令和6年版 消防白書

2.近年における緊急消防援助隊の活動

緊急消防援助隊は、平成7年の創設以降、平成8年12月に新潟県と長野県の県境付近で発生した蒲原沢土石流災害への出動を皮切りに、地震、火災、土砂・風水害のほか、噴火や列車事故などのあらゆる種別の災害に出動し、多くの大規模災害において人命救助活動等に多大なる成果を上げてきた。特に平成23年3月11日に発生し、未曾有の被害をもたらした東日本大震災においては、創設以降初となる消防庁長官の指示により、緊急消防援助隊が延べ3万1,166隊、延べ約11万人が活動し、88日間にわたり、消火、救急、救助等を効果的に実施した。
近年においても、大規模な地震災害や激甚化・頻発化する土砂・風水害などに迅速かつ的確に対応している。

(1)地震災害

ア 平成28年熊本地震

平成28年4月14日21時26分に熊本県熊本地方を震源とする最大震度7の地震が発生し、その後、4月16日1時25分にも同地域を震源とする最大震度7の地震が発生し、死者211人、重軽傷者2,746人の被害をもたらした。消防庁長官による出動の求めを受けた20都府県の緊急消防援助隊が出動し、余震が頻発するなかで、捜索・救助活動等に従事し、熊本県内で86人を救出した。

イ 平成30年北海道胆振東部地震

平成30年9月6日3時7分、北海道胆振地方中東部において、厚真町で震度7、安平町とむかわ町で震度6強、札幌市東区、千歳市、日高町及び平取町で震度6弱を観測したほか、北海道の広い範囲において強い揺れを観測し、死者42人、重軽傷者762人の被害をもたらした。消防庁長官による出動の求めを受けた12都道県の緊急消防援助隊が出動し、本州から陸路による出動ができなかったため、民間フェリーや関係機関の輸送機等を活用し被災地へ向けて出動し、重機等による土砂等の排除を行いながら、安否不明者の捜索・救助活動を行うとともに、航空小隊による空からの捜索・救助活動や情報収集等の活動により、5日間で24人を救出した。

ウ 令和6年能登半島地震

令和6年1月1日16時10分に石川県能登地方において、志賀町及び輪島市で最大震度7の地震が発生し、死者・行方不明者450人、重軽傷者1,344人の被害をもたらした(令和6年11月21日現在)。発災後、直ちに消防庁長官による出動の求めを行い(後に出動指示に切替)、21都府県の緊急消防援助隊が出動した。道路損壊や土砂崩落等が発生した状況において、比較的小型な一部の消防車両で被災地へ向かうとともに、関係機関とも連携し、空路・海路による進出など、様々な手段を尽くして被災地入りし、捜索・救助活動を中心として、孤立地域からの救助や物資搬送、病院や高齢者福祉施設からの転院搬送、被災消防本部の業務支援など、被災地の様々なニーズに応えた活動に従事し、緊急消防援助隊と地元消防本部等により、64日間で295人を救出した。

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重機を活用した捜索・救助活動の様子(平成28年熊本地震)

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民間フェリーを活用した部隊輸送の様子(平成30年北海道胆振東部地震)

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捜索・救助活動の様子(令和6年能登半島地震)

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自衛隊輸送機による部隊輸送の様子(令和6年能登半島地震)

(2)土砂・風水害

ア 平成30年7月豪雨

西日本を中心に全国的に広い範囲で発生した大雨により、河川の氾濫、浸水、土砂災害等が発生し、死者237人、重軽傷者432人の被害をもたらした。災害の発生後、岡山県、広島県、愛媛県及び高知県知事からの要請に基づき、消防庁長官による出動の指示を受けた23都府県の緊急消防援助隊が出動した。河川氾濫による浸水地域や土砂が堆積した住宅地等で救命ボート、重機等を活用し、孤立者の救助や安否不明者の捜索を行うとともに、航空小隊による情報収集及び孤立地域からの救助活動により、26日間で397人を救出した。

イ 令和元年東日本台風(台風第19号)

令和元年東日本台風(台風第19号)の影響等による大雨で、各地で河川の氾濫や決壊、浸水、土砂災害等が発生し、死者91人、重軽傷者376人の被害をもたらした。災害の発生後、宮城県、福島県及び長野県知事からの要請に基づき、消防庁長官による出動の指示を受けた14都道県の緊急消防援助隊が出動した。河川氾濫による浸水地域や土砂崩れによって押し流された住宅地等で救命ボート、重機等を活用し、孤立者の救助や安否不明者の捜索・救助活動に従事し、6日間で171人を救出した。

ウ 静岡県熱海市土石流災害

令和3年7月3日、静岡県熱海市伊豆山地区において土石流が発生し、死者28人、重軽傷者4人の被害をもたらした。災害の発生後、静岡県知事からの要請に基づき、消防庁長官による出動の指示を受けた10都県の緊急消防援助隊が出動した。重機等を活用し、広範囲に堆積した土石流による泥や倒壊家屋のがれき等を除去しながら、安否不明者の捜索・救助活動に従事し、24日間で49人を救助した

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救命ボートを活用した救助活動の様子(令和元年東日本台風(台風第19号))

(3)その他の災害

ア 平成26年御嶽山噴火災害

平成26年9月27日午前11時52分頃、御嶽山で噴火が発生し、死者58人、重軽傷者69人の被害をもたらした。長野県知事の要請に基づく消防庁長官による出動の求めを受け、火山ガス検知等の資機材を保有する6都県の高度救助隊及び山岳救助隊が出動した。登山道が急峻な上、粘土質となった火山灰等は足場が悪く、火山性ガスが発生した場合には緊急退避を余儀なくされる等、標高3,000メートルの厳しい活動環境のもとで21日間にわたり6都県547隊2,171人が出動し、捜索・救助活動を行った。

イ 平成29年栃木県那須町雪崩事故

栃木県那須町のスキー場において、高校生等が雪崩に巻き込まれる事故が発生し、死者8人、重軽傷者40人の被害をもたらした。栃木県知事からの要請に基づく消防庁長官による出動の求めを受け、埼玉県の緊急消防援助隊が出動した。消防活動用ドローンによる上空からの事故現場全体の状況把握や活動現場の確認等に従事した。

ウ 令和3年栃木県足利市林野火災

栃木県足利市西宮町地内にある両崖山山頂付近の山林から出火した林野火災により、約167haが焼損し、市街地の近くまで延焼が広がった。栃木県知事からの要請に基づく消防庁長官による出動の求めを受けた7都県の緊急消防援助隊が出動し、空中消火活動や活動隊の指揮支援活動に従事した。

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消防防災ヘリコプターによる空中消火の様子(令和3年栃木県足利市林野火災)

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