5 災害の防除、被害軽減等に向けた活動のすべてを遂行する消防団員をいう。
(6)その他消防団の充実強化施策
ア 全国消防団員意見発表会の実施等
平成30年3月7日、地域における活動を推進するとともに、消防団員の士気の高揚を図るため、全国各地で活躍する消防団員による意見発表会を開催した。
また、地域に密着した模範となる活動を行っている消防団や、消防団員の確保について特に力を入れている消防団、大規模災害時等において顕著な活動を行った消防団に対する表彰を行い、その取組内容を取りまとめ、全国に発信している。
イ 消防団員入団促進キャンペーンの全国展開
消防団員の退団が毎年3月末から4月にかけて多く、退団に伴う消防団員の確保の必要性があることを踏まえ、毎年1月から3月までを「消防団員入団促進キャンペーン」期間として、入団促進に向けた全国的な広報等を重点的に行っている。具体的には、消防団員募集ポスター(特集5-11図)やリーフレット(特集5-12図)の作成・配布、就職情報誌やWEBメディアに記事広告を掲載するなど、広報の全国的な展開を図っている。
特集5-11図 消防団員募集ポスター
画像をクリック(タップ)すると拡大表示します
特集5-12図 消防団員募集リーフレット
画像をクリック(タップ)すると拡大表示します
ウ 消防団活動のPR
消防庁における最新施策や最新情報のほか、各消防団における取組事例等を掲載し(特集5-13図)、消防団活動や加入促進のPRに努めている。
(URL:http://www.fdma.go.jp/syobodan/)
特集5-13図 消防団オフィシャルウェブサイト
画像をクリック(タップ)すると拡大表示します
エ 消防団等充実強化アドバイザーの派遣
平成19年4月から、消防団の充実強化等に関する豊富な知識や経験を有する消防職団員等を、「消防団等充実強化アドバイザー」として地方公共団体等に派遣し、消防団への加入促進、消防団の充実強化等のための具体的な助言や情報提供を行っている。
平成30年4月1日現在、25人のアドバイザー(うち女性8人)が全国で活躍している。
オ 全国消防操法大会の開催
平成30年10月19日、消防団員の消防技術の向上と士気の高揚を図るため、富山県富山市において「第26回全国消防操法大会」を開催した。
カ 地域防災力充実強化大会の開催
消防団等充実強化法の成立等を踏まえ、地域防災力の充実強化を図るため、平成30年11月13日に徳島県で「地域防災力充実強化大会」を開催した。
今後とも、地域防災力の充実強化に向けた地域での気運の醸成を図っていく。
キ 準中型自動車免許の新設に伴う対応
道路交通法(昭和35年法律第105号)の改正により、平成29年3月12日から、新たな自動車の種類として、車両総重量3.5トン以上7.5トン未満の範囲を準中型自動車とし、これに対応する免許として準中型自動車免許(以下「準中型免許」という。)が新設されるとともに、同日以後に取得した普通自動車免許で運転できる自動車の車両総重量は3.5トン未満とされた。これに伴い、車両総重量3.5トン以上の消防自動車を所有している消防団において、将来的に当該自動車を運転する消防団員の確保が課題となる。
そこで、消防庁では、平成30年1月25日、各地方公共団体に対し、消防団で所有する消防自動車に係る準中型免許の新設に伴う対応について通知を発出した。具体的には、消防団員の準中型免許の取得に係る公費負担制度の創設と、改正道路交通法施行後の普通自動車免許で運転できる消防自動車の活用を依頼した。また、消防庁としても、平成30年度から、当該公費負担制度を設けた地方公共団体に対し特別交付税による地方財政措置を講じている。今後とも、消防団員の円滑な準中型免許の取得に向けた取組等を進めていく。